第262話 ロック座
「ロック座から引き抜きの話がきてるぞ」
急な話で
ジイヤも驚いている様子だった。
ストリップの世界でロック座は言うまでもなく花形の劇場だ。
歴代の売れっ子AV女優達は
みなロック座で踊っているといっても過言ではない。
基本的に
ロック系とDX系はライバル関係にあり
まわるコースも違うし
踊り子の貸し借りは一切おこなわれていない。
だから
この話は異例中の異例だった。
業界誌で私の舞台写真を見たママが
「是非、うちの専属に」と内々にアリちゃんに話を通したらしい。
ママというのは
昔は有名な踊り子さんだった人で
社長に見初められロック座に嫁いできた。
「なんで私なんかに?」
信じられない気持ちだった。
最近になって
少しはステージにかける情熱のようなものが出てはきたものの
私のストリップなんて
いまだにお遊戯に毛が生えたようなものだったから。
「とにかく京都から帰ったら
浅草ロック座に挨拶に行くから、そのつもりでいるようにな」
新しく事務所に入った女の子を
メーカーに面接につれていく途中だったジイヤは
それだけ伝えると電話を切った。
うれしい話ではあるけれど
不安の方が先に立ち戸惑ってしまう。
ロック座といえば
綺麗なAV女優のお姐さんがたくさん所属しているし
踊り子さんはラスベガスにレッスンに行く。
バレエやジャズを数ヶ月習ってから舞台に上がるという本格ぶりなのだ。
白黒ショーやタッチショー
素人ショーやSMショーといった企画物や
ポラロイド写真のサービスといったものは行われず
綺麗な女の子だけを集めて
クオリティの高いショーを披露している。
それに
DXでは自分の出番さえ踊っていれば良かったけれど
浅草ロック座では自分の出番以外も
他のお姐さんたちのバックダンサーを勤めなければならないと聞いたことがある。
ロック座の専属になるなら
とても今までのような心持ちでは無理だろう。
身も心もロック座に捧げる覚悟がいりそうだ。
と私は思い悩んでしまった。
京都公演が終わり
新幹線で東京に戻った私は
そのままジイヤと浅草に向かった。
その月の浅草ロック座には
「桜木ルイ」さんがのっていて
宣材写真入りの大きな看板が華々しく飾られていた。
ロック座のビル内の最上階にある事務所に
エレベーターで向かう。
入り口に繋がれているドーベルマンが二匹
何度か大きく吼えた。
ジイヤに続いて部屋の中へ入る。
豹革の敷物。
大きなダルマや神棚。
力強い筆書きの訓辞が入った額縁。
クリスタルガラスの重厚な灰皿。
こういう事務所は
以前にもいたことがあるので
すぐにピンときた。
部屋の中央に置かれた革張りのソファで
貫禄充分のママが待っていた。
私は緊張した面持ちで会釈をする。
「座って」
ママが言う。
革張りのソファにお尻が沈む。
ジイヤが名刺を出して丁寧な挨拶をする。
すぐに私に向かって
ママが話しを切り出した。
「今度、小林瞳のショーがある。
それに一緒に出演させるAVの子を探している。
うちの専属になる気はない?」
少しハスキーでくぐもった声。
「私は踊りが下手なので……
ソロならいいんですけど……
他の方の迷惑になるんじゃないかと……」
自信なく
うつむき加減で途切れ途切れに言った。
「だったら先に博多や仙台で踊ってみればいい
私はあなたを気に入っている。 どうしても、うちで踊って欲しい」
ママから直々にそんな風に言ってもらえたことが
私にはうれしい驚きだった。
それからママが
いろいろと説明をしてくれた。
ロック座は全国にある。
直系のロック座は
西から博多、浅草、川崎、仙台、北海道のススキノ。
この内
浅草とススキノはみんなで踊る形になっていて
レッスンは全員でスタジオに入り一週間かけて行われる。
衣装や小物も
全て手作りで用意される。
10日ごとに踊り子を入れ替えるDX系とは違い
ロック座は20日公演が基本スパン
浅草に関しては1ヶ月の公演となる。
浅草、ススキノ以外の劇場では
今までどおりソロで自分の出し物を踊ればいい。
それからギャラの提示があり
「気楽にやってくれればいい。 どうだろう?」
とママは私の返事を待った。
正直に言えば
DXで踊っているほうが
拘束時間に対しての収入は大きい。
レッスンや衣装合わせには
当然だけど給料が支払われることはないからだ。
だけど
ロック座で踊るというステータスは
お金で買うことは出来ないものだ。
新しい挑戦をするときは
いつでも勇気がいるけれど
私は頑張ってみたいと思った。
「よろしくお願いします」
覚悟を決め頭を下げた。
「ありがとう」
ママは言うと
契約書を持ってくるように傍にいた女性に促した。
それからほどなくして
私はママ直属の劇場である
博多の中洲でロック座の初舞台をきった。
トリの私は
個室の楽屋を与えられた。
ロック座所属の他の姐さん達は
大部屋の楽屋だった。
私は余所者扱いで
当たらず触らずといったかんじで接せられたけれど
かえってその方が気が楽で良かった。
ステージでは
毎回気持ちを込めて精一杯力を出し切った。
ある日
私は酷い歯痛に苦しんでいた。
激痛で
バファリンを大量に飲んでも治らず
根治水を虫歯の穴に詰めても気休め程度にしか効かず
ステージの上でも集中力を欠いていた。
出番前に
舞台袖でうずくまっていると
衣装チェンジに袖に飛び込んできた姐さんから
「具合でも悪いの?」と尋ねられた。
「はい……。 すごい歯痛なんですよ」
私は頬を指して言った。
右頬が腫れ上がって
耳の付け根まで痛みが拡がっていた。
「わあ! 腫れてるね!
よく効くやつがあるから、あとで楽屋に持っていってあげる」
姐さんは素早く着替えを終え
すぐにまた舞台に飛び出して行った。
お客さんの手拍子が聞こえてくる。
規則正しい手拍子の音が
歯痛のズキズキと連動してきつかった。
どうにか出番を終えて楽屋に戻ると
氷をビニールに入れてタオルに包み
右頬に当てた。
あまりの痛さにじっとしていられず
イライラと部屋の中を歩き回った。
ノックの音がして扉を開けた。
さっきの姐さんが
ワンショルダーのセクシーな部屋着姿で立っていた。
「あっ、おつかれさまです」
姐さんは
すっと私の楽屋に入り込むと内鍵をかけた。
「あんた、こっちは?」
腕に注射をするようなジェスチャーをする。
意味はすぐにわかった。
どう答えたらいいのかわからず
「注射は打ったことはないです」
と控えめに答えた。
「そっか」
姐さんは
部屋着の内側に
自分で縫い付けたらしい秘密のポケットから
白い粉の入ったパケを取り出すと私の方に差し出した。
「一発キメたら、歯の痛みなんてすぐ消えるよ」
「そうなんですか?」
驚いた。
そんな効用があるとは知らなかった。
「ポンプはしないんだね? だったら台所からアルミ持っておいでよ」
反応を伺うように私の目を覗き込む。
私は返事を躊躇した。
だけど
この痛みから解放されるなら
と次の瞬間には台所に向かっていた。
アルミホイルを持って部屋に戻る。
「個室はいいね。 どれ、一緒に一服キメよ」
姐さんは座布団の上に胡坐をかいて座り
急かすようににそう言った。
なんの言い訳にもなりゃしないけど、本当に痛かったんだよね;
ずいぶん長いこと止めていたんだけど、こういうキッカケでまた手を出してしまいました。
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