マシュー・ディクソンとブレトン・アダムソンの共著である”チャレンジャー・セールス・モデル”という全米で40万部の売り上げを誇る本があります。日本語版も出ていますが、これは法人営業にとっては非常にためになる本です。

私の営業活動においても大いに影響を与えています。

 

その本によると、営業マンというのは多くのサンプルからの統計によって以下の5つのタイプに分類されるといいます。

 - ハードワーカー(勤勉タイプ)

 - チャレンジャー(論客タイプ)

 - リレーションシップ・ビルダー(関係構築タイプ)

 - ローンウルフ(一匹狼タイプ)

- リアクティ・プロブレムソルバー(受動的な問題解決タイプ)

 

この中で複雑なソリューションを販売する上で最もパフォーマンスが高いのが、チャレンジャー(論客タイプ)だということが客観的な分析によって明らかになっています。

 

このチャレンジャーというのはどういうタイプかというと、お客様のビジネスをしっかり理解してそれを元にお客様に多少強引でも提案をしていくようなタイプのことをいいます。価格交渉であっても自己主張をしてお客様にプレッシャーをかけることもするようなタイプになります。営業マンが自ら主導権を持って案件をクローズしていくタイプです。お客様が気づいていないことでも自らお客様に積極的に提案をしてお客様を導いていくことができるのがチャレンジャーというタイプになります。

 

仕事ではよく”カスタマーファースト”といってお客様のいうことが第一というようなことが言われます。それはある意味正しいのですが、お客様のいうことに100%従うべきかというとそうではないのが現実です。例えばお客様が競合他社製品より高いから安くしてほしいと言ってきたときに、なぜ自社の製品は高いのかという説明をして、自社ソリューションのバリューを訴求して、そしてそれがいかにお客様に必要かということを説得し、安易に安売りしないというのもチャレンジャータイプの特徴といえるでしょう。

 

実例でこんなことがありました。我々の会社の製品はサブスクリプションタイプで複数年契約をしていたのですが、その時まさに契約更新のタイミングでした。そのお客様は大手企業で数万ユーザーの契約していたので金額はとても大きく、年間あたり1億円は越えていました。そして次回契約時には現行の価格より10%程度価格が上がる見積もりを提示していました。前任の営業がお客様および自社の販売店から”どうして同じ機能を提供しているのにそんなに値上げをするの?機能はこれまでと同じでしょう?”と強く詰められていました。

前任の営業マンは”はい、機能はかわらないです、、でも会社から値上げになると言われておりまして、、”という苦しい説明をしていました。そのタイミングで営業担当が私に変更となりました。前任営業は”やれやれ”という形でさっさとその件から退きました。

 

私に担当変更になったタイミングでお客様と販売店から同じことを言われました。そこで私はこのような説明をしました。

”確かに提供している機能は同じです。しかし我々のサービスは全て自社のデータセンター上で提供しており、データセンターのコストもご提供価格に反映されています。電力のエネルギーコスト等の影響も受けます。そのサービスを全世界で提供しておりますので、当然物価上昇率の勘案して弊社の提供価格が決まっております。また世界中で新たなセキュリティ脅威が日々出現しており、我々はそれに対応するための投資を行なっております。そして我々のサービスはクラウド上でセキュリティを提供するソリューションですので膨大なトラフィックを捌くことができるように日々システム増強を行なっています。ほぼ全てのお客様のインターネットトラフィック量は毎年2倍に増えています。御社も例外ではありません。弊社がもし我々がクラウド上で行なっているソリューションから仮にお客様自身でオンプレミスでシステムを構築する場合、毎年より多くのコストがかかるはずです。弊社であればわずか10%程度の上昇でご契約することが可能になります。しかも複数年契約をしていただければ10%上昇分の価格を複数年維持してご提供いたします。複数年契約の間は値段はFIXでご提供いたします。”

 

お客様からの価格交渉にもひるまずに、理論整然と価格上昇の理由と自社ソリューションのメリットを説明したことによって、最終的にはこのお客様とは5年間の包括契約を更新することができました。

 

