金田一映画 病院坂の首縊りの家 「人間死ぬときは皆一人ですよ」 | 何でもアル牢屋

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市川版・金田一映画の5作目・病院坂の首縊りの家(79)
明治、大正、昭和、3代に渡る歴史を持つ本條写真館。そこに一人の美しい女が現われた。彼女の依頼は兄の結婚写真を撮ってくれと言う事だった。場所は法眼病院(ほうげんびょういん)。

「法眼病院」、、、そこは昔、一人の女が謎の縊死を遂げた忌まわしい場所だった。以来、その場所は「病院坂の首縊りの家」と呼ばれるようになった。依頼に来た女は写真屋に前金を渡し、後で使いの者を寄越すと言い残し闇夜の中を去っていく。しばらく後、使いと思われる者がやってきた。その男は紋付袴を着た厳つい髭の男だった。男は自分が結婚写真の花婿である事を告げるとさっそく現地へと案内する。しかし、いざ撮影の時に写真屋は目を疑った。髭の男の隣に居る花嫁は化粧を施しているが、さっき依頼にやってきた、あの女ではないか。

怪しいと思いつつも撮影は無事に終了する。写真屋が店に戻ると電話が掛かってきた。声の主は、前金をくれた女であった。またしても写真撮影の依頼だったが妙な依頼であった。

 

「先ほどの結婚写真の場所に飾った風鈴を撮って欲しい」

 

夜中とは言え、仕事なので断る訳にも行かず、静まり返った法眼病院に向かい、例の場所へと行くと、そこで驚くべきモノを発見。髭の花婿の生首が風鈴のようにシャンデリアに吊るされていた。果たしてこの生首風鈴の意味するモノとは?金田一耕助は、この恐ろしい謎に挑んでいく。と言うのが、大まかな概要。

 

この作品、金田一作品の中ではマイナーな部類なんだろうか。余り語られない。メディアも<犬神家の一族><八つ墓村>には喰い付くけど、この作品には喰い付こうとしない。

原作を先に読んだか?映像を先に観たか?で評価が分かれる作品で、この作品をマイナーだと思ってる人の殆どが原作を読んでいない。そして原作を読めば確実に、この作品の真の評価が出る。まず、名探偵・金田一耕助が初めて敗北した事件簿なのである。事件の発端となった<生首風鈴事件>。この事件の真相が解けないまま、事件は迷宮入りしてしまう。やがて20年の月日が経過する。東京の事件を担当し、金田一とタッグを組んで事件を解決してきた等々力警部も引退し、金田一も等々力も、事件の関係者も20歳、年を取る。警察を定年退職した等々力警部は独立して事務所を構える。20年前、迷宮入りした<生首風鈴事件>。諦めきれない等々力は、共に捜査した盟友・金田一耕助とリベンジに挑む。これが原作の展開。

それで、映像版はどうだったのか?

原作は長編でスケールが大き過ぎる為、とてもじゃないが、2時間、3時間では描き切れない。マジな話、12時間くらい必要かも知れない。登場人物が20歳も歳を取ってしまう展開は映像的に困るし、途中で役者を代えない限り不可能に近い。よって、原作の展開と登場人物は大幅に変更された。後の「犬神家の一族」、「八つ墓村」のリメイクを除けば、この作品が一様、最後の市川版・金田一映画である。
物語の主役に歳を取らす事の難しさは、作家稼業をしている人なら誰でも感じている事だろうが、横溝正史は70年代中期から、そろそろ金田一耕助に別れを告げる作品を2つ書いた。その一つが75年から77年に掛けて書き上げた<病院坂の首縊りの家>で、もう一つが79年から80年に書いた<悪霊島>である。両作品とも金田一が初老化し、爺さん探偵に変化した。

横溝は自らの死期を悟ったのか、角川で悪霊島が映画化された時期に入れ替わる様に他界した。自伝小説によると、幼い頃から虚弱体質で体が弱かったらしい。原作で描かれる金田一耕助は知性を持った貧相な男であり、紛れも無く自分自身を投影させている。この経過から察するに、70年代に入って横溝は体調不良になった事が伺える。

金田一耕助の最後は日本を去ると言う形で結末を迎えている。外国へと旅立ち、何処かの地で生涯を閉じたと綴って金田一作品は幕を閉じる。金田一耕助は誰も知らない異次元へと行ってしまったのである。
 

で、肝心の映画の事を書いていこう。市川版・金田一映画では御馴染みの出演陣に加え、注目の出演者なのが草刈正雄。この作品が初めての役者デビューだったらしい。本条写真館でバイトする青年・杢太郎君(もくたろう)を演じている。実の所、原作では重要な役割を果たす人物なのだが、映画版では<お笑い担当>に変更された。名前も原作と違う。この役って今で言えば阿部寛がやっても違和感ないと思う。

あおい輝彦も犬神家に続いて二度目の出演。生首風鈴の山内敏男として登場。個人的な見方だが、髭もじゃの山田孝之を見てると、この病院坂のあおい輝彦を思い出す。写真屋に現れたニット帽の小雪を見てると、広瀬すずが、この役をやったら似合うなとか想いを馳せる。

映画版で忘れちゃいけないのが、小林昭二が演じる三之助という法眼家の使用人だろう。ラストの坂道の場面は、この映画屈指の感動場面で、むせび泣く小林昭二が本当に泣いている様に見える。貰い泣きした視聴者も多かったのではないか?

後は、池畑慎之介と元の名に改名したピーターも個性を放っている。今では地上波のCMや東京MXテレビの「五時に夢中」で明るい姿を見せるピーターだが、若い頃の彼の顔は妙に不気味で、得体の知れない魅力がある。ギターでぶん殴られて死ぬ時の表情もイイ。前回の女王蜂でも書いたが、白石加代子が又しても<回想シーンの怖いオバちゃん>として登場。代わりが務まるのは岩井志麻子しか居ないだろう。
映像しか観た事が無い人に、是非、お薦めしたい原作であり、個人的に強くリメイクを期待したい作品でもある。