先日ご紹介した傑作小説、『ジャン・クリストフ』のネット上の感想・批評をググってみたら、ほとんど全員の方がゴットフリートを「叔父」と書いていたので、困惑。
私が読んだ新潮文庫版では「伯父」だったのですけど。岩波文庫では訳が違うのでしょうか?
「おじさん」を漢字で書くと「伯父さん」か「叔父さん」。これはどちらでも良いわけではなくて、自分の親の兄が「伯父さん」、弟が「叔父さん」という明確な違いがあるのです。
これは何に由来しているかというと、中国で兄弟の順番を示す「伯仲叔季」という言葉です。
伯は長男(長女)、仲は次男(次女)、叔は三男(三女)、季は四男(四女)という具合。
「実力伯仲」の「伯仲」は長男も次男も年が近いので大して力は変わらない、というところから来た言葉です。おそらく三男かそれ以下の人が言い出したのでしょう(笑)。
昔の中国では姓名の他に、成人した時につける「字(あざな)」という名前があって、そこに伯仲叔季の文字が入っている場合はその人物が何番目の兄弟なのか一目で分かるのですよ。
『三国志』に出てくる孫堅の子供たちがよく例として挙げられるのですが、長男の孫策の字は「伯符」、次男の孫権は「仲謀」、三男の孫翊は「叔弼」、四男の孫匡は「季佐」。
「伯仲叔季」ではなく「孟仲叔季」と言われることもあり、「伯」の代わりに「孟」(あるいは「元」、「長」)が使われることもあります。
三国志最大の英雄である曹操の字は「孟徳」。長男ということですね。
ちなみに四番目の「季」は「末っ子」という意味なのですけど、四人以上兄弟が生まれた場合、「季」のあとは「顕」、「恵」、「雅」、「幼(稚)」と続きます。
さて『ジャン・クリストフ』に話を戻すと、ゴットフリートの続柄は何だったっけ?と読み返してみたところ、初登場のシーンで「ルイザ(母)の兄」と書いてありました。
やっぱり「伯父さん」でした。
追記
緊急事態宣言中はずっと閉まっていた図書館が今月から再開したので、岩波文庫版をチェックしに行ったらマジで「叔父さん」と訳してありました。これはダメでしょ。