2020年12月の年末から、2021年春の定期列車廃止をもって愛称消滅となる「有明」にフォーカスしております。

 

前回は、民営化後初のダイヤ改正で登場した新型車両ハイパーサルーンに注目しましたが、今回はそこから少し時期が下って、1990年以降の有明号の運転ダイヤと、競合する高速バスの状況を比較していきたいと思います。高速バスでは福岡熊本間のひのくに号に加えて、福岡・鹿児島間の桜島号の登場がトピックとなります。

 

 1990年3月ダイヤ改正での有明号の動き

平成2年(1990年)3月10日にダイヤ改正が行われました。こちらはJR九州時刻表の表紙。キャッチフレーズは「タイムリー」。ちなみに酒井法子さんが表紙に出てくるJR九州制作小型時刻表はこれが最後だった気がします。

JR九州時刻表 平成2年3月ダイヤ改正号より

 

今回1990年3月ダイヤ改正における有明号関連の動きは以下の通り。

  • スーパー有明号ハイパー有明号に吸収され発展的消滅。
  • 博多以北発着の有明号ハイパー有明号が増発(小倉駅発着ハイパー有明号3往復、ならびに有明号1往復が新設)
  • 動力協調運転を行っていた有明11号オランダ村特急の併結区間が、従来の小倉〜博多間から、小倉〜鳥栖に延長。

 

小倉発着の有明号の増発の目的は、1)利用実態にあわせた「地域密着ダイヤ」が結実した結果か、はたまた2)新たなニーズ喚起、のどちらかと推察しますが、1992年7月のダイヤ改正で小倉発着有明号が消滅しているところから、後者2)が結果に結びつかなかったと推察してしまいます。

 

次にこのダイヤ改正での有明号の編成です。

783系の運用は目立った変更はありませんが、この改正からにちりん号にも783系が充当され、にちりん号・有明号が共通の運用になりました。

 

485系の運用について、これまで存在した3両編成が4両編成となり、これが最短に。なお、この4両編成は南福岡電車区所属で、特急みどり号、にちりん号と共通運用となりました。またちなみに3両編成は波動用の増備車になりました。5両編成(多客時7両)の485系は鹿児島運転所所属でかもめ号と共通で運用されました。

JR九州時刻表 平成2年3月ダイヤ改正号より

 

 

 1991年3月ダイヤ改正の有明号

 平成3年(1991)3月16日に全国ダイヤ改正が行われています。この改正での有明号の動きは微細ながら、前年より1往復増の32往復(64本)となり、有明号史上最多運行本数を記録しました。なお、この改正で列車番号の整理が行われ、西鹿児島系統が1M〜、熊本系統が1000番台で下2桁追番となりました。

 

 この改正での車両運用について、このダイヤ改正直前の2月1日から「RED EXPRESS」と呼ばれた赤い485系が運用に入りました。

 

 

 485系については、従来南福岡電車区の4両編成によるにちりん号、みどり号との共通運用がなくなり、鹿児島運転所の「RED EXPRESS」5両編成(多客時7両)のみの運用になりました。一方、783系には顕著な動きはありません。なお、改正をもって783系の新造・増備は打ち止めとなりました。最後の増備車は783系6両編成1本で、時刻表内では「59号、6号が充当される日がある」という編成です。

JR九州時刻表 平成3年3月16日ダイヤ改正号より

 

 

 特急つばめ号登場前最後のダイヤ改正での有明号

つづいて、1992年3月ダイヤ改正での動きについて。ご存知の通り、JR九州は新型特急つばめ号投入となる7月のダイヤ改正を控えており、有明号はじめ他の優等列車での大きな動きはありません。そんな中でのトピックは以下の通り。

 
1992年3月24日 この日をもって、有明11号とオランダ村特急の動力協調運転が終了しました。これは翌25日の特急ハウステンボス号運行開始にともなう、オランダ村特急の運転終了を受けた対応です。
JTB時刻表1992年3月号より
 
 
そして、ダイヤ改正ではないものの1992年6月1日をもって、783系有明号でのカフェテリア営業が終了しています。そして、このあと7月ダイヤ改正をもって鹿児島接続は特急つばめ号にバトンタッチし、有明号は北九州と熊本間の都市間特急として新たな性格で運行されるようになります。
 

 

 新登場の福岡〜鹿児島間のバス(桜島号)

