不動産へ行く前に、

お互いネットでよさそうな物件を探してピックアップしておいた。

それで事前に不動産に連絡し、いくつか見せてもらうことになっていた。


一番いいなと思っていたのは、やはり既に他の人に契約されていた。

人気があるものは、ネットで掲載される前に、

実際に不動産に紹介されて、目をつけて契約の手前になってて

掲載される頃にはもう契約終了になっていた、というパターンがあるとのことだ。

その他のものをいくつか見せてもらったが、私も彼もどうもピンとこなかった。

不動産の人には、条件を伝えておいたので、今後、その条件にあったものが出ると、

ネットに掲載される前に連絡をくれることになった。


夕食までにまだ時間があり、

彼が、二つ先の駅に新築マンションのモデルルーム見学会があるのを

ネットで見たから、今からそこへ見に行こう、と提案した。

行く途中、教会の前を通ると、結婚式をやっているらしかった。

新郎新婦を乗せたオープンカーが通り、

彼が「ちょっと見よう」と言って立ち止まった。

自分は出席しなかったそうだが、彼の友達が昔、ここで結婚式を挙げたとのこと。

興味深そうに新郎新婦を眺める彼を見て、

どういうつもりで見ているのか、気になった。

昔、自分が挙げた結婚式を思い出しているのだろうか。

私との結婚式は挙げられない、とわかっていたので、何だか少し悲しくなった。

私は式は望まない、入籍だけでいいと思っていて、彼には何も言わなかったのだが、

彼は「離婚したこと、恥ずかしくて友達や従業員にも言っていない」

「結婚を祝ってくれた友達には離婚したことが言えない」などと言っているのを聞いて

私との式はできないのだな、と分かっていた。

でも、祝福されず、隠れて結婚するということが、正直つらかった。


その後、新築マンションを見たが、やはり新築はよかった。

彼と、うわあ、いいよね~、と連発していた。

不動産に見せてもらったのは中古で、それと比べると

どうしても新築がいい、と思ってしまう。

資産価値もあり、職場への通勤にも便利ということで、

私たちは、駅から徒歩5分以内で、と条件を決めていたが、

その新築マンションは、駅から徒歩20分くらいだ。

にもかかわらず、彼は実際に見て、やはり新築がいい、と思ったようで

結構そのマンションに乗り気だった。

駅から近いものは、どうしても中古しかないのだ。

確かに実際に見てみると、新築がずっといい。

でも、駅から遠いと通勤に不便だ。

しかもこのマンション、私達が探していた駅よりもさらに二つほど、職場から先なのだ。

私名義でするのなら、専業主婦ではいけないし、

ただでさえ、仕事と家庭の両立はできるのか不安に思っていたのに。

アトピーが治ればまだいいのだが

こんな体で、ひどいときには仕事に集中できないほどだというのに。

心の中で、こんな心配をしていた。

もちろん、ここに決めたわけではないので、決めるときに彼とよく話し合おうと思った。


その日の夕食時、

彼はお酒のせいか、上機嫌だった。

新しい住まいで私との結婚生活を楽しみにしている様子だった。

隣の席に座っていた私の手をテーブルの下でそっと握った。

そして、私の左薬指を触り、

「ここに指輪をするんだよ」と言った。

もう、彼との結婚には何の障害もないのだ。

だが、心の奥底で、「本当に彼と結婚できるのだろうか」

という不安も少しあった。

私はもしかしたら、人が信じられないのかもしれない。

このときはアトピーで特に精神的に不安定だったというのもあったのだろうが、

こんな私をここまで想ってくれる人がいるなんて信じられない。

最後はうまくいかなくて、結局、結婚はできないってこともあるんじゃないか。そう思っていた。

嬉しいが、素直に喜べない。本当に損な性格だ。


その日、別れるとき

「家に着いたらメールして」と彼が言った。

帰る途中、彼からメールがきた。

「かえで、愛しているよ。気をつけて」

家に着いてメールすると、電話がかかってきた。

夜遅いし、さっきまで会っていたし、メールもくれたのに、

今日ぐらい電話しなくてもいいのに、そう思いつつ、

やはりうれしかった。

本当に彼は毎日電話を欠かさない。

たとえさっきまで会っていても。

だが、この日からたった数日で、

私たちの関係が大きく変わることになるとは

このときは、思ってもみなかった。