第274話 彼の秘密
「どうして自分のこと
あんまり話してくれないの?」
俊ちゃんの瞳を直視して尋ねた。
「別にそんなことねぇべ?」
俊ちゃんは途端に伏目がちになり
何度も頭を掻いた。
長いまつ毛が
瞼の下にクッキリと影をつくり
とてもさみしげな表情に見える。
俊ちゃんの周りに張り巡らされた外壁を
私は乗り越えようとする。
「そうかな。
もっとさー、心を開いて欲しいわ。
私、ありのままの俊ちゃんを愛していきたいの。
どんな俊ちゃんでも全部受け入れる。本当だよ?
自分の良心に誓って約束する。
俊ちゃんがイヤにならない限りずっとずっと最後まで傍にいる。
絶対に離れていかない。この先ずっーと。一生ね。」
俊ちゃんの手を握り
もう片方の手で優しく手の甲を撫でる。
言いながら
これは自分が言われたい台詞だったのかもしれないと感じていた。
私は
かつて愛した男達に
こう言ってもらいたかったのだ。
「ありのままのおまえを全て受け入れる。
最後まで絶対に傍にいる。 一生離れない。 信じろ」と。
そうか。
私は自分がされたいように
俊ちゃんを愛していきたいのだ。
「私ね、俊ちゃんとは楽しいだけじゃイヤなの。
もっと心の奥底で繋がっている実感が欲しいっていうか。
ううん。それはもうあるかな……。
でも……俊ちゃんには何か秘密あるんじゃない?」
俊ちゃんの瞳を覗き込むと
瞳の中に写る私が私を見詰め返していた。
俊ちゃんは一つ大きく息を吐き
重い口を開いた。
「俺、おかしいらしんだよね。
だから、なるべくおかしいって思われないように振舞ってるのはあるかなぁ」
「おかしいってどんな風に?」
「本当のこと言うと
大概バカにされんのやぁ……」
「私はバカになんてしないよ。
どういうことでバカにされていると感じるの?
なんかコンプレックスがあるとか?」
「うーん……。 コンプレックスかぁ……。
小学校の時にドモリが酷くて言葉の教室に行かされたのやぁ~。
国語の時間に教科書を音読するべ?
『トロフィー』っていう言葉がどうしても言えなくてみんなに笑われてやぁ……」
「へぇー。
でも今は全然普通に話してるじゃない?」
「まりもも最初、何言ってるのかわかんねって言ったべや!」
俊ちゃんは思い出したように
憤慨した様子でそう言った。
「えっ…… それは方言がわからなかっただけよ」
「俺のこと田舎もんだと思ってるんだべ……」
今度は投げやりな態度でそんなことを言う。
「そんなことはないって! じゃ標準語で話せばいいじゃん?
『だべ』を『じゃん』に変えればいいだけよ? ほら言ってごらん」
俊ちゃんのナイーブさに驚きながらも
私は明るく笑い飛ばした。
少し間があってから
「簡単じゃん」
と俊ちゃんは頬を赤く染めながら呟いた。
「そうそう! 上手よ。 あはははは」
二人で噴出した。
「まりも、ありがとな……」
俊ちゃんの心の扉が
少しづつ開いてゆくのを感じる。
このドアが開け放たれて
容易く出入りができるようになるまで
ずっとこうして話していたいと思った。
「他にももっと話してよ。
今まで誰にも言えなかったようなこと。 ね?」
「うん。
兄貴と弟は名前に希望の希がつくんだぁー。
兄ちゃんが雅希、弟が広希。 親父が春希って名前でやぁ・・・。
なんで俺だけ俊なのかやぁ?」
俊ちゃんは
腑に落ちないといった顔で尋ねた。
「うーん……
それは私にはわからないけど、ご両親に聞いたことはあるの?」
「ねぇなぁ~」
「そぉ。 俊ちゃんの名前は誰がつけたか聞いたことある?」
「なんか母ちゃんの姉妹のおばちゃんがつけたみたいでやぁ」
「ふぅーん。 ……そぉかぁ。
子供の頃の写真はあるんでしょ?」
「あったっけかなぁ……」
「……ずっとお父さんとお母さんに育てられてきたんでしょ?」
「だど思うよ?
だけど、なんかやぁ子供の頃に
何年か父ちゃんがいなかったことがあったのさ。
警察が家にきて、なんでかはわかんねーんだけどや」
「……そうなんだぁ」
私はあまり口を挟まずに
俊ちゃん自身に話をさせるように心がけた。
「俺、あんまり子供の頃の記憶がねぇのさ。
小学校くらいの頃からしか覚えてねぇなぁ~」
「小学校で一番思い出に残っていることはなぁに?」
「近所で火事があってやぁ
俺が第一発見者だったのさ。
家にばーちゃんが取り残されててさ
おんぶして助け出して学校で表彰されたことがなぁ」
「へぇー! じゃぁ俊ちゃんが命の恩人だったのね?
すごぃじゃん! 火事の原因は何だったの?」
「放火だった」
「へぇ。 犯人は捕まったの?」
「捕まらなかったみてぇだなぁ」
俊ちゃんは遠い昔のことを思い出しながら
眉間にぐっと深いシワを寄せた。
「じゃぁ、今まで一番悪いことしたのは何?
万引きとか恐喝とかさ、一通りある?」
「うーん……。
高1の時に山道の草ッパラで待ち伏せしていて
自転車で通ったおばちゃんを強姦したことかやぁ?」
「えっ! 嘘でしょ?」
これには驚いて大きな声で反応した。
「それって捕まらなかったの?」
「捕まらねぇ。 おばちゃんに
こんなことしてちゃダメよぉって説教されたっけなぁ~」
「え、え、え、ちょっと待ってよ。
日本でレイプとかありえなくない?」
「あぁ、東京は真っ暗で人が来ない場所ってねーからじゃね?
田舎の方はけっこうあるよ」
「嘘ー?! それは…… ちょっと悪い子ね」
「俺の仲間もみんなそんなやつらばっからったからなぁ」
「ふぅん。 東京の悪とは少し種類が違うのかもだな。
へぇ……。 ちょっと驚いた。 まぁ若い頃はいろいろあるわよねぇ!」
よく話してくれたね、という印象を与えようと
私はにっこりと微笑みかけた。
俊ちゃんが今まで自分のことをあまり話さなかったのは
私に「変わり者」だと思われて
離れていかれるのが怖かったからだということがわかった。
私は何度も繰り返し言った。
「信じて」と。
例え俊ちゃんが殺人犯であっても
変わらず愛していける自信があった。
そして俊ちゃんが
私に心を開いてくれたのならば
その責任だけはしっかり負う覚悟もあった。
それからも
俊ちゃんの不思議な話は続いた。
「姓名判断だと凶悪犯の字画なんだ」とか
「お化けや呪いが怖い」だとか。
交通事故で負った大きな足の傷を指して
「俺の体はツギハギなんだ」と
あまり聞いたことがないような言い回しもした。
会話の中に
重要な鍵がいくつも散りばめられているように感じた。
彼は難解なパズルだった。
俊ちゃん自身も
自分のことをよく理解できておらず
ただ漠然と運命に怯えているみたいに見えた。
代々木公園のお花見にらぶどろっぱーの女の子が2名来てくれました^^
すごくうれしかったですー。 期をみて、らぶどろっぱーだけの大きなオフ会を開催したいですね☆
いつかみんなに逢いたいのだー! 近いうちに必ず♪
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