 つづいて、同時期の高速バスの動きを追います。JR九州が、有明号の拡充、つばめ号誕生と矢継ぎ早に旅客サービス向上を図っている一方で、高速バス勢も新たな一手を打ち出します。1989年12月7日に九州自動車道の八代IC - 人吉仮出入口間が開通し、福岡・鹿児島間の自動車移動が、鉄道と同程度の所要時間で可能となり、1990年3月には西鉄、鹿児島交通、南国交通、林田バスの4社共同が「満を持して」、高速バス桜島号を運行開始しました。
 当時は1日7往復。所要時間は博多駅交通センター〜西鹿児島駅間で約4時間。かつてのJR列車、急行かいもん号をヒントにしたのか夜行便も1往復設定されていました。この施策を切り取ってみても、当時の関係者がJRからの利用者奪還への期待感を感じます。
 下記に掲載した西鉄高速バス時刻表の一部引用を眺めつつ、設定された停留所について少し掘り下げると、鹿児島側の「西鹿児島駅前(現在の鹿児島中央駅)」のほか、「天文館」「いづろ」は鹿児島市内随一の繁華街でこまめに停車するダイヤが組まれています。ここは福岡でいう「天神」のような場所であり、福岡と鹿児島の繁華街・経済の中心地をダイレクトに結ぶことができるのはバスならではの芸当。熊本行きひのくに号と同様、魅力的な移動手段といえます。
西鉄高速バス時刻表 1991年1月号より
 
 
ではここで、福岡〜鹿児島間の公共交通機関の競合として、桜島号と特急有明号の比較をしておきます。
  特急有明号 桜島号
所要時間 3時間37分
(最速、ハイパー43号)
4時間
運  賃 5970円
(指定席往復割引きっぷの片道あたり)
4500円
(往復割引の片道あたり)
運転本数 7往復 8往復
(昼行7往復、夜行1往復)
※JRは博多駅〜西鹿児島駅間、高速バスは博多駅交通センター〜西鹿児島駅前。1991年3月時点での比較。
 
はい、ハイパーサルーン登場時に福岡〜熊本間で同様の比較をおこなった時と同じように、所要時間でJRが辛勝運賃では高速バスがJRに圧倒的に優位という状態でした。
 
 西鉄をはじめとする九州の高速バス事業者の所有するバス、ならびにその車内サービスは、当時からハイグレードで定評であり、それは、西鉄が有する長距離路線サービスのノウハウが注ぎ込まれた成果であることは間違いありませんでした。一例を上げれば1983年運行開始の大阪〜福岡間の夜行高速バス「ムーンライト号」の運行と成功は全国のバス会社に驚きをもって受け止められたセンセーショナルな出来事であり、そのノウハウをもって桜島号にリピート客を作ることはそれほど難しくなかったと思われます。
 
 実際に、初年度から4社共通(1990年12月からJR九州も参入し5社)の車内サービスとして、3列独立シート、トイレ、車内電話、テレビ・ビデオ、マルチステレオ、毛布・スリッパ、おしぼり、コーヒー・お茶、新聞(昼行のみ)と、JR九州をもってしても、特急列車の普通車では到底提供できないサービスを標準仕様としていました。
 
 この成功譚によって増便が行われ、1991年3月には一気に2倍の15往復の運行(=1時間おき)がなされました。今の時勢、勢いのある路線はそう見つかりませんね。
JTB時刻表 1992年3月号より
 

 

 1990年〜91年の福岡〜熊本間のバス(ひのくに号)

 鹿児島発桜島号の話題からはじめてしまったので、ここでようやくひのくに号に戻ります。下記は1991年1月号の西鉄バス時刻表ですが、運行本数がこの時点で1日58往復(1991年8月には60往復)。まだまだ増便の勢いは衰えません。

2枚とも、西鉄高速バス時刻表 1991年1月号より

 
 増便の一方で、力を入れていた「車内設備、サービス」についても触れておきます。以前よりハイデッカータイプの高速バスが配備されてきましたが、90年代に入ると更に車内サービスレベルが向上し、92年には全車をデラックスひのくに号として、従来のリクライニングサービス、マスチステレオに加え、ビデオサービス、お茶・コーヒー・おしぼりサービスが導入されました。ただしこの「フルサービス」は2000年代までは継続実施されたようです。比較的短かい乗車時間とはいえ、あれば嬉しいサービスが盛り沢山だったんですね。
 
次回は、1992年7月の特急つばめ号登場以降の有明号を中心に見ていきます。福岡〜熊本間の都市間特急として生まれ変わった有明号の使用車両、ダイヤ、特に電化開業した豊肥本線肥後大津まで単独で乗り入れを果たす1999年頃までを追ってみます。
 
本日は以上です。

 

参考資料:鉄道ファン 2011年6月号 特集:485系パーフェクト

鉄道ピクトリアル 1992年3月臨時増刊号<特集>九州の鉄道、2014年11月号 485・489系電車(Ⅰ)、列車名変遷大事典 三宅俊彦 ネコ・パブリッシング、交通公社の時刻表 1990年3月号、1991年3月号、1992年3月号、交通公社のスピード時刻表 1992年5月号、6月号、JR九州時刻表 平成2年3月ダイヤ改正号、平成3年3月16日ダイヤ改正号、西鉄高速バス時刻表 1991年1月号、全国高速バス時刻表&ガイド 1992年春号、92年行楽号 弘済出版社

 

画像、カバー画像写真:オレンジカードはブログ筆者所有のものです。

参考サイト:桜島号、ひのくに号、有明(列車)、国鉄485系電車、JR九州783系電車(ともにWikipedia)