Trans Europ Express(TEE)を、当時のトーマス・クック鉄道時刻表の紙面から振り返る企画です。

 

第6回は、サフィール(Saphir)号を取り上げます。

この列車は、当時の西ドイツ・ルール地方と、英仏海峡横断フェリーの接続を担う目的で設定された国際列車であり、その役割ゆえにTEE創設期から活躍していた列車の1本でした。

 

運転区間の変遷、使用車両の切り替え、さらに西ドイツ国内インターシティ網との関係まで、見どころの多い列車です。今回は、TEEサフィール号の運転時期・運転区間・使用車両・時刻表を中心に、流れが分かるよう整理してみます。

 

 

 

 TEEサフィール号の列車名の由来は?

「サフィール」は、英語でいうサファイア、すなわち宝石の一種を意味します。日本で運転されているサフィール踊り子号も、同じ宝石由来の列車名です。

TEEでは、宝石名や花の名を採った列車がいくつか見られますが、サフィール号もその系譜に連なる列車名といえるでしょう。

 

 

 TEEサフィール号が運行されていた国

ベルギー、西ドイツ

 

 

 TEEサフィール号の運転時期と運転区間

 

1954年に西ドイツ・ベルギー間の国際列車として誕生

 

1957年6月2日〜 ドルトムント〜マインツ〜ケルン〜ブリュッセル〜オステンド

 

1958年6月1日〜 フランクフルト〜マインツ〜ケルン〜ブリュッセル〜オステンド

 

1959年5月31日〜 フランクフルト〜ヴィースバーデン〜ケルン〜ブリュッセル〜オステンド

 

1966年5月22日〜 フランクフルト〜ヴィースバーデン〜ケルン〜ブリュッセル

 

1971年9月26日〜

 【西行(TEE20)】ニュルンベルク→フランクフルト→ヴィースバーデン→ケルン→ブリュッセル

 【東行(TEE21)】ブリュッセル→ケルン→マインツ→フランクフルト

 

1978年5月28日〜1979年5月26日 フランクフルト〜ヴィースバーデン〜ケルン〜ブリュッセル

 

【他列車との車両交換や併結】

1958年6月1日〜1959年5月30日 19列車はTEEライン・マイン号とフランクフルト→ケルン間で併結運転

 

以降、2等車連結のインターシティに降格

 

ドイツの地名と位置関係はやや分かりにくいため、ここではとくにヴィースバーデン(Wiesbaden)マインツ(Mainz)の位置関係に注目したいところです。両都市はライン川を挟んで対岸に位置しています。

1971年時点のインターシティ網で見ると、インターシティ1号線はマインツ経由、インターシティ2号線はヴィースバーデン経由で構成されていました。サフィール号の経路変更は、この西ドイツ国内ネットワークの整備とも深く関係していました。

ちなみに、下記地図の青色がサフィール号の運転区間(ブリュッセル〜ニュルンベルク)です。

TEE Saphir in Intercity network

Matsukaze, CC BY-SA 3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, ウィキメディア・コモンズ経由で

 

 

 TEEサフィール号で使用された車両と編成

 

ディーゼル列車

【西ドイツ】

VT08.5型特急用ディーゼル列車 1957年6月2日〜7月14日

本来投入される予定だったVT11.5形の完成が遅れたため、その暫定運用として約1か月強使用されました。

 

VT08.5型特急用ディーゼル列車

R-E-AL (talk | contribs | Gallery) (German Wikipedia), CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons

 

 

VT11.5型特急用ディーゼル列車 1957年7月15日〜1971年9月25日

サフィール号の主力として長く使用されたのが、このVT11.5型特急用ディーゼル列車です。当時は中間車5両を組み込んだ7両編成で運転されていたようです。

VT11.5型特急用ディーゼル列車

Roger Wollstadt, CC BY-SA 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0>, via Wikimedia Commons

 

 

客車列車

【西ドイツ】

ラインゴルト型客車

ラインゴルト型客車

NAC, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons

 

編成両数の変遷は次の通りです。

1971年9月26日〜 1等オープン座席車1両、1等コンパートメント車2両、1等コンパートメント・バー合造車1両、食堂車1両による5両編成。以下のような3日間サイクルで運用されていました。

ニュルンベルク - TEE 20 サフィール号 - ブリュッセル - TEE 21 サフィール号 - フランクフルト - IC 171 メリアン号 - バーゼル - IC 174 オットー・ハーン号 - ハンブルク - IC 130 トラー・ボンベルク号 - ケルン - IC 150 アドラー号 - フランクフルト

(1日平均1,100km)

 

1972年5月28日〜 5両編成から、1等コンパートメント・ビュフェ・荷物車合造車1両が外れ、4両編成へ変更。あわせて運用サイクルも次の6日間サイクルに改められました。

ニュルンベルク - TEE 20 サフィール号 - ブリュッセル - TEE 21 サフィール号 - フランクフルト - TEE 22 ヴァン・ベートーヴェン号 - アムステルダム - TEE 11 レンブラント号 - ミュンヘン - TEE 10 レンブラント号 - アムステルダム - TEE 23 ヴァン・ベートーヴェン号 - ボン - IC 145 ポルタ・ヴェストファリア号 - ハノーファー - IC 129 ヘレンハウゼン号 - ミュンヘン - IC 114 メルクール号 - ハンブルク・アルトナ駅 - トラー・ボンベルク号 - ケルン - IC 159 アドラー号 - ニュルンベルク

 

1974年5月26日〜 食堂車が、1等コンパートメント・ビュフェ合造車に変更

 

