ベートーヴェンの主題労作のブログを書いていて思ったんですけど、ショパンのあの有名な幻想即興曲、どうやって作られたかわかりますか?
幻想即興曲といえば、ピアノ中級者が「弾いてみたい」と思う一曲ですよね。ピアニスティックできらびやか、テクニカルで甘美、弾けたらカッコいいんですよ。
https://www.youtube.com/watch?v=jD4gCH9Azms
で、最初に、この作品の主要なテーマを三つ確認しておきましょう。
●一つ目(テーマ1)
二つ目の譜面は実際は16分音符で細かく書かれているのですが、ここでは、便宜上、4分音符にアレンジしてあります。
の三つですね。
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で、私の想像なんですが、この曲、ショパンは中間部の重要メロディであるテーマ3を最初に考えたと考えています。↓
このメロディ、とても美しいですね。ショパンも納得のメロディじゃないですかね。
ショパンはこのメロディを思いついた後、このテーマ3を変形させて、新たなメロディを作っていったと思われます。
テーマ3のメロディを短調にしてみましょう。見やすいように嬰ハ短調で書きますね。
(テーマ3 短調)
はい、短調に書き換えました。中間部テーマの短調版です。↑
さてここで、作品の冒頭の「タララタラタラ タラタラタラララ」のテーマ1を見てみましょう。(このテーマ、歌では歌えないね・・・) ↓
そしてテーマ1とテーマ3短調版を並べて比較してみましょう。
テーマ3短調版
どうでしょう。テーマ1とテーマ3短調版ですが・・・リズムはさておき、第2線の嬰トの音から上第1間の嬰トの音まで、音の配列がそっくりですね。
曲冒頭の高速演奏されるテーマ1は、中間部のカンタービレであるテーマ3をあれこれ変形させてできたことが見えて取れます。
ではなぜ、中間部のテーマ3が先に作られたか・・・。それは、口ずさめばわかります。テーマ1をメロディとして口ずさむのはあまりにも不自然。頭で自然発生的に誕生するには旋律が速すぎるんです。歌いやすいテーマ3のメロディが先行して出来たととらえるのが自然ではないでしょうか。
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次にテーマ2を見てみましょう。
テーマ2
テーマ2は曲冒頭が演奏されて、数十秒ほど少し経てから登場する旋律です。
このテーマ2と、中間部カンタービレのテーマ3は、これまた酷似しています。ならべて比較しましょう。
上段が中間部カンタービレのテーマ3(ラスト二つの音は異名同音の書き換えがしてあります)
下段がテーマ2の前半の部分です。
ほら、音の配列、似てませんか?
そっくりですね。
ちなみに、テーマ2の後半も、この理屈と同じ方法で説明できます。
ということで、
これらのことから
幻想即興曲の冒頭から始まる二つのテーマ、つまりテーマ1とテーマ2は、中間部のカンタービレのモチーフと密接に関連しているということがわかります。
これ、ベートーヴェンの主題労作とまでは言えないですが、テーマ、モチーフを関連づけているいうことにおいては、なかなか工夫していると思いますよ。
結論ですが、幻想即興曲は
① ショパンは、はじめに中間部、カンタービレの旋律を作った。理由は、冒頭の高速メロディを自然に歌うのはあまりにも不自然、中間部のメロディが頭に浮かぶのが自然と考えられるから。
② 中間部カンタービレの旋律を短調にしたり、スピードアップしたり、装飾音をいれて遊んでいるうちに、テーマ1やテーマ2のような旋律ができた。
③ テーマが完成したのち、左手の伴奏やテーマ以外の残りの部分を即興的に付け足していった。
というのが、幻想即興曲の成立過程の私の勝手な推測です。
クラシック音楽って、主題を関連付けして別の旋律を作ることが多いです。というか、作曲家のプライドですよね。無秩序にいろいろやるよりは共通性をもたせた方がいいってことですかね。
幻想即興曲、かっこいい曲ですね。
皆さん、今度演奏する時は、テーマやモチーフの関連性を意識しながら弾くと、より一層充実した演奏ができますよ。
あ、あと、この曲を弾こうとしている中高生の皆さん、私の学校現場からの助言ですが、ほとんどの中級者の方がテンポを速く弾こうとしすぎていますよ。少しテンポを落とし丁寧に指を回した方が、圧倒的にいい演奏ができますよ。
ご精読、ありがとうございました。