【登場人物】
・タクミ(観光客。地図を“縮尺なし”で見るタイプ)
・アヤ(観光客。スケジュール詰め込み職人)
・シバタさん(地元民。優しく現実を告げる)
・駅のアナウンス(無慈悲に正確)
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① 新潟駅・みどりの窓口前(朝)
アヤ:(旅行プラン表を見て)よし!
午前:新潟市でカフェ→
昼:村上で鮭→
午後:上越で夕日→
夜:佐渡で星空→
タクミ:完璧だね。県内だし、移動ちょいちょいでしょ。
アヤ:そうそう。「同じ県」って実質「同じ町」みたいなもんよ。
タクミ:わかる。コンビニの隣のコンビニくらい。
(横でパンフを見ていたシバタさんが、静かに顔を上げる)
シバタさん:……観光ですか?
アヤ:はい!新潟って回りやすそうで!
シバタさん:(優しく)回れますよ。時間が3日あれば。
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② 新潟駅・改札前
タクミ:(スマホを操作)村上まで…電車で20分くらいかな?
アヤ:村上って新潟の上のほうでしょ?近い近い。
タクミ:ね。東京で言えば…品川から渋谷くらい?
アヤ:わかる!
(タクミ、Googleマップで検索して固まる)
タクミ:……え?
アヤ:どうしたの?
タクミ:(声が小さくなる)…1時間半。
アヤ:……え?
タクミ:1時間半。
アヤ:……“県内”で?
タクミ:……“県内”で。
(2人、同時にパンフレットを見直す)
アヤ:…新潟県、長い…?
タクミ:…新潟県、他の平均的な県の面積の何倍あるの?
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③ ベンチ(現実受け入れタイム)
シバタさん:(にこやかに)村上までなら、その間にね。
タクミ:はい…?
シバタさん:少なくてもおにぎり3個食べられます。
アヤ:3個!?
タクミ:1個じゃなくて!?
シバタさん:1個だと、まだ出発の余韻です。
アヤ:余韻って何!移動に余韻とかあるの!?
シバタさん:あります。新潟ですから。
(タクミ、さらに調べる)
タクミ:じゃあ上越は…?
アヤ:夕日見る予定だったよね。
タクミ:(震え声)……2時間。
アヤ:夕日、移動中に沈むわ。
タクミ:心も沈むわ。
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④ ホーム(電車待ち)
(アヤがプラン表をビリビリ…ではなく丁寧に折りたたむ)
アヤ:じゃあ…今日は「村上だけ」にしよう。
タクミ:うん。潔い。
アヤ:でも時間余ったら、ついでに上越…
シバタさん:ついでに上越は、ついでに北海道くらいです。
タクミ:言い過ぎでしょ。
シバタさん:(真顔)…言い過ぎではありません。
タクミ:こわい。
(駅のアナウンス)
駅アナウンス:まもなく、村上行きがまいります。所要時間は約90分です。
アヤ:アナウンスが…淡々と残酷。
タクミ:数字に感情がない。
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⑤ 車内(移動が“イベント”になる)
(2人、コンビニ袋におにぎりが3個ずつ入っている)
アヤ:ほんとに買っちゃった。
タクミ:地元の人の言葉、信じた。
アヤ:新潟の移動って…旅の中で別コンテンツだね。
タクミ:そうだよ。「村上に行く」じゃなくて「村上へ向かう物語」なんだ。
(窓の外、景色がどんどん変わっていく)
アヤ:…でもこれ、いいかも。
タクミ:うん。
アヤ:同じ県内って、安心してた自分が恥ずかしい。
タクミ:大丈夫。新潟がでかいだけだから。
(間)
アヤ:ねえタクミ。佐渡って、電車で行けるよね?
タクミ:……(無言でおにぎりを4個目に増やす)
(暗転)
いかがでしたか?笑っていただけましたか?
「同じ県内だから近いでしょ」は、新潟で一度は粉々になります。地図で見ると隣、気持ち的にも隣、でも電車に乗ると“小旅行”に昇格。おにぎり3個は冗談じゃなく、だいたいの正解です。
予定を詰めすぎた観光客が、車窓を眺めながら静かに悟る――「急がないほうが楽しい」。新潟は距離で驚かせ、時間で癒してきます。どうぞ慌てず、腹ごしらえ多めでお越しください。
