『現代語訳 渋沢栄一自伝』 | Wind Walker

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現代語訳 渋沢栄一自伝:「論語と算盤」を道標として (平凡社新書)

 

現代語訳 渋沢栄一自伝』 渋沢栄一 守屋淳 編訳 2012年

 

 

本作は基本的には渋沢栄一氏の自伝である『雨夜譚(あまよがたり)』の現代語訳。しかしそれだけでなく、記述を補足する他の文献の現代語訳も混ぜてあるのが特徴であり、良いところ。

 

 

一見するとこの人の来し方は行き当たりばったりで、最初は攘夷思想から高崎城の襲撃を企て、直前になってそれを中止 ➡︎京都に逃亡する途中で一橋慶喜の家臣に ➡︎慶喜の弟である民部公子のお供でフランスに留学中、大政奉還が起こる ➡︎帰国後に明治政府からスカウトされて大蔵省に勤務 ➡︎辞職して実業界へ、という流れ。

 

まあ行き当たりばったりというか、「君子豹変す」とも言うように、その時々の状況に合わせて行動を急転換できるのは優秀な頭脳と柔軟な心の持ち主でないとなかなか出来ないことですので、私は豹変できる人をむしろ評価も尊敬もしています。

 

 

『論語と算盤』を読むまでは渋沢栄一ってただの「成功した実業家」というイメージしかなくてまったく興味の対象外だったのですけど、この人の人生は波乱万丈で実に面白いですね。

 

なにが面白いかというと、まず子どもの頃から知恵に優れ、まるで『太閤記』での若き日の秀吉のようにさまざまな困難を巧みに解決していくエピソードが痛快なのです。

 

もう一つは、歴史上の偉人との交流がふんだんに描かれているところ。新撰組と一緒にある人物を捕縛しに行ったり、福沢諭吉と将棋を打ったり。あといろいろな人物の人となりも所々に挿入されていて、伊藤博文は「『常に自分が一番えらい者である』ということになっていたかった人である。」(p.194)とか、大久保利通は何を考えているのか心の内が読めない人で「このため大久保候に接すると、何となく気味の悪さを感じてしまうことがあった。」(p.206)とか歴史の教科書には載っていなかった情報が興味深かったです。

 

 

来年大河ドラマの主人公になるということですが、なんで今まで選ばれなかったのが不思議なくらいドラマチックですし、きっと面白いものになるだろうなという予感がします。・・・家にテレビがないのでネット配信してくれないと私は観れないんですけれども。

 

 

渋沢翁の思想や精神を知りたい方は『論語と算盤』を、人物に興味がある方は本作をオススメ。ドラマが始まる前に予習しておいた方が多分ドラマもより理解できて面白く感じると思いますよ。

 

 

 

 

大河ドラマの舞台って戦国時代や幕末が多く、どちらも激動の時代だっただけに一人の人間の行動や決断が時代の流れを大きく変えるところが魅力的なのでしょう。

 

そう考えると、現在の私たちは未曾有の危機に見舞われて主観的には大変ですが、客観的に見たらなかなか面白い時代に居合わせているのかもしれないぞという気がしてきました。