【話題の人】 和田 丈嗣:大ヒット『SPY×FAMILY』を制作 | ねぇ、マロン!

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曽田歩美様に頼んでマロンの絵を描いていただきました。

【話題の人】和田 丈嗣:大ヒット『SPY×FAMILY』を制作

三田評論ONLINEより

  • 和田 丈嗣(わだ じょうじ)

    アニメーションプロデューサー、株式会社WIT STUDIO代表取締役社長

    塾員(2001 法)。2005 年株式会社Production I.G 入社(現社長)。12年株式会社WIT STUDIOを設立。13年アニメ『進撃の巨人』をプロデュース。

  • インタビュアー石川 俊一郎(いしかわ しゅんいちろう)

    慶應義塾名誉教諭・評議員、映画プロデューサー

コンビニまで『SPY×FAMILY』

── 12月22日に劇場版『SPY×FAMILY CODE: White』が公開されました。コンビニではいろいろな商品とコラボして大人気。前売りチケットもすごい売れ行きだそうですね。

和田 有り難いです。一番人気を実感したのは、コンビニで日用品までグッズが広がっていることです。カップ麺になったり、人々の生活の中に入り込んでいるのを見て、国民的なブームになったんだなと実感しました。

── 和田さんは1978年生まれです。80年代、90年代のアニメはどういうものを見てきたのですか。

和田 もともとは親の影響が大きくて、ディズニー映画やジブリ映画をたくさん見ていましたね。また、小学校時代、僕はピアノを習っていたのですが、行くのが嫌で「『少年ジャンプ』を買うからピアノに行こう」と、母が僕を連れていったことを覚えています(笑)。なので『少年ジャンプ』作品、ジブリ、ディズニーでしょうか。

── すごく普通ですね(笑)。高校、大学になってからはどうでしたか。

和田 ちょうど自分が大学生の時、『新世紀エヴァンゲリオン』を見ました。この『新世紀エヴァンゲリオン』と『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『機動警察パトレイバー the Movie』などの作品を、TSUTAYAでレンタルして、しきりに見ていたのが、あらためてもう一度アニメに戻ったきっかけですね。

押井守監督作品は全部見ましたし、庵野秀明監督、宮崎駿監督のものも全部見ました。

── でも、大学卒業後は、一度は外資系IT企業に就職したわけですよね。

和田 当時ちょうどアメリカ発のITバブルで、外資系のコンサルタントやIT企業に入るということに憧れて、僕もアメリカの企業で働きたいと思い、外資系の日本法人に入りました。

アニメ業界へ入るきっかけ

── 4年間勤めて転職し、いよいよアニメ業界に入ってしまう(笑)。大きな転機となったのはなんでしょうか。

和田 東京大学大学院情報学環が中心になって行った「コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム」という主に社会人向けの講座に参加したことがきかっけです。この講座では、多くのエンターテインメント系企業の方がゲスト講師として招かれ、直接話を聴くことができました。

その講座の中心人物の1人が、浜野保樹先生で、当時、Production I.G(以下I.G)の監査役をされていました。浜野先生のご紹介で、講師で来られた石川光久(現I.G会長)さんに出会いました。彼らとの出会いから、I.Gに入りました。

── I.Gにはプロデューサーをやってね、と言われて入ったのですか?

和田 最初は、社内Web担当からスタートしました。社内Webは、社内の主要メンバーとかかわらないとできない仕事です。この仕事をすることで、I.G社内の主要な方たちとつながりがもてたのは、今でもよかったと思います。

その後、I.Gではやれることを全力でやった結果、有り難いことに周りの推薦からアシスタントプロデューサーとなりました。

── プロデューサーの一番の仕事はお金を集め、そして人を集めることだと思いますが、和田さんはマンガを描いていたことはあるのですか?

和田 一度もないんです。ですので、逆にクリエーターへのリスペクトが非常にあって、自分にできないことをやっている人だという思いがある。ならば僕は環境を整えようと、お金と人を集め、会社をつくりました。ずっと変わらずにクリエーターが活躍できる環境をつくることが自分のやれることだと思ったからです。

自分ができないことなので、そこは明確に役割分担をして、誇りを持って僕は今の自分の仕事をやっていますね。

「最速」で劇場版へ

── 『少年ジャンプ+』というマンガ誌アプリで配信連載からスタートした『SPY×FAMILY』は、話題になってから紙ベースになり、コミックスは累計3千万部超出ています。そしてアニメ化されたわけですが、どの時点でオファーがきたのですか?

