第273話 彼の心の闇
タクシーの中に俊ちゃんを待たせたまま
いつもの場所で10グラムの覚醒剤を買った。
あの感覚を一度知ると
25万円が高いとは思わない。
「ごめんね! おまたせ」
俊ちゃんを連れて
自分のアパートに帰った。
久しぶりの我が家は
懐かしい匂いがした。
まさか
男を連れて帰ってくるとは思わなかったから
部屋はかなり散らかっている。
俊ちゃんを玄関で待たせて
手当たり次第に押入れに物を突っ込んでいく。
「いいよー」
適当に片付いたところで
リビングに招きいれた。
すぐに覚醒剤のパケを取り出し
ガラスパイプの中に白い粉末を入れながら
「即効性の痩せ薬なんだ。 違法なんだけどね」
とギリギリ嘘にはならない説明をした。
私の頭の中は
俊ちゃんよりもスピードだった。
何よりも真っ先にキメたくて
気が早っている。
「やっぱり人に見られる仕事してっと努力してるもんなんだなー。
まりも、偉いね」
俊ちゃんは
本当にダイエットの薬だと思い込み
感心げにそう言った。
久しぶりに
スピードを吸うと
すぐにいつもの波が襲ってきた。
体から全ての疲れが抜け落ちて
隅から隅まで目覚めてゆく。
「痩せ薬って、食っても体重増えないのわ?」
俊ちゃんが不思議そうに尋ねた。
「ううん。 食欲がなくなるだけ。
でも副作用がすごく強いから市販はされていないの」
私は首を振り言った。
「ふ~ん。 やっぱり東京ってすごいんだな~」
俊ちゃんは私から窓の外に視線を移し
外の風景を眺め目を細めた。
「よーしっ!
明日からレッスン始まっちゃうし
今日はずっーと蜜のような時間を過ごそぉね!」
俊ちゃんに抱きつき唇に吸い付く。
そのままベッドに倒れこむ。
激しい抱擁と甘美な愛撫を受け入れながら
俊ちゃんが自分に欲情していることに悦びを覚えた。
「そうだ! 俊ちゃんの眉毛を整えよう!
東京のホストはみんな眉毛は描いてるんだよ。
まかせといて! 私が描いてあげる。 髪の毛もセットさせて!」
元気な私は
SEXの後も何かしたくてたまらなくて
俊ちゃんの顔や髪の毛をすき放題いじくりまわした。
俊ちゃんはなすがまま
私のいいようにさせてくれた。
「おぉー! かっこぃぃじゃん!
ちょっと保坂直樹に似てるかも?
もう少し髪の毛伸ばしてさー。 真ん中わけにしなよ」
俊ちゃんは元のパーツが良いから
うんと格好良くなると思っていた。
スピードのせいで饒舌になり
私は一人でベラベラと話まくっている。
俊ちゃんはニコニコ笑いながら
適度な相槌をうち
ずっと私の話を熱心に聞いてくれる。
「俊ちゃんてさ、すごく聞き上手だよねぇ!」
私が褒めると
「まりもの話がおもしろいからやぁ」と
にっこり笑ってくれた。
俊ちゃんの笑顔には
二重の意味がこめられているように感じる。
光と影。希望と絶望。信頼と孤独。笑いと哀しみ。
俊ちゃんは
普段からあまりおしゃべりではない。
言葉で何かを伝えるのは苦手な人なのだと思う。
だけど
言葉意外の全身からあふれ出す感情のサインが
私の心を強く惹きつけている。
私はいつもおしゃべりで
自分の感情を発散させていないと生きていけないタイプの人間だから
俊ちゃんの押し殺しながらも漏れ出してしまうような感情の吐露に
ぐっときてしまうのかもしれない。
俊ちゃんは
自分のまわりに築いた壁が
崩れていないことを確認しながら生きているように見える。
なんだか謎めいているなぁと
諦観の漂う俊ちゃんの横顔を見詰めながら思った。
スピードのせいで
洞察力が鋭くなっていることに気がつく。
以前
自分の内面をくまなく見回したように
俊ちゃんの心の闇も覗いてみたくなった。
俊ちゃんの抱えた問題の意味をきちんと考え
的確な答えを出してあげたい。
俊ちゃんのことを救いたい。
どんな外敵からも守ってあげたい。
だって
私は俊ちゃんの天使だから。
そして
俊ちゃんは私自身だから。
更新遅くてマジごめん><
4月の2週目からはサクサク更新できるようになると思います。
日曜日は代々木公園にお花見に行きます。 参加したい人いたら声かけてね^^
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