上記のような状況のとき、例えば関係構築型の営業ではおそらく問題解決はできないでしょう。社内で価格維持の交渉をして、価格担当からは断られて途方に暮れることでしょう。

 

お客様にこちらから提案していく、お客様に適切にバリューを提供して案件をコントロールしていけるタイプの営業でなければこれから生き残っていけないのだと思いますし、営業目標を達成することは不可能だと強く信じています。

 

 

 

当然ですが、会社には様々な部門があります。エンジニアリング、ファイナンス、HR(人事)、リーガル、サポート、セールスオペレーション等々、ファンクション毎にチームが組まれています。営業部門は多くの部門の中の一つとして存在します。

 

各リージョン(例えば日本)のトップはそのリージョンの営業部門長の人が行うことが多いです。外資系(特にIT企業)でいうカントリーマネージャーというのは社長だと思われがちですが、そうではなくて現実的には営業部門長です。そしてその営業部門の中では、顧客の企業規模別でチームが分かれたり、業種カットでチームが分かれたりします。それぞれチームにはリーダー、外資系ではダイレクターという役職の人がいて、その下に担当営業がいる形になります。

こう考えると担当営業は組織の底辺に存在している一番ちっぽけな存在のように思えてしまいます。

 

一方で多くの企業でカスタマーファーストということを大きな目標として新規顧客の獲得や既存顧客のリテイン(保持)活動を行います。特に昨今ではIT業界においてはサブスクリプションモデルを取っているので、お客様に契約更新をして利用し続けていただかないといけないため、特にお客様の声に耳を傾ける傾向が強くなってきたように思います。

 

ここからが本題ですが、お客様と相対しているのは営業マンです。そして会社はお客様が一番大切だと言っています。

私は営業マンとして仕事をする際に、自分の存在を常に会社の組織図をひっくり返して考えています。つまりお客様が一番上にいて、そのすぐ下に担当営業がいる。そしてさらに下にマネジメントの人達がいると考えているのです。

 

そして、営業マンがオーケストラの指揮者のようになって社内の関連者を使ってうまく案件をコントロールしていくことによって会社全体の売り上げが伸びるかどうかが決まってくると思います。

例えば自分が担当となった見込み客が自分とつながりがない会社だった場合、どうするでしょうか。自分だったら、まず社内のデータベースを調べてその企業の人が存在しないかを調べます。あればコンタクトを取りますがなければ様々な関連部門と連携をしてコンタクト先を探します。

例えば自分の担当する見込み客とすでにお付き合いがある販売店がないかと考え、自社のチャネルセールスチームにお願いして販売店の担当営業を紹介してもらいます。

また、マーケティングに依頼してイベントでリード獲得をしてもらったり、見込み客へ直接アプローチする活動を取ってもらいます。

またインサイドセールスチームに依頼して見込み客にコンタクトをしてもらうのも一つの方法です。

自社組織にテクノロジーアライアンスパートナー担当がいれば、そこを通じて見込み客がその製品の利用企業でないかを調べるのも良いでしょう。

 

アポが取れたら今度はプリセールスSEと一緒に初回ミーティングを行います。初回ミーティングの準備等についてはこれまでのブログで書いていますので省略しますが、何度かミーティングをして見込み客と関係構築がされて案件が進んできたらお客様の上層部と自社のカントリーマネージャーとの面談を調整して、受注確度を更に高くしていきます。

 

こういうことは全て担当営業がリードして行います。担当顧客のことを一番知っているのは担当営業です。自分の上司でもカントリーマネージャーでもありません。自分がリードして上司やマネジメント層、また関連部門の人間を動かしていくのです。できるだけ多くの人を巻き込んで組織として案件をクローズすることを心がけると受注確度が高くなります。

 

このような意識がない営業マンは必ずどこかで行き詰まります。私はとても器用で技術的なことを話せて経営コンサルタントのように提案することができる営業マンを知っています。なんでもできるのであまり周りに協力を得ずに一人でどんどん提案を進めていきます。

