曲の作り方っていろいろあると思いますが、ベートーヴェンの場合は、まさに作曲の模範中の模範のようなやり方をとっています。
結論からいうと、数個のモチーフを徹底的に使って曲を作り上げるのがベートーヴェンのやり方です。
テーマに登場する断片的で特徴的な音の動きをモチーフとか動機とか言うのですが、ベートーヴェンは、このモチーフを一曲の中に徹底的に使い切って、あれこれ料理して一曲を仕上げます。
動機にこだわってあれこれ料理しながら曲を作り上げるスタイルを主題労作といいます。ベートーヴェンは主題労作の大家なのです。
たとえば運命ですが、第1テーマのモチーフは下の楽譜の通り、「ダダダダン」ですね。
運命の第1楽章は上の「ダダダダン」のモチーフと下に示す第2テーマのモチーフ(ト音記号の部分)を徹底的に使って曲を作っています。
この第2テーマのベース部分には、「ダダダダン」なる動きが反行形で登場しています(赤線部分)。主題労作してますね。
第1テーマでは、「ダダダダン」が終了したその後は、ひたすら「ダダダダン」という音の形を使用して曲が進みますね。これも主題労作。
これがモーツァルトあたりになると、彼の頭は発想の泉ですから、「ダダダダン」にあまりこだわらず、新しい音の形を創り出して曲が進んだかもしれません。ベートーヴェンだからこそ、こだわっているんですね。
さ て展開部では、下のようになります。第1テーマのモチーフと第2テーマのモチーフが主題労作によって、徹底的に展開されます。第1テーマのモチーフをT1、第2テーマのモチーフをT2とさせていただきました。
ここは展開部のモチーフの活用はすごいですね。
主題労作は、第1楽章だけにとどまりません。
第1楽章の「ダダダダン」というモチーフをアレンジしています。
ほら、やはり「ダダダダン」ですね。
続いて第4楽章では・・・
やはり「ダダダダン」ですね。ちなみに「ダダダダン」は同音連打的なモチーフですが、ここでは「ダダダダン」のリズムを活用しながら音階進行になっています。この音階進行は第1楽章の第2テーマから関連付けられているものです。
「ダダダダン」のモチーフは、楽章を越えて使用されいることがわかりました。いかに少ないモチーフで一つの作品を作り上げているかわかりますね。ベートーヴェンのこの主題労作という曲の作り方、本当に頭が下がる思いです。
ちなみにベートーヴェンのような主題労作のやり方と、モーツァルトのよう主題労作にこだわらず次から次へと流れるように曲を書くやり方、どちらが難しいかわかりますか?
私が考えるに、ベートーヴェンのやり方、つまり主題労作の方が圧倒的に簡単です。新しいものを発想するって、凡人だとネタが尽きてきます。モーツァルトがすごかったのは、どれだけ曲を作ってもネタが尽きないことなんですね。
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ご精読、ありがとうございました。