この日は日曜であったが、俺は仕事で出勤していた。
そして、朝から台湾料理の気分だった。
仕事を終えたら、近所の美味しい台湾料理屋に行こうと決めていた。
思い存分、それを堪能したかったので、朝からずっと飲まず食わずで過ごした。
究極の空腹状態で挑みたかったのだ。
満を持して、退勤後、俺は店を訪れた。
「一人ですが。」
と告げた俺に、若い男性店員さんは、カウンターの端の席を勧めてくれた。
後で判明したが、俺は実にラッキーだったのだ。
その後予約なしで訪れた客はみな、断られていた。
席に着くと、メニューを見ることもなく、立て板に水の勢いで、注文を告げた。
俺がここで頼むものは決まっている。
バーワン、腸詰、耳。
この3品は絶対だ。
この日は、ほかに豚足も追加した。
耳も豚足もよく煮込まれ、コラーゲンたっぷりのプルプル料理だ。
生ビールも空いたので、紹興酒を一本ボトルでとった。
すべてを食べ終えてもまだいけそうだったので、エビ炒飯も追加した。
食べながら、今日の俺は井之頭五郎みたいだな、なんて思った。
我ながら、食い過ぎだ。
そのうえ紹興酒も一本空けてしまっていた。
十分に満足し、会計に立った。
俺にカウンター席を勧めてくれた若い男性店員さんが会計を計算し、金額を告げた。
クレジットカードを差し出した俺に、彼はすまなそうに言った。
「5000円未満は、カード使えないんですよ。」
5000円未満?
うっかり告げられた金額を聞き流していた。
「え、いくらだっけ?」
聞き直すと、3800円だという。
紹興酒一本だけで、3500円するのだ。その会計はありえない。
俺は正直にそう指摘した。
彼がしていたのは、俺の隣の席で、いまだ食べている途中のカップルの会計だった。
慌てて計算しなおされた本当の会計金額は8000円を超えていた。
しかし、いまさらながら思うのだ。
もし俺が、あそこで、
「ああ、そうでしたか。」
とクレジットカードを引っ込め、5000円札を渡しておつりまでもらって帰ってしまったら、あの若い男性店員さんはどうなったのだろう?
それから、俺も。
過去の「なか卯事件」が反芻された。
なか卯で俺が頼んだカレーうどんが、他の客に運ばれてしまったのだが、その客は、頼んでもいないそれを、しらっと食べ始めてしまった。
間違えた店員さんに非があるのかもしれないが、やっぱり、注文していないのだったら、「これは、注文していません。」と言うべきじゃないのかな。
あの客のおかげで、俺はいつもの2倍、時間を待たされることになった。
まったく。
何はともあれ、正直が一番ですね。
あ、タイトルはお会計の変換ミスです。