例えばこんなことがありました。その何でもできる営業マンは見込み顧客に提案をして、社内にはけっこう大きな金額でフォーキャスト(業績目標管理)をアップデートしてチームメンバー及び上司には受注確実と報告していました。

ところが最後の最後でその大型案件を失注してしまいました。お客様が競合他社に決めたというのです。よくよく理由を聞くと、大規模案件なのにお客様上層部と握れていなく、つねに販売店を通じて案件の活動を行なっていたからでした。その営業マンは常に販売店の言っていることを信じ切ってしまっていたのです。もしもその人が周りを巻き込んで進める意識を持って活動していたら、最後の最後で突然失注するという事態はさけられたと思います。

 

”自分でなんでもできる”という過信をもって一人でどんどん案件を進めていくのは特に大型案件では危険です。そういう案件だからこそ自分が指揮者になって自社のステークホルダーを動かして組織として案件を進めていく必要があります。

営業マンが組織の末端にいる担当者と自らを考えるのか、大きな組織を動かす指揮者と考えるかによって、行動及びその後の結果に大きな差が出てくると思います。

 

 

前回はお客様との初回ミーティングでの質問の重要性について述べました。

そして何を質問すべきかについてはお客様の課題について情報を引き出すことが大事だということも述べました。

今回はお客様の課題に関する情報の引き出し方について書こうと思います。

例としてITセキュリティ製品を売る会社の営業マンのの私の場合、こういう視点で準備するということをお伝えします。

 

見込み客との初回ミーティングを行う前に情報収集が必要だということは以前のブログで述べました。

 

 

お客様とのミーティング前にはできるだけ以下の観点から情報を集めます。

1. 会社全体の戦略:

 - 国内外に事業を展開して今後は海外の売り上げに比重を置く戦略を発表している

 - 事業拡大をここ数年M&Aを通じて行っている

 - 中期経営戦略の中で新しい事業に進入して差別化を図る方針と述べている

 

2. ITに関連する戦略:

 - M365のようなパブリッククラウドとAWSのようなプライベートクラウドを活用(導入事例のウェブサイト)

 - 某キャリアとデータセンター契約を締結(某キャリアのプレスリリース)

 - 在宅勤務を奨励。どこでも働ける環境を整備(自社のプレスリリース)

 

そして、そこから考えられる課題やリスクをリストアップします。

 

- 国内と海外では統一したセキュリティポリシーを持って運用していないのでは?ガバナンスの統制が取れていないかもしれない。

- ユーザーの通信はすべてデータセンターを経由してクラウドに接続しているのでアクセスが遅くなるのではないか?

- 在宅勤務者がデータセンターへのVPN接続をオフしてインターネットにアクセスされるリスクはないだろうか?そこからマルウェア感染や情報漏洩が起こるかもしれない。

 

そのようにして上記のような仮説(課題)をリスト化してお客様とのミーティングでスライド化して質問をします。

 

そうすると私の経験上、お客様は”その通りです。実はXXXで、、、”とか”実は脱データセンターをいま考えていて、、、”というように自社の課題や状況についてより詳細を語ってくれるケースが多かったです。

 

お客様からすると”この営業マンはここまでうちのことを調べているのか。それであれば自社のことを話してもいいか”という気持ちになるのではないかと思います。

 

営業マンからすると、そこでお客様との会話の中で入手した課題について自社であればどのように課題解決できるのかという観点で自社ソリューションでどう解決できるかという説明や他社と比較した自社のバリューの訴求にスムーズに入ることができます。

 

ごく当たり前のことかもしれませんが、こういったお客様の課題を引き出して課題解決型の営業をできない人は周りに意外と多く、そういう人に限って最初に価格を出したがります。

そうなるとポイントは競合他社より高いのか安いのかという話になってそれをどれだけ安くできるかという方向に話が進んでしまいます。

あくまでお客様に対して自社のバリューを訴求してそれを理解してもらわなければ案件の主導権は握れませんし、そのためにはお客様の課題に対してどのように解決できるかというような提案とそれに対するディスカッションに持っていかないといけません。

その第一歩がお客様に関する情報収集と仮説(課題)のリスト化になります。