 

牽引機

【西ドイツ】

103型交流電気機関車 ほか

写真は103型交流電気機関車ですが、運転開始当初は110形、112形機関車が牽引を担当していたようです。なお、機関車の付け替えはケルンで行われていました。

Steffs88, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons

 

 

【ベルギー】

15型、16型 3電源方式複式電気機関車

18型 4電源方式複式電気機関車

23型 直流電気機関車

写真は16型直流機関車です。

 

See page for author, CC BY-SA 3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, via Wikimedia Commons

 

 

 TEEサフィール号の実際の時刻表紙面

 

1962〜63年冬ダイヤ
19列車 フランクフルト(マイン)中央駅発8:10→オーステンデ・岸壁着14:44
20列車 オーステンデ・岸壁駅発15:45→フランクフルト(マイン)中央駅着22:04
ドイツと英仏海峡連絡フェリーの接続列車として機能していた時代のダイヤです。列車自体はオーステンデ止まりですが、利用者の便宜を図るため、紙面にはロンドン(ヴィクトリア駅)方面への接続列車も記載されています。
なお、ブリュッセル南駅〜オーステンデ間は利用低迷により、1966年夏ダイヤで廃止されています。
サフィール号 1962-63年冬ダイヤ
Cooks Continental Timetable March 1963 より
 
 
1969年夏ダイヤより
西ドイツのディーゼル列車が運用に入っていた頃のダイヤです。
19列車 フランクフルト(マイン)中央駅発8:31→ブリュッセル南着13:17
20列車 ブリュッセル南駅発16:56→フランクフルト(マイン)中央駅着21:53
この頃はヴィースバーデン(Wiesbaden)経由でしたが、同駅は頭端式であったため、方向転換が必須でした。その運転上の制約を克服するため、運転士を2名乗務させることで、折り返し作業をわずか2分停車で処理していたとされます。
具体的には、ヴィースバーデン到着直前に運転士の1人が列車内を移動して後方側へ回り、到着後すぐに方向転換装置の操作とブレーキ試験を行っていたとのことです。
サフィール号 TEE時刻表
Cooks Continental Timetable August 1969 より
 
 
1971年に実施された夏ダイヤ改正と、西ドイツ国内のインターシティ網整備(いわゆる1等インターシティ、またはIC71)に伴い、次の変更が加えられました。
・東行きの経由駅がヴィースバーデン(Wiesbaden)からマインツ(Mainz)へ変更
・西行きの始発駅がニュルンベルク中央駅へ変更
・TEE列車番号の奇数・偶数ルールが逆転
 
それを受けて、1975年夏ダイヤは下記の通りです。この頃には、すでにディーゼル列車から電気機関車牽引の客車列車へ切り替わっています。ここには記載がありませんが、このダイヤ改正でブリュッセル中央駅も停車駅に加わっています。
20列車 ニュルンベルク中央駅発6:09→ブリュッセル南着13:29
21列車 ブリュッセル南駅発18:17→フランクフルト(マイン)中央駅着23:13
サフィール号 TEE時刻表
Thomas Cook Continental Timetable May 1975 より

 

 

1977〜78年冬ダイヤより

同年5月からは、運転区間がフランクフルト〜ブリュッセル間へと再び短縮されました。この時期、西行(ブリュッセル方面)で設定されていたニュルンベルク始発は平日のみとなっています。

さらに、1978年4月2日からは、運転区間も編成も変わっていないにもかかわらず、所要時間が1時間短縮されています。一見すると不可解ですが、これは当時の夏時間制度が要因です(ベルギーのみ、1978年4月2日から9月30日までUTC+2)。

20列車 ニュルンベルク中央駅発6:09→ブリュッセル南着14:29 ※夏ダイヤ
21列車 ブリュッセル南駅発19:17→フランクフルト(マイン)中央駅着23:12

サフィール号 TEE時刻表

Thomas Cook International Timetable January 1978 より

 

 

 まとめ|TEEサフィール号はルール地方と英仏海峡連絡を担った国際列車

サフィール号は、単にベルギーと西ドイツを結ぶTEE列車というだけでなく、当初はオーステンデで英仏海峡横断フェリーへ接続する国際連絡列車として大きな役割を担っていました。

その後は西ドイツ国内のインターシティ網整備にあわせて、ヴィースバーデン経由からマインツ経由へ変わるなど、時代ごとの鉄道政策を色濃く反映した列車でもあります。

また、VT08.5型・VT11.5型のディーゼル列車から、ラインゴルト型客車を用いた機関車牽引列車へと移行した経緯も、TEEの発展過程をたどるうえで非常に興味深い部分です。

路線、車両、時刻表のいずれを見ても見どころの多い列車であり、TEEサフィール号は、初期TEEの性格をよく示す代表的な存在といえるでしょう。

 

今回は以上です。

 

参考資料:

Cooks Continental Timetable August 1969

Thomas Cook Continental Timetable May 1975

Thomas Cook International Timetable January 1978

Das Grosse TEE-Buch 40 Jahre Trans-Europ-Express /Jörg Hajt/HEEL 1997

TEE Zuge in Deutschland/Peter Goette/EK-VERLAG 2008

Die Geschhichte Des Trans Europe Express /Maurice Mertens、Jean-Pierre Malaspina 2009

参考サイト:TEE、Belgian Railways Class 23(ともにWikipedia)

ページ内写真:Flickrのリンクより

カバー画像:Deutsche Bahn AG, converted by  , Public domain, via Wikimedia Commons