BBC NEWS JAPAN より
ジャニーズ解体のその後……ほかにスタッフ2人がタレントに性的加害
モビーン・アザー、BBCニュース
日本の芸能界の大物が長年にわたり性的虐待を続けていた問題で、被害者への補償業務を担うことになった人物は、このスキャンダルは当初思われていたよりさらに根深いものだと話した。
ジャニーズ事務所の解体後、故ジャニー喜多川氏に虐待された被害者への補償業務に専念するため、昨年秋に社名を変えて「SMILE-UP.」が設立された。その代表取締役社長、東山紀之氏はBBCの取材に対して、ほかに2人のジャニーズ事務所スタッフが少年タレントを性的に加害していたと聞いていると明らかにした。
この人物たちは現在も存命だと認識しているとも、東山氏は話した。
BBCによる2023年の調査報道以来、960人以上が喜多川氏による性的虐待を生き延びたサバイバーとして、名乗り出ている。
BBCによる単独インタビューで東山社長は、社内調査の結果、喜多川氏のほかにも2人の事務所スタッフがタレントを性的に虐待していたと認め、「僕がいま聞いているのは、2人と聞いています」と答えた。
しかしこれについて、BBCが今年2月にインタビューした時点では、SMILE-UP.は情報を警察に提供していないとも、東山氏は述べた。
「法的なことを考えると、僕らには権限がないと思いますので。その当事者の人たちがそれに対して刑事告訴をしたら、僕らとしては全面的に協力するということになるとは思います」と、東山氏はBBCに話した。
事務所スタッフ2人による性的虐待のサバイバーたちが刑事事件としての立件を希望するか、SMILE-UP.は本人たちに尋ねているのかBBCが質問したところ、「どなたなのか理解していない」と、東山氏は答えた。
ジャニーズ事務所を立ち上げ、日本の少年アイドル全盛期を作り上げた喜多川氏は2019年に死去した。そして当時は、日本の大衆文化への貢献を大いにたたえられた。
しかしBBCのドキュメンタリー「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」が昨年3月に放送されたのをきっかけに、同事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」は調査の末、喜多川氏が60年にわたるキャリアにおいて数百人の少年や青年を虐待したと結論づけた。
これを受けてジャニーズ事務所は昨年10月、事務所の「解体」を発表。被害者への補償を担当する会社は社名を「SMILE-UP.」とするとした。さらに昨年12月には、タレントのマネージメントなどを行う新会社は、社名「STARTO ENTERTAINMENT」になると明らかにした。
SMILE-UP.は、補償手続きを取り仕切るため、元裁判官の弁護士3人で構成する「被害者救済委員会」を設置した。
東山氏はSMILE-UP.の社長に就任した。その東山氏についても、いじめや性的加害の疑惑が出ているが、東山氏はこれを否定している。
SMILE-UP.は、補償請求の手続きが不透明だと批判されている。そのほか、喜多川氏による加害のサバイバーとのやりとりが、後手後手に回って遅すぎるとも批判されている。サバイバーたちは補償手続きの仕組みが、明確な期限の定めがない、行き当たりばったりの仕組みに思えると話す。
二本樹顕理氏は元ジャニーズJr.だ。スターを夢見て13歳の時、Jr.になった。
そして二本樹氏は昨年、喜多川氏に関する報道を知り、自分が受けた虐待の経験を公表した。二本樹氏は今回、「まだ隠されている問題があると思う」とBBCに話した。
二本樹氏をはじめとする大勢にとって、正義はまだほとんど実現されていない。喜多川氏による虐待のサバイバーたちを代表する弁護士は、SMILE-UP.の補償手続きを「まるでブラックボックスのようだ」と話す。
そしてSMILE-UP.が自ら、サバイバーたちの証言を疑問視している。会社設立から間もなく、同社は自社サイトで、「弊社は現在、被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数あるという情報にも接しており」と書いた。
虐待の経験を公表したサバイバーの中には、オンラインで大勢から非難され、いやがらせを繰り返された人たちもいる。
匿名を希望する女性は、自分の夫が喜多川氏から虐待されたと公表したため、殺害予告や誹謗(ひぼう)中傷の対象になったとBBCに話した。
「夫はすべてを明らかにしたかった。子供たちの未来が、同じような形で傷つけられるのは、いやだと思っていた」
この男性が名乗り出て被害を公表すると、その個人情報がオンラインにさらされる羽目になった。
やがてこの男性は妻にテキストを送った。自分は山に来たのだと。そしてこの人は、そこで自分の命を絶った。
「もう警察が3人ほど来ていて、登山の人が見つけてくれてて、『病院に連れていって下さい』って言ったけれども、もう遅かったようです」
東山氏は、このことについて承知していると話した。
「言論の自由もあると思うんですね。(中略)僕は別に誹謗中傷を推奨しているわけでもありません。できることなら、本当にオンラインの誹謗中傷をなくしたい」
東山氏は、被害を申告した200人近くと、すでに面会して話をしたという。
「それによって少しでも心がいやされれば、それが僕の役割なのかなと思います」と、東山氏は説明した。
東山氏は、自分は性的虐待のサバイバーを支援するための、カウンセリングの正式な訓練は受けていないし、経験もないと認めた。
SMILE-UP.は、被害を申告する人たちに専門家によるカウンセリングを提供し、その費用を負担している。
「それは無期限にやろうと思っています」と、東山氏は述べた。
BBCの昨年の報道を受けて、日本の大衆文化における喜多川氏の評価は国民の意識の中で、大きく変わった。
岸田文雄首相に対しては、性的虐待にかかわる法制を改革するよう、圧力が高まっている。
日本では昨年6月、性交同意年齢を引き上げる刑法改正案が成立した。2019年に、性犯罪で起訴された被告人に対する裁判所の無罪判決が相次ぎ、世間で怒りの声が噴出したことが、その原動力となった。
さらに昨年、喜多川氏の行動についての報道があり、国民的な議論が続いた結果、自分が受けた被害について多くの男性が公に語るようになった。
それでも虐待サバイバーの中には、自分が体験を証言したにもかかわらず、正義は依然としてなかなか実現されないと考える人もいる。
二本樹氏は、虐待サバイバーが区切りを得るための支援が必要だと考えている。そして、ジャニーズ事務所の後継会社SMILE-Up.は、まだこれを実現できていないと。
「責任をとってもらいたい。日本の戦後で、最大の性暴力事件だと思う。一時的な問題だったかのように、このまま薄れていくことなど、あってはならない。これは、日本の歴史の一部として刻み付けることが大事だ」
(英語記事 Two more abusers at J-pop predator's company)
アザー記者が新たに取材した番組「捕食者の影 ジャニーズ解体のその後」は、BBCニュースチャンネルで3月30日(土)午後12:30より日本を含む世界で放送されます。
なお、東山社長とアザー記者の、約30分におよぶインタビューの動画は後日、別途掲載します。
性犯罪・性暴力被害の複数の相談窓口を、日本の内閣府がまとめたサイトはこちらです。