春の昼侍屋敷の白牡丹
季語……白牡丹(はくぼたん)
牡丹園の老女に別れを告げ、丁度正午頃に
侍屋敷に通り掛かった。
一般公開されているので、係の人に挨拶
して中に入る。
大名屋敷ではないから、ごくごく普通の
侍屋敷なのだろう。
表玄関と内玄関があり、座敷も家族用と
客用に厳密に分けられている。
家族用だけで6部屋、28畳に相当する。
台所は、土間に土製の竈(かまど)が据え
られている。
隅に竹製の網を張った大きい入れ物が
置いてある。
「あっ❗これは籠じゃないかな?」
いち早く見つけて知ったかぶりをした
ら、とんだ大間違い!
説明を読むと「蝿入らず(はいらず)」
食べ物に蝿がたからないように、入れて
おく戸棚のようなものだった。
「いくら何でも、その中に人間は入れな
いだろう」
面白がっている家人を置いて、中庭に出
た。
こじんまりした中庭には、濃い紫色の
牡丹が散り掛けている。
瓦でぐるりを囲んだ白い牡丹がひときわ
目を惹く。
他にも杜若(かきつばた)や、色違いの牡丹
がたくさん植えられていて、手入れされて
いる。
ここには盗掘の魔の手も伸びないのだろう
か?
うっとりするような春の日差しを浴びな
がら見て回ると、平日なので見学者も
全く無く、タイムスリップして、江戸
時代に戻ったような気になる。
大小の刀を差した侍が、お城の役目を
終えて「今帰った!」と家人の迎えを
待っている……そんな幻を見てしまいそ
うな春の午後である。

牡丹の艶(あで)やかさに言葉は無用……
