
山あいの緑と自然に囲まれた静かな病院がよく似合う。
大きな楠の大木を見上げているだけで不思議にざわめきが静まっていく。
楠の緑は何十種類もある。春先に芽吹き、夏の陽に耐えられるほどに育った葉は
深みをたたえて濃い。最近に芽吹いた幼い葉はピンクと朱色を淡く混ぜたような
はかない色に揺れている。
深い緑の大人の葉の色と、芽吹いたばかりの幼い葉の色の間に 形容できない数の緑がある。
突風が西から吹付けてきた。大木はびくともしないが、幼い葉達は千切れそうになって耐えている。
ふと見れば、アゲハが飛んでいる。
ああ、そうだった。楠にはあおすじアゲハの幼生が育つ。
樟脳という言葉はまだ生きているのだろうかとふと思う。
要するに「箪笥にゴン」のような防虫剤を作る原料だ。スピンの故郷 鹿児島の県の木だが、
江戸時代には樟脳は薩摩藩の重要な産物であった。
木そのものも巨木に育つ。台風にも強い。だから今でも鹿児島には楠が多く、あおすじアゲハが沢山いる。
樟脳の原料になるくらいだから、楠にはほとんど虫がつかない。
ただあおすじアゲハの幼生のみが、楠の葉で育つ。
蓼を食う虫を変わっているというが、樟脳の原料を食らう幼生にも恐れ入る。
そんな他愛のないことを考えながら第一日目が終わった。
私の脳はすでに正常な判断の力と筋道から外れている、
診察した医師のそんな言葉すらも、楠の巨木に吹き上げる風と一緒に空へ舞い上がっていった。
2008年9月 スピン
PS:更新停止中でありながらも非常に多くの方が訪れて頂いて感謝の言葉がありません。
有難うございます。
ところで、このシリーズ記事、なかなかリコメができません。併せてご理解をくださいませ。