Trans Europ Express(TEE)を、当時のトーマス・クック鉄道時刻表の紙面から振り返る企画です。

 

これまでは西ドイツ発着のTEEを中心に取り上げてきましたが、今回からはしばらくスイス、オランダ発着のTEEを取り上げたいと思います。新しいカテゴリーでの1回目、通算22回目は、エーデルヴァイス(Edelweiss)号です。

 

 可憐な花の名として日本では有名ですが、列車としての歴史は第二次世界大戦前に遡ることができ、1928年6月15日にドイツのミトローパ社によるラインゴルト号に対抗した、ワゴン・リ社による1等・2等プルマン車の豪華列車がキャリアのはじまりです。第二次世界大戦中は敵国ドイツを迂回するオランダ〜スイス間の接続列車として、1939年9月1日の第二次世界大戦勃発まで、チューリッヒとアムステルダムの間で運行されました。

 そして今回紹介するのは、1957年TEE発足以降の時代です。伝統的なオランダ−スイスの接続列車の性格はそのままに、当時最新鋭のディーゼル列車、電車列車の投入で新たな対独競争が始まりました。

 

列車名の由来は?

日本でも「エーデルワイス」の歌で有名ですが、スイスの国花である高山植物の名前が由来です。日本名ウスユキソウというそうです。

 


運行されていた国 オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランス、スイス

 

運転時期と区間

 

1957年6月2日〜1974年5月25日 ※ディーゼル列車

チューリヒ − ルクセンブルク − ブリュッセル − アムステルダム

 

1974年5月26日〜1979年5月26日 ※電車化

チューリヒ − ルクセンブルク − ブリュッセル

 

その後、オランダ〜スイスの国際列車(2等車連結)に格下げ

 

使用された車両、編成

ディーゼル列車
【オランダ/スイス(それぞれが保有)】

DE-4型(オランダ)/RAm TEE Ⅰ (スイス)特急用ディーゼル列車

1957年6月2日〜1974年5月25日
 運転開始当初は、運行ルートに非電化区間が存在するため、オランダ・スイス共同開発のディーゼル列車が使用されました。その後走行区間の電化開業を果たしたあとも、異なる電化区間をまたがる運転のため、電車化されることなく活躍が続いています。
 
この列車は4両固定編成。日本のディーゼル列車と異なり、先頭1両のみにディーゼル動力が搭載(=ディーゼル機関車)され、残り3両は制御車も含んだ客車であり、開放席、コンパートメント席、食堂車(運営はSSG、スイス食堂車会社)と、短い編成ながらオール1等車という構成となっていたようです。
 
電 車
【スイス】
RAe TEE II型電車 1974年5月26日〜1979年5月26日
1974年夏ダイヤで運転区間がブリュッセル〜チューリヒ間に短縮され、同時にディーゼル列車からスイス国鉄の電車に切り替えられました。
固定編成で5両(のちに6両)で構成されており、うち1両は電源電動車と呼ばれる座席なしの車両を含む編成でした。また、従来のTEE列車には標準仕様であったコンパートメント席はなく、オープン座席車と食堂・ミニバー車(運営はSSG)で構成されました。資料によると、電源電動車内に食堂車用の厨房設備があるため、食堂車1両まるまる座席につかうことができた贅沢ぶり。食堂は間接照明方式だったようで、相当オシャレな内装だったようです。

このRAe TEE II型電車は、国際TEE史上、最初で最後の電車列車※1になりますが、当時の最先端の技術を投入して4電源方式とし、文字通りヨーロッパ横断を電車で可能にする仕様になりました。
※1 国内列車のTEEとして、イタリア国内列車としてETR300(セッテベロ)が存在していました。
 

 

実際の時刻表紙面

1962〜63年冬ダイヤ
31列車 アムステルダム中央駅発11:28→ チューリヒ中央駅着21:14
30列車 チューリヒ中央駅発11:43 → アムステルダム中央駅着21:46
TEEとして運転開始して5年ほどたった頃のダイヤです。当時は、北行、南行ともに午前中に出発、夜に終着するダイヤで両都市を10時間弱で結んでいました。また経由する国もオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランス、スイスの5カ国。ルート上の主要都市にこまめに途中停車した結果、TEEとしては表定速度が90km/h程度と「低い」列車になっていました。
Cooks Continental Timetable March 1963 より
 
 
1969年夏ダイヤ
31列車 アムステルダム中央駅発10:10→ チューリヒ中央駅着19:47
30列車 チューリヒ中央駅発11:47 → アムステルダム中央駅着21:27
31列車についてはアムステルダム出発時刻が1時間18分繰り上げられています。
この頃は若干のスピードアップも果たされ、30列車(北行)の所要時間は9時間40分、平均時速93.3km/hに短縮されています。参考までに、1970年夏ダイヤでは31列車(南行)はさらに時間短縮を図ることに成功し、所要時間は9時間32分、平均時速95km/h弱に短縮されました。1957年から比較すると31列車は同じディーゼル列車での運転ながら、43分の所要時間短縮を実現しています。
Cooks Continental Timetable August 1969 より
 
 
1977年〜78年冬ダイヤ
93列車 ブリュッセル南駅発16:11 → チューリヒ中央駅着23:09
90列車 チューリヒ中央駅発6:59 → ブリュッセル南駅着14:03
電車化されてからは運転区間がブリュッセル〜チューリヒと短縮され、同区間にTEEイリス(Iris)号という兄弟列車が設定されました。両都市を午前中、午後にいづれかの列車が出発するダイヤとして設定されました。エーデルヴァイス号はチューリヒを午前発、ブリュッセルを夕方発のダイヤでした。
ちなみに下記時刻表欄が「To April 1」と「From April 2」と分けられているのは夏時間の影響。フランスに加えて1977年からベルギー、ルクセンブルクが夏時間を採用し、結果スイスのみが夏時間「非採用」でした。そのためバーゼル、チューリヒの発着時刻を見るときには注意が必要です。
ThomasCook International Timetable January 1978 より
 
 

今回は以上です。

 

すでに取り上げたTEE列車の一覧ページです。こちらもご参考ください!

 

 

参考資料:

・Cook Continental Timetable August 1969、ThomasCook International Timetable January 1978

・写真で楽しむ世界の鉄道 ヨーロッパ1,2,3 交友社 1959、1960、1965

・Das Grosse TEE-Buch 40 Jahre Trans-Europ-Express /Jörg Hajt/HEEL 1997年

・TEE, la légende des Trans-Europ-Express : entre luxe et grande vitesse/Maurice Mertens、 Jean-Pierre Malaspina/LR PRESSE 2007

・TEE Zuge in Deutschland/Peter Goette/EK-VERLAG 2008

・Die Geschhichte Des Trans Europe Express /Maurice Mertens、Jean-Pierre Malaspina 2009

・カラーバックス 世界の鉄道 国際特急 植田信行監修 徳間書店 1978年

参考サイト:TEE、エーデルヴァイス (列車)(ともにWikipedia)

ページ内写真:Flickr の各リンク

カバー画像:Deutsche Bahn AG, converted by  , Public domain, via Wikimedia Commons