② 球状マリモの生長特性 |   マリモ博士の研究日記

  マリモ博士の研究日記

      - Research Notes of Dr. MARIMO -
  釧路国際ウェットランドセンターを拠点に、特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」と周辺湖沼の調査研究に取り組んでいます

(1)構造と生長方法
 マリモの球状集合体(以下、球状マリモ)は、糸状体と呼ばれる藻体が多数集まったもので、集合状態の違いによって、糸状体が中心から外に向けて放射状に密生した「放射型」と、糸状体が無秩序に絡み合った「纏綿(てんめん)型」に大別される。いずれも表面の糸状体が外側に向けて伸長生長することによって大きくなる。光があたった側でしか生長しないため、天然条件では波動によって回転運動を行い、表面の全体がまんべんなく光合成する必要がある。

 

球状マリモから摘出された糸状体(長さは約 3cm).

 

放射型球状マリモの表面観(左)と切断面(右)(直径は9 cm).

 

 

纏綿型球状マリモの表面観(左)と切断面(右)(直径は9 cm).

 

 

(2)直径の効果
 球状マリモの直径が大きくなると、受光面となる表面積の増加分よりも呼吸に与る体積の増加分が大きくなるため、球体あたりの光補償点は増加する。それゆえ、一般に大きなマリモほど生長と構造の維持に強い光を要求するようになると考えられている。

 

直径によって変化する放射型マリモの光合成-光関係(吉田ら1994).

 


(3)空洞形成
 糸状体の生長に伴ってマリモの直径は増大するが、光が当たらない内部では、「放射型」では中心付近から、「纏綿型」では内部のあちこちで糸状体が徐々に枯死し、遺骸が微生物によって分解される結果、空洞を生ずる。阿寒湖チュウルイ湾の放射型の場合、直径が7~10 cmに達すると空洞の形成が始まり、大きくなるのに伴って、空洞も拡大する。

 

内部に空洞を生じた大型球状マリモ(直径は約22 cm、外層の厚さは4~5 cm).

 

放射型マリモの内部構造とその代謝特性を示す概念図.上の断面写真では同じように見えるが3層に区別される.

 

 

(4)崩壊
 糸状体が十分に生長を続けていれば、球体は構造を保ち続けることができる。しかし、光不足などによって糸状体の生長が抑制されたり、あるいは高温になって内部の糸状体の枯死・分解が促進されると、空洞の拡大が進んで糸状体が密生する外層が薄くなったり、糸状体の密度が低下して集合状態が緩くなる。その結果、球体は崩壊する。
 同様の現象は、マリモが回転できない場合にも起こり、多くの場合、長く光が当たらない側で球体に割れが入り、構造が壊れる。

 

水草が繁茂して波動が緩和され、回転不足となって破損が進むマリモ

(赤矢印:破損して外層が板上に広がったり断片化したもの,白矢印:割れたり一部が欠損したもの).

 


(5)付着生物の影響
 一定の大きさと堅さを有している球状マリモは、他の藻類や水草の実生(種子から発芽した幼植物)の付着基質となる。そのため、藻類が過密に付着したり、水草が繁茂したりすると被陰によってマリモの生育が阻害される。
 しかし、阿寒湖の群生地では、球状マリモが3~4層に重なっているため、大きな波浪が発生して層の上下が入れ替わると、上層に位置するマリモの被陰効果によって、下層のマリモの表面に付着した藻類や実生が枯死し、排除される。耐陰性が高いマリモそのものは生き残ることができる。


マリモの表面に密生したカモジシオグサ.

 

 

(6)再生
 阿寒湖では、大きく育った球状マリモが風波によって湖岸に打ち上げられ、崩壊して断片化する。この一部は浅瀬で生長を始め、再び球状マリモに発達する。



阿寒湖で見られる球状マリモの生長と崩壊・再生のサイクル.

 

 (つづく

 

  《 目次へ 》

  《 ←前へ 》  ① マニュアルの目的

  《 次へ→ 》  ③ マリモ糸状体の生長条件