あるところにピンクの恐竜が住んでいました
恐竜は いつも一人でいて
食事をするのも 水遊びするのも 排泄をするのも 一人でまったく差し支えありませんでした
誰かに「食べかたが汚いよ」と注意されるのも腹が立つし
まだ遊びたいのに「日が暮れたから もう帰ろう」と打ち切られるのも気にくわない
一人でいれば そんな嫌な思いをする心配はありません
星座にくわしい友だちと一緒じゃなければ 心ゆくまで新しい星座を作りだすことができます
“いたずら座”は、元気な子猫でもいいし
いじわるそうなシャパクリャクばあさんでも 構わないわけです
どうしても点が足りなければ 自分だけに見える(本当はない)惑星を 一つ加えて
いたずら座を完成させたところで 誰にも非難されません
だから誰かといるより ひとりでいるほうが ずっと都合が良かったのです
ある朝 ピンクの恐竜は ルーペを発明しました
発明といってもたいしたものではありません
目を覚ましたとき 葉っぱにのった朝露の向こうに 今まで見たことのない生き物がいたので
ピンクの恐竜はもっとよく見てみようと顔を近づけたのです
すると偶然 まわりの葉っぱからスラスラと朝露が集まってきて
結果的に 先よりよく生き物を見ることができたというだけのことです
ピンクの恐竜は 思わぬ発明によろこびました
そしてこれを「朝露のルーペ」と名付けました
あるいはルーペは ピンクの恐竜が生まれるもっとずっと昔からあったのかもしれません
恐竜には友だちがいないので ルーペを知らなかっただけかもしれません
でもとにかく ピンクの恐竜にとって 朝露の集合体から覘く世界は 生まれて初めて見る光景で
それは彼を興奮させました
朝露の向うには 甲羅に黒い斑点のある赤い小さな生き物がいて
向こうもずっとこちらを見ているようでした
ピンクの恐竜は、甲羅に黒い斑点のある赤い小さな生き物に興味津々でした
なぜ 甲羅に斑点なんかつけたのか?
なぜ からだが全体的にピンクではなく赤いのか?
ここで何をしているのか?
ピンクの恐竜は とりあえず彼の知っている言葉で話しかけました
「君は誰?」
すると向こうも話しかけてきました
「#($’#&’」
「僕はピンクの恐竜。友達はいない、今のところは。水遊びが好きだ。君は?」
甲羅に黒い斑点のある赤い小さな生き物は言いました
「+ヨウQ”(DY()”!%&」
ピンクの恐竜は困りました
甲羅に黒い斑点のある赤い小さな生き物の言うことが まったくわかりません
だいいち相手の呼び名が いちいち長すぎます
「どうだろう 勝手に決めて申し訳ないけど 君をてんとう虫と呼んでもいい?
君はお天道様のように赤いし 斑点が黒点のような生き物だ
だから 君をてんとう虫と呼んでも構わないかな?」
“てんとう虫”良い名前だ
ピンクの恐竜は この呼び名に大満足でした
でも 相手が気に入っているかどうかが分からないので ちょっと不安になりました
「もし君が気に入らないなら コキネリでもマリエンフェーバーでもかまわないよ
少し呼びにくいけど…。」
甲羅に黒い斑点のある赤い小さな生き物は
「&’%&’」
と言うと、どこかへ飛んでいってしまいました
ピンクの恐竜は とても悲しい気持ちになりました
もともと友達が欲しかったわけではありません
ことばが理解できなかったのは ピンクの恐竜が悪かったのでもありません
でも なんだかとても淋しく悲しくなってしまいました
ピンクの恐竜は 朝露を払いのけ 二度寝することにしました
もう一度 目が覚めた時、もしかしたら
甲羅に黒い斑点のある赤い小さな生き物が また葉っぱの上に戻ってきているかもしれないと思ったからです
byまる