和田 当時、『少年ジャンプ+』からのアニメ化の話はオープンなコンペティション方式がとられていました。『SPY×FAMILY』もコンペ形式からのアニメ化という形で、こういう展開でやりたいですとお伝えして、それが採択されました。

── なるほど。WIT STUDIOとCloverWorksの2社が主たる制作会社として、テレビ版アニメを2022年4月から12月までの間に計25話やりました。どのように2社をすみ分けたのですか。

和田 今、アニメーションの消費のサイクルがどんどん短くなっていて、スピードとタイミングが求められています。その中で2022年にテレビシリーズが2クール、翌年に1クールと劇場版というのは最速だと思います。

スピードを意識する、ということは当初から企画のコンセプトにありました。『少年ジャンプ+』という配信の時代になり、移り変わりがどんどん早くなる中、通常は4、5年かけて劇場 にたどり着くところを「ヒットしたらスピードを意識しよう」というコンセプトでした。

制作会社の分け方はシンプルに最初のテレビシリーズは奇数話、偶数話で分け、2年目は、主にテレビシリーズはCloverWorks、劇場版はWIT STUDIOという形で整理しました。

── 劇場版が今回のプロジェクトの1つの目標ですよね。昔、セル原画の時代はまったく休みなしで作っていたそうですが、今のコンピュータで作るアニメは、30分の番組を作るのにどれぐらいの時間がかかるのですか。

和田 大まかな目安ですが、脚本完成が2カ月。絵コンテが大体2カ月で、これで4カ月。残りの作画が4~6カ月で、大体9カ月と思っていただければと思います。

でも、これはWIT STUDIOのペースで、日本に数百あるアニメーションスタジオの中には、他の考え方で作る会社ももちろんあります。何に時間と人を使うのかというポリシーと価値観にもよるわけです。

── WIT STUDIOはこういう作り方を選択されると。

和田 そうです。でも、アニメーション業界は全体として昔に比べると本当に変わってきています。今、残業時間は月45時間以内をもちろん守るのが基本です。今は成熟した企業になりつつある。祝日、休日もしっかり取る。IGポートという上場企業の主要子会社ですからね。

── さらに、WIT STUDIOではクリエーターを自前で養成していますね。養成した人が他の会社に行くかもしれないけど、アニメ業界をリードしていく会社にしたいのですね。

和田 そうですね。今はそれが本当に大きな流れになっていて、需要が多くて、供給側が間に合っていない中、結局は「人」が大事なのです。

ある一定規模の会社に関しては、育成が最優先だということに皆気付いています。

全世界の配信プラットフォームへ

── 今のテレビ東京の放送は土曜日23時からの枠ですが、リアルタイムの視聴率を見ると、大体個人視聴率が2~3%。世帯で見ると7~8%。これはすごい数字ですよね。

和田 よくぞここまでという感じです。

── 他の局ではなくて、どうしてテレ東だったのですか。

和田 テレ東さんは『NARUTO―ナルト―』をやられていて、深夜およびジャンプアニメに関する知見と関係性があり、早くからアニメーションに積極的に取り組んでこられたということがありました。

── 一方、アニメも配信のほうが見る人の数は圧倒的に多いですよね。僕はHuluで見たのですが、Huluは日テレなのに、全話が見られる。これはテレ東が偉いのですか、Huluが偉いのですか(笑)。

和田 アニメファンが偉いのではないですか(笑)。やはり見たいという要望が強いわけです。それに対していくつか戦略がありますが、『SPY×FAMILY』は全方位戦略をとっているので、ひとつの配信プラットフォームで独占するようなことはしていません。

さすがに地上波の他局で流れることはないですが、それ以外は全方位でやらせていただいています。

── 今、配信はいくつぐらい?

和田 もう数え切れないほどです。TVアニメ『SPY×FAMILY』を取り扱っているプラットフォームは、全世界のアニメーション配信プラットフォームのおそらく9割以上です。日本アニメの代表的なもの、『鬼滅の刃』などもそうなっています。

── しかし、WIT STUDIOが配信プラットフォーマーとする契約は1回見られるといくらもらえる、という契約ではないですよね。

和田 そうですね。配信プラットフォームによる実視聴数は開示されていないのが実情です。ここが、ハリウッドがストライキをした1つの理由で、プラットフォーマーが開示をしない。

そこは僕らも同じ感覚を持っています。今回、ハリウッドとプラットフォーマー側とで何かしらの妥結があったので、プラットフォーマー側も何かしらの回答を制作者側に提示することを期待しています。

ハリウッドのストが日本のアニメの制作の現場につながっている、という視点は皆に持ってほしいと思っています。映像文化を守るために戦っているわけで、僕らにもつながっています。

大切にしたい世界観

── 技術的なことも聞きたいと思います。マンガの場合は見開きで1つの絵にして、大きなインパクトを与えたりします。
 アニメは画面の大きさが決まっていますが、どのように原作のマンガを消化していくのでしょうか?

