『BUTTER』 柚木麻子著 2017年
昨年、『ババヤガの夜』がイギリスのダガー賞翻訳部門を受賞する快挙を遂げたというニュースを知った時に、本作もまたイギリスで40万部売れていてダガー賞の最終候補作に残っていたことを知りました。
という情報だけで何についての本なのかまったく知らないまま読み始めましたけど、面白かったです!
あらすじ:主人公の里佳は週刊誌の記者。婚活サイトで知り合った男たちから次々と金を奪い殺害した罪に問われ拘置所に収監されている梶井真奈子(通称カジマナ)の取材を試みるも、「事件については何も話さない」と拒絶される。グルメでもあるカジマナの気を引こうと料理の話で接見するうちに里佳は次第にカジマナの視点と味覚を手に入れて・・・という話。
拘置所の面会室でのやりとりが多いこの作品はどうしても映画『羊たちの沈黙』を想起してしまいますし、「私が欲しいのは崇拝者だけ。友達なんていらないの」と言ってのけるカジマナにはレクター博士のようなカリスマ性すら感じます。
太っていて決して美しくもないカジマナがなぜ多くの男たちの心を捉えたのかというのが最初のミステリーになるわけですが、どうやら彼女は料理とセックスが得意で、「女性は痩せていることが美しい」という社会の暗黙の通念から外れて、食べたいものだけを食べるというような自分の欲望に忠実な女性であることがわかります。
本作が秀逸なのは主人公の里佳がカジマナの影響を受けて容姿や価値観が変化するにつれ、里佳の周囲の人間関係にも変化が現れ、それまでの当たり前が当たり前ではなくなっていく様子がとてもリアルでスリリングなところ。
登場人物も女性が多く、「家庭的な味」「家庭的な女性像」に多くの人がとらわれている現状も炙り出され、こんなに女性が優遇される社会になったのになぜいまだにフェミニストたちが怒っているのか正直私には謎だったのですけど、そういうところなのねと得心するところはありました。
というわけで物語が面白かったというだけでなく、女性視点の社会のあり方が勉強になり男性にもオススメしたい一冊でした。
ところで読み終わってから気づいたのですけど、本作は実際の首都圏連続不審事件(2007〜2009年)をモデルに書かれているそうです。ググったら、カジマナの人物像が木嶋佳苗死刑囚そのものでした。
私はこの事件自体を知らなかったのですけど、イギリスでヒットしたのも事件の生々しい記憶がないために純粋にフィクションとして楽しめたという点があるのかもしれませんね。



