【登場人物】

・健司…父。段取りが遅い。

・麻衣…母。現実派。

・ユウ…小学生。状況を実況しがち。

・スタンド店員…笑顔で地獄を告げる人。

【場面】

11月末。天気予報に「明日から雪」の文字。

一家の車は、まだノーマルタイヤ。

麻衣「ねぇ、スタッドレス予約した?」

健司「……今からする」

麻衣「“今から”って、明日雪だよ?」

ユウ「パパの口ぐせランキング1位、“今からする”

【場面】

ガソリンスタンド。すでに大行列。

健司「え、なんでこんな混んでるの」

麻衣「みんな、あなたの“昨日”を今日やってるの」

(看板:本日タイヤ交換受付終了)

健司「……受付終了?」

ユウ「ゲームオーバーの音、今聞こえた」

健司「すみません! うち、今日だけ特別に…」

店員「申し訳ありません…本日、予約の方でいっぱいでして」

麻衣「予約、してません」

店員「ですよね…(察し)」

健司「じゃ、次の空きは?」

店員「えーと…最短で、来週の…水曜…」

麻衣「明日、雪だよ」

店員「はい。明日、雪ですね…」

(全員、同じ方向を見て静かにうなずく)

【場面】

車内。帰り道。

健司「…どうしよう」

麻衣「どうしようじゃなくて、どうするの」

ユウ「家族会議、開会!」

健司「案1:雪が降らないことを祈る」

麻衣「却下」

健司「案2:今日は徹夜で自分で交換」

麻衣「工具あるの?」

健司「……気合はある」

ユウ「気合は滑るよ」

健司「案3:明日は電車」

麻衣「それが正解に近い」

【ラスト】

夜。玄関にスタッドレスタイヤが4本並ぶ。

健司がタイヤを見つめている。

健司「……なんか、タイヤに怒られてる気がする」

麻衣「怒ってるんじゃない。“待ってた”の」

ユウ「タイヤ:『予約って知ってる?』」

(翌朝。外はうっすら白い)

健司「……電車、行こうか」

麻衣「うん。今日は“滑らない移動手段”で」

ユウ「パパ、来年は“10月に予約する”って言って!」

健司「言う!…今から言う!」

(新潟の冬は、タイヤより先に“段取り力”を試してくる。)


いかがでしたか?笑っていただけましたか?

「明日から雪」の一文だけで、町じゅうが同時にスタンドへ突撃し、結果“予約してない一家”が静かに詰む——

新潟の冬の入口で毎年発生する、段取り力テストでした。

パパの「今からする」は、たしかに言葉としては前向きなのに、

冬の新潟では“遅刻”とほぼ同義語になってしまうのが切ないところ。

そして子どもの実況が一番正確という、家庭内あるあるも添えました。

結局いちばん安全なのは、スタッドレスでも気合でもなく、

「今日は電車」という現実的な選択。

タイヤが玄関で並んで待っている光景って、

なんだか“反省文”みたいに見えるんですよね。

来年こそは、10月に予約。

……と、毎年みんな言ってる気がします。