『宮沢賢治の真実』 | Wind Walker

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宮沢賢治の真実 ―修羅を生きた詩人 (新潮文庫)

 

『宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人 今野勉著 2017年

 

 

宮沢賢治の詩は難解ですが、その理由は造語を多用することと、賢治がそもそも他人に理解してもらうために書いていないこと。

 

それは彼が自分の作品を「詩」ではなく「心象スケッチ」とこだわって呼んでいたことからも推し量れます。

 

しかし著者は徹底的な取材力で宮沢賢治の生涯を調査し、そこから作品を理解しようとするのです。

 

賢治の生涯で大きなインパクトを与えた事件は主に3つで、学友であった保坂嘉内への恋愛に近い友愛の情(そしてそれが拒絶されたこと)、妹トシの新聞沙汰にもなった教師との初恋事件、そしてトシの死。

 

まあこれらは今までも言及されてきたことではありますが、この本の著者の凄いところは、賢治が何月何日にどこに行き、なにを見聞きしたことでどの作品を書いたかまで調べていること。

 

当時の新聞記事やトシの手紙を調べるのは勿論、賢治の家の庭に植わっていた木の種類や、その日の天候や風の強さという気象の記録まで調査するのにはほとほと感心しました。

 

個人的には妹のトシ(とし子)さんのことをほとんど知らずに病床で寝ているイメージしかなかったので、彼女がどのような人生を送ってきたのかを知ることができたのが何よりの収穫です。彼女もまた、ひとりの修羅でした・・・。

 

 

宮沢賢治の作品、特に詩は理解できないところが魅力でもあるのですけど、なにが賢治をしてその作品を書かしめたのかが分かるこの本は推理小説のような謎解きの興奮と面白さがありました。

 

「他人のために自己犠牲を払う」というテーマが多いので宮沢賢治に聖人君子のようなイメージを抱いている方は多いと思いますけど、彼が一人の人間としてどのような心の変遷を経てその境地にたどり着いたのか、なぜ自分を修羅と呼んだのかが分かります。

 

宮沢賢治ファンの方は絶対に読んだ方が良いと言いたくなる、オススメの一冊です!

 

 

 

 

そういえば私もかつてある詩人の方と懇意にしていた時期があって、自分の想いを言葉にする彼の才能は認めつつも、「そんなプライベートなことに誰が興味を持つの?」とか「説明しなければ誰も理解できないものをなんで広く発表したがるの?」などと内心では思っていたのですけど、詩人にしてみれば取り繕うことのない本心だからこそ詩としての価値があるということだったのでしょう。


逆に音楽に興味のない人からすれば、「言葉にすれば済むところをなんでわざわざメロディーにするの?」と思ったりするのかもしれませんね。