和田 マンガはコマ割りが見開きであるとか、いろいろなテクニックがある。それに対してアニメは、画面の大きさは決まっていますが、「間(ま)」であったり、音であったり、音楽であったり、声優さんの芝居であったり、いろいろな手段があります。

マンガを読み解いて文字にするのが脚本家で、それをアニメーションに構成するのが絵コンテです。原作マンガの意図や原作から受けた衝撃をどう表現するかが、まさに僕らアニメチームのスキルが問われるところです。これをどの会社が作るか、どのクリエーターがやるかで変わる部分です。

── TVアニメ『SPY×FAMILY』は今のところ、遠藤達哉さんの原作をほぼ忠実になぞっていますよね。原作を超えることはあるのですか。

和田 作品の状況にもよりますが、TVアニメ『SPY×FAMILY』はそうはしないとプロデューサー陣は考えています。

『名探偵コナン』や『ドラえもん』等の世代を超えて愛されている作品がすでに存在する中なので、もう一段クオリティーを上げて、他とは違う世界観として構築して提供しないと差別化できない。

原作のマンガを薄めたようなものは、アニメファンではない今の10代の子たちからはスルーされてしまう。アニメのクオリティーは世界中の人たちにわかってしまうので、そういったテレビシリーズは世界でも見られてはいません。

一方、TVアニメ『SPY×FAMILY』や『鬼滅の刃』はクオリティーを意図的に上げ、原作者も含めて世界観を作り込んで、世界中の人たちから見られる作品にしています。

昔のようにアニメスタジオの立場が弱ければ、こういった議論にはならなかったかもしれませんが、今は日本国内だけではなく、世界も視野に入れたキャラクタービジネスにアニメビジネスが変わった。勝負の力点が変わったのですね。

CGを多用する映像

── なるほど。アニメで船の上で花火が上がるシーンは見事な美しさでしたが、あれはCGなのですよね。CGのほうがお金はかかるでしょう?

和田 そうですね。そういう部分にはお金と時間をかけています。かなりの部分をCGとの組み合わせで作っているので、ハリウッド映画に近くなってきていると感じています。

絵コンテをしっかり作り込んで、CGで何を作るかを最初に決め、その上で、じゃあ作画は何をするという順番で考えています。

── また、作中で2人が話している時に、手前側にフォーカスを合わせて、奥側はわざとぼかしておいて、まるで実写映画のカット割りのようにピントが動く。あれは演出ですよね。

和田 演出です。脚本の次の段階で、演出込みでコンテが描かれるので、全てそういう意図はコンテ上で出来上がっています。

── 音楽もシーズンワンでも1クールと2クールでエンディングもオープニングも変わりますよね。『ドラえもん』や『サザエさん』のようにいつも同じ歌ではなく、変えていくのは、各ミュージシャンとコラボして、皆が潤うようにという意図なのですか。

和田 そうです。おっしゃる通り、一時期、アニソンは「『ドラえもん』はこの歌」という手法でしたが、今は、短尺で音楽が付いているものが10代、20代を引きつけるのです。

例えば『推しの子』の中でYOASOBIさんが「アイドル」を歌ってYouTube で1億回以上再生となり、ビルボード・グローバル・チャートで1位となる。日本のアニメーションが世界中に広がっていく時、音楽と映像の組み合わせがすごく注目されます。

コラボレーションという形で例えば星野源さんのファンにも届くし、星野源さんが歌っているアニメだから何かメジャー作品っぽいという捉えられ方もします。市場に対してそのようにインパクトを与えて「バズ(Buzz)」を生みだしているという感覚です。

── オープニングとエンディングのタイトルもアニメは特別な制作者で作っている。シーズンツーのオープニングは特に心に残りました。

和田 このオープニングを作られた方は湯浅政明さんというアニメーション映画の監督で、アヌシー国際アニメーション映画祭などで賞を取られている方です。『SPY×FAMILY』の本質を一面で切り取った素晴らしいオープニングだと思いました。

── 劇場版はオリジナルの脚本を書いて、原作とは違う形で新しく全部作っているのですね。

和田 はい、当初思っていたベストな形にできたと思っています。最初からやるなら劇場版はオリジナル脚本で作ろうと思っていました。

やはり映画館で観られるものは違うと思っているので、ぜひ観ていただければと。

── 和田さんと最初に会ったのは2016年、『四月の永い夢』(中川龍太郎監督[塾員]、モスクワ国際映画祭批評家連盟賞受賞)の打ち上げでしたね。2人ともプロデューサーでしたが、和田さんはまた将来、実写に力を入れることはあるのでしょうか。

和田 これまでは実写に関してあくまで従来の実写映画の流儀にのっとって参加したという意識です。でも、これからはちゃんと自分なりの戦い方であらためて実写映画を再定義していこうと思っています。

── また一緒に映画を作りたいですね。これからの活躍に期待しています。

 

(2023年12月8日、吉祥寺WITSTUDIOにて収録)

 

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。