ネットを開いてビックリした。2024年8月20日。声優の田中敦子・死去。死去当日に公式発表と言う流れは、この御時勢に珍しい事だ。有名人の死去報道は葬儀一切が終わってから報告と言う流れが当たり前になっていただけに衝撃度は中々強い。
個人的な想いとして、近年の<三大・熟女声優>と言うのがあって、年齢順に行くと田中敦子、湯屋敦子、甲斐田裕子の三人で、その一角が、こんなに早く早世してしまうとは全くの想定の範囲外であった。
三人には共通点が一つあって、戦う女を演じたら一級品の声優と言う位置付けなのである。御三方とも映画や海外ドラマの経験は豊富で、それぞれに代表作があるのだが、最も多くの人に知られる切っ掛けになるのはゲームとアニメで、このジャンルにおいても、この三人ならではの唯一無二のキャラがある。
特にゲームのバイオハザードでは、甲斐田裕子のクレア・レッドフィールド、湯屋敦子のジル・バレンタインは双璧と言うか鉄板と言うか、代えが利かない感じのフィット感がある。甲斐田裕子の清涼感溢れる知的な勇ましさと、湯屋敦子のシャキシャキとした<デキる女>って感じの吹き替えは聴いてて気持ちがイイ。
田中敦子はどうか?どうかと言うより、どうだったか?と言う過去形になってしまうのだが、真っ先に思い浮かぶのは2003年から2010年まで全7シーズンに渡って放送された「コールドケース 迷宮事件簿」と言う海外ドラマ。リリー・ラッシュと言うヒロインの女刑事が抜群のカッコ良さで、そのリリーを演じたキャサリン・モリスの吹き替えを担当してたのが田中敦子だった。
印象としては、大人の女と言うか、自立した強い女と言うか、或いは青年主人公のママ役というのもあった。時に刺々しく、時に色っぽく、時に甘え上手な女と言う風に、器用に立ち回るタイプの声優さんであったと思う。
田中敦子、湯屋敦子、甲斐田裕子の三人は、90年代に飛躍した人達で、次世代型のヒロイン声優だった。70年代から80年代は、戸田恵子や小山茉美、藤田淑子あたりが、映像でよく耳にする代表的な強い女を吹き替える声優達だった。
近年の戦う女は昔とは趣が違う。物理的なアクションより頭脳を駆使して戦う状況判断型のヒロインの方が受けがイイらしい。グレネードランチャーや火炎放射器の様な凄い武器で立ち向かう代表格と言えば、エイリアンで有名になったシガニー・ウィーバー演じるエレン・リプリーだろう。シガニーと言えば戸田恵子である。アーノルド・シュワルツェネッガーの初期の頃の作品で共演してたサンダール・バーグマンと言う女優の吹き替えも戸田恵子だった。声優としての戸田恵子の歴史は非常に深い。
藤田敏子と言えば北斗の拳のマミヤ。仕込みのヨーヨーで男の顔面を叩き割る美人・女戦士だし、キャッツアイでは三姉妹の長女・ルイ姐さんで、美しい女強盗が印象深い。
小山茉美と言えば、シャロンストーンが定番だろう。有名な氷の微笑もいいが、個人的に良かったのはクイック&デッドの女ガンマン。後はシルベスター・スタローンと共演したスペシャリスト。この辺りの作品が<戦う女>っぽくてイイ。
何故かは判らないけど、声優と言う職業の人達は寿命が短い。しかもレジェンド級の声優に限って早世してしまう。2024年は大量にレジェンド声優が逝った年になってしまった。
世間と声優の関係って面白くて、互いに歳を重ね、その時々で想い出の作品を共有しあう。一人一人に好きな声優が居て、好きな作品がある。俳優、歌手、声優、芸人、漫画、小説、これらは全部、その人が生きた証として残っていく。その人が世を去ったとしても、作品は残り続ける。それらを守り続ける人達が居て、語り継ぐ人達が居る。それらこそが、芸能と言う娯楽の褒めていい美点であろうと私は考える。