【登場人物】
・翔太…20代後半。ロマンチック演出に命をかける男。計画だけは完璧。
・美咲…20代後半。現実派の彼女。寒いのと風が強いのが苦手。
・通りすがりの釣り人…日本海を知り尽くしたベテラン。
【場面】
冬の日本海。
強い風がビュービュー吹き、波がドーン! と防波堤に打ちつけている夕暮れ。
翔太は、ここを「最高の告白スポット」だと信じている——。
翔太「(心の声)よし……夕日、日本海、カモメ。完璧だ……!」
美咲「さ、さむっ!! ねぇ翔太、本当にここで合ってる? なんかニュースで見た“時化の映像”って感じなんだけど」
翔太「だ、大丈夫大丈夫! ほら、波がロマンチックじゃん!」
(ドオオオオオオン!!と大波)
美咲「ロマンチックじゃなくて“退避勧告”レベルなんだけど!?」
翔太「……あのさ、美咲」
美咲「うん?」
翔太「(深呼吸して)おれ、前から……」
(タイミングよく、爆音のような波)
\ドゴォォォォン!!!/
美咲「えっ!? なに!? “前から”どうしたの!? 波しか聞こえない!」
翔太「(ちょっと叫び気味に)おれ、前から——!」
\ビュオオオオオ〜〜〜!!(突風)/
美咲「ごめん! “おれ、前から風邪ひきそう”って聞こえた!」
翔太「そんなネガティブな告白あるか!!」
翔太「(気を取り直して)よし……波が引いたスキを狙って——」
美咲「ちょっと、髪の毛ぐちゃぐちゃなんだけど……」
翔太「その、風になびく感じがまた——」
\バチィィィィン!!(飛んできた波しぶきが2人に直撃)/
美咲「ぎゃぁ! 海水!! メイク全部終わった!!」
翔太「あ、でも……すっぴんも綺麗だよ……」
美咲「今それどころじゃないから!」
(そこへ、完全防寒の釣り人が登場)
釣り人「兄ちゃん姉ちゃん、こんな日にここで何してんだね?」
翔太「あ、いえ、その……ちょっとロマンチックな用事で……」
釣り人「ロマンチック? ここはな、“ヒラメポイント”であって、“ヒラメ惚れポイント”じゃないぞ」
美咲「(ツボる)ヒラメ惚れポイントってなに(笑)」
翔太「(焦りながら)いや、でも、日本海って言ったらさ、ドラマチックで……」
釣り人「冬の日本海は、“ドラマ”じゃなくて“ドリフ”だと思え。いつ波でずぶ濡れコントになるかわからん」
翔太「(それでもめげずに)と、とにかく! 美咲!」
美咲「はい!」
翔太「おれ、ずっと前から、美咲のこと——」
\ドゴォォォォン!!!(今日イチの大波)/
美咲「ごめん! “味噌のこと”って聞こえた!! 味噌!? 新潟名物!?!」
翔太「誰が味噌に告白するんだよ!!」
釣り人「ははっ、まあ新潟なら味噌もうまいけどな」
(翔太、ついに観念して)
翔太「……よし、作戦変更だ」
美咲「やっと!? ねぇお願い、あったかい場所で話そう?」
翔太「駅前のカフェ行こう。Wi-Fiもあるし」
釣り人「そうだそうだ。告白はな、日本海よりも無料Wi-Fiのそばでやる時代だ」
美咲「それもどうかと思うけど」
【場面転換:駅前の静かなカフェ】
BGMはやさしいジャズ。外の荒れた海とは別世界。
翔太「(深呼吸)……改めて。美咲」
美咲「うん」
翔太「さっき、海で言えなかったこと、ここでちゃんと言うね」
美咲「(真剣な表情)……うん」
翔太「おれ、前から美咲のことが——」
\プルルルル……(カフェの店内にLINE通知音が連続で響く)/
美咲「あ、波の代わりに通知きた」
翔太「現代社会の“見えない波”やめて!!」
(少し間をおいて、通知が止まる)
翔太「……よし、今度こそ」
美咲「どうぞ」
翔太「おれ、ずっと前から、美咲のことが大好きで……これからも隣にいてほしい」
美咲「……やっと聞こえた」
翔太「ごめん、最初からここでやればよかったね」
美咲「ううん。日本海での“聞こえない告白”があったおかげで、 この静かなカフェが、めちゃくちゃありがたく感じるよ」
釣り人(なぜか窓の外から)「おーい、カフェで告白するなってコントも、そのうち誰か書くかもしれんぞー!」
翔太&美咲「そこまで読まないでください!」
(外の日本海は、相変わらずドーン!と荒れている——
“ロマンチック”は聞こえなかったが、
ふたりの返事だけは、ちゃんと届いたようだ。)
いかがでしたか?笑っていただけましたか?
ロマンチックを狙って日本海に行ったはずが、演出が「告白」ではなく「防災訓練」になってしまったお話でした。
本人は真剣に「好きだー!!」と叫んでいるのに、相手に届いているのは
「味噌ーーー!?」「風邪ーーー!?」
という、単語だけ見ると完全に日常会話なワードたち。
人生って、気持ちが強すぎるときほど、
なぜか「場所」と「天候」と「音量」が全部バグることがあります。
今回の教訓はひとつ。
告白は“思いの強さ”より先に、
まず“風速”と“波の高さ”をチェックしよう。
日本海はドラマチックだけど、
セリフを聞かせてくれるとは一言も約束していない——
そんなツンデレな海に、ちょっとクスッとしてもらえたらうれしいです。
