「うちの会社は実習生を入れられるだろうか?」
こういう相談は結構あります。技能実習生は、どんな会社でも受け入れることはできません。3年間の技能実習を行うためには、移行対象職種に該当する職種でないと、受入れすることができないのです。そして、1年のみの研修ならば、同一作業の反復によって修得等ができる程度の作業ではないという条件で、ほぼすべての作業を行うことができます。
移行対象職種は82職種146作業となっております。(令和2年2月25日現在)今後も新しい職種の追加は予定されております。
さて、最近職種違いで技能実習計画認定を取り消されたところがありました。三菱自動車岡崎工場にて、フィリピン実習生が半自動溶接の職種で受け入れたにもかかわらず、工場の組立ライン作業をしておりました。どうも内部告発のようですが、話によると、半自動溶接をしている子とライン作業をしている子の時給単価が違っていたようで、その改善を求めたにもかかわらず無視されたということで、実習生たちから告発されたというのがいきさつのようです。監理団体や会社の対応が早ければ、外部にこんな話が出ることもなかったと思います。
また、技能実習を行うためには、必須業務が業務に従事させる時間全体の50%以上、関連業務が全体の50%以下、周辺業務が全体の33%以下、それぞれの業務についてそのうち10%以上安全衛生に係る業務を行うよう、規定されています。
そして、それぞれの職種について、必須・関連・周辺業務について細かく作業が規定させています。
ただそういう内容を理解した上で、受入れ会社が技能実習を行っているかと言えば、そんなことはありません。また職種にほぼ該当したかたちで実習生を受け入れているのかと言えば、それも違います。例えば惣菜製造業の例で言えば、
大量製造用調理機械(使用する機械、設備、器工具等の欄参照)を使用し、食材原材料の下処理、炊く、茹でる、揚げる、炒める、煮る、焼く 、蒸す、合(和)える等の調理加工及び殺菌処理等により 惣菜加工品を製造する作業をいう。
(参考1) 惣菜とは、そのまま食事として食べられる状態に調理されて販売されているもので、家庭・職場・屋外などの任意の場所(いわゆる中食の環境)で調理されることなく食べられるように、食材を炊く、茹 でる、揚げる、炒める、煮る、焼く 、蒸す等の加熱調理及び非加熱調理の洗浄・殺菌処理や合(和)える等の調理加工により、衛生的に製造し、即食(※)可能な加工食品をいう。ただし、学校給食や病 院給食などトレー等で持ち運びする場合は対象外である。 一般的には、和風惣菜、洋風惣菜、中華風惣菜、野菜サラダ等の各種惣菜加工品製造の他、これらと主食(米飯・パン・麺類等)を組み合わせたお弁当やおにぎり・お寿司、調理パン、調理麺等の複合加工食品を製造する業種を惣菜製造業という。
上記のように細かい定義があります。定義によれば、お弁当工場で仕事をすることは問題ありませんね。
でも、お弁当工場でずっとラインに入り、盛り付けをする作業などは「同一作業の反復によって修得等ができる作業」に該当しないのでしょうか?
もっと言うのであれば、技能実習で行われている多くの作業のうち、「同一作業の反復によって修得等ができる作業」との違いは何でしょうか?私にはあまりよくわかりません。そもそも技能実習と単純労働の違いは?
1年目から2年目へ移行するために、基礎2級という技能試験を受けることになります。合格率は95%以上。ほとんど落ちる子はいません。一部座席シート縫製に限ってはバンバン落とすようですが、他の試験はほとんどの実習生が合格して2年目に入ります。
この技能試験、2週間もあればどんな子でも実技に関しては合格できるレベルに持っていくことは可能です。そんなレベルの作業を3年間行うわけです。単純作業と何がどう違うのでしょうか?
そして、この職種の作業定義について、実は現在の状況に合っておりません。惣菜製造業は最近認可を受けた職種ですからまだいいのですが、例えば工業包装、2年目から木箱による梱包作業が必須業務に入ってきます。この木箱梱包、物流関係者に聞くと全体の2%程度しか行われていません。技能試験の歴史は昭和34年頃からなので、その頃作成された作業の定義がずっと今まで使われているのです。機械検査も同様。デジタルマイクロメーターが主流なのに、なぜかアナログのマイクロメーターを使って試験が行われます。こんなものを使って測定などもう誰もしておりません。こういう時代錯誤の試験が今もって行われている現状があります。いかにこの制度が建前ありきかわかるでしょう。
単純労働者の受入れを認めてしまえば、こんなややこしい(建前を通すための偽装工作)
など全く必要ありません。
そして、この仕事は必須業務で一日4時間やらせないならないとかそもそも職種が会社の仕事と合致しているのかどうか、こんな余計な悩みも必要なくなります。
帰国後日本で教わった技能を母国の経済発展に貢献することが、技能実習制度の目的です。でも実際は、1ヶ月程度で身につく技能を3年かけて身につかせるというのが技能実習制度なのです。
職種についても正直にいえば、ほぼ会社の仕事に合致しているケースはそんなに多くないと思います。職種違いで計画認定取消という話を聞くと、そもそも欺瞞だらけの技能実習制度にそこまでの規定を適応させるというのも、なんだか馬鹿げた話に聞こえてしまいます。
ちゃんとやろうとすると、ますます矛盾に気づき、苦悩するのがこの技能実習制度なのです。



