ふみちゃんとの出逢いから、少し話を進めることにする。
数年の間に、お互いの身にいろいろな出来事があった。
私の仕事の関係で、以前のように度々会うことが叶わなくなり、帰りに回り道して
寄ると雨戸が閉まっていて、諦めたことも何度かあった。
後でふみちゃんに訊いたら、ヘルパーさんが帰るとき早い時間でも雨戸を閉めて
帰ってもらっていたのだそうだ。
そうとは知らず、ふみちゃんの身を案じながら、踵(きびす)を返していたのだ。
ふみちゃんの口癖は「お蔭さまで・・・」というものだった。
「謙虚」という言葉はふみちゃんのためにあるような気がしていた。
ふみちゃんは優しい母親と二人暮らしだったが、亡くなってからは身の回りの
ことは全て介護の力を借りなければならなかった。
時を同じくして、脚力が無くなり、立つことも歩くことも不可能になってしまった。
着替え、入浴、食事作り、洗濯などの主だったものから、買い物、植物の世話
などの細々としたことも自力では出来ない。
だから、常に「ありがとう」「お蔭さまで・・・」という言葉が口をついて出るのだろう。
そんな中でも、向学心の強いふみちゃんはパソコンの操作方法を教わり、
キーボードを叩いて自分の意思を伝えたり、家計簿記帳から、遂にはホーム
ページまで立ち上げたのである。
「私は習っていないから、あまり文字が読めないの」
恥ずかしそうに話してくれたふみちゃんが、私には出来ないパソコンの操作を
こなしていく姿に、「う~~ん」唸るしかなかった。
「ふみちゃんって本当にすごいね!尊敬しまくりよ」
笑いに紛らせて褒めると「そんな~!私なんか~」ふみちゃんは恥ずかしそうに
身をよじりながら謙遜の塊になるのである。
「私は何事も諦めない!」 凛とした、誇りに満ちたふみちゃんと、「何も出来ない」
笑いながら穴があったら入りたそうなふみちゃんは、まぎれもない一人の人間と
して存在するのである。
さて、そんなふみちゃんに打ち込める趣味との出合いが訪れた。
絵てがみとの出合いである。
ある日、ふみちゃんを訪ねると、いつもは明るい彼女が沈んで見える。
「ふみちゃん、どうしたの?何かあった?」
「それがね~」
ふみちゃんはゆっくり喋ってくれた。
聞き取りにくい箇所は、何度も聞き返してわかったことは・・・
・・・ふみちゃんは週に2回、デイサービスに通っていて、そこには絵てがみの
先生がやってきて教えてくれるのだが・・・
半紙に筆で輪郭を書き、たっぷり水を含ませた絵の具で塗るので、手の不自由な
ふみちゃんは滲み過ぎて上手く描けない。
そこで、鉛筆で細かに描きあげた彼岸花を先生に見せたら「それは絵てがみではない」
暗に邪道だと言われたようで、ふみちゃんは凹んでしまったのだ。
「何を~っ!!」
私の正義感に火が点いた!!
そんな決め付けは絶対許さない!!
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続きます。
ふみちゃんの絵てがみへの情熱に火を点けたのです。
そして、思わぬ展開が待っています。