私のアトピーの調子があまりよくないので、
その日は私の家の近くの駅で、2時という中途半端な時間に待ち合わせだった。
場合によっては別れることになるかもしれないという思いもあり
私はいつものようには明るくふるまえなかった。
素直になれず、どこかで遠慮というか、彼の様子をみている、さぐっている、といったところか。
私たちはお茶しながら話した。
彼はメールで「精神的におかしくなっている」と言っていたが、
そうは見えなかった。
あれから1週間以上経っていたというのもあったのかもしれないが。
ハイテンション、とは決して言えなかったが、
笑顔で、落ち着いて話してくれた。
給料の話になった。
「私は今、仕事をしているけど、この業界、今とても悪いの。地震で学生数がぐっと減って閉校している学校も多くて。もともとこの業界って儲からない仕事で、金持ちが趣味で経営していることが多いって聞いた。また開校して最初の3年くらいは赤字っていうのが普通とも聞いた。うちの学校は開校してまだ2年経ってなくて、本当に少しづつ学生数が増えていっているから、経営者がいつ根をあげて閉めようっていうかわからない。今は経営母体の会社から赤字分を払っていっているけど。そういう業界っていうのは知っているから、いつ転職してもいいように、職場は横浜だけど、東京都内にも通いやすい今の家に引っ越したの。だからこの先どうなるかわからない」
「それは俺も同じだよ」
「でも私は今の仕事、好きだから、続けていきたいと思っている。それに、貯金はある」
給料については私が一方的に話し、彼はそれを聞くのみで、それについては私に何も聞かなかった。
「これからりょうさんは私と付き合いを続けていってもいいの?」
「かえではどうなの?」
「私はメールで伝えたとおり、これからも付き合いを続けていきたいと思っている」
「俺も、これで終わりっていうことはしたくない。
でも、正直言って、すぐに結婚は考えられなくなった。
かえでが、『結婚結婚って早すぎる』って言ってただろう?それがよくわかったよ。
好きな気持ちだけではできないってわかった」
「どうしてあのときは結婚をそんなに急いでいたの?」
「幸せになりたかったんだ。俺って寂しがり屋だから。
かえでを失いたくないって思って、給料のことは言えなかったんだ。何とかなるだろうと深く考えなかった」
「じゃ、これからもこのまま付き合いを続けていこう」
そして店を出た。
いつもなら、私がアトピーで調子がよくなくても、無理に会おうとしたり、
会うと、少しでも長く一緒にいようとする意志を見せていた。
帰りの電車も、一駅だけでも一緒にいたいと
わざわざ私の線に一緒に乗って帰ったりするほどだったのに、
調子が悪いんでしょう?と、早々と退散しようとする。
たった2時間程度のお茶だった。
何だか物足りなさ、寂しさを感じた。
せっかく会ったのに、もう帰るの?
そんな気持ちだった。
でも私は何も言えなかった。
駅の改札に入り、
「りょうさんの電車こっちでしょう?じゃ、ここで。私はちょっとこの駅ビルの中、歩いてみるから」
本当はもっと一緒にいたいのに、私は意地っ張りだ。
「帰らないの?じゃ、俺も付き合うよ」
「いいの?」
「うん、この後、特に用事もないし」
そう言って私の後について歩いてきた。
私はほとんど無言で歩いていた。
彼は私の後をくっついて歩く。
少し一緒に歩いたが、前みたいに心からラブラブっていうのではなく
何だかよそよそしい。
少しビルの中を歩いたが、いたたまれなくなって、
「じゃ、もういい、帰るから」
と言って別れた。
本当は彼に言ってほしかったのだ。
「このあと晩御飯でも食べていこう」
そして前みたいに楽しく話したかった。
でも前とは違った。
その日、まっすぐ家に帰る気になれず、
一人雨の中、寄り道をして帰った。
その日、やっぱり電話はなかった。
前は毎日欠かさず、会ったその日でさえも、電話を必ずくれたのに。
もう前とは違うんだ。
あれほど彼は結婚、結婚、と楽しみにしていたのに、
結婚が考えられなくなったとは、そういうことなのだ。
きっと、私への気持ちは、もう、なくなってしまったのだ。
そう思うと、涙が出てきた。