らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -68ページ目

第283話 心の距離

携帯からの目次を作りました



目覚めたとき

そこがどこで自分が何者なのか

一瞬だけどわからなかった。

私は横を向き

枕に頬をつけたまま

急速に覚醒する意識を馴染ませていく。

自分の部屋の

寝なれたベッドの上に私はいる。

部屋の窓は

シャッターが閉まっていて

今が昼なのか夜なのかはわからない。

室内の電気はついたままだ。

ひとつの姿勢で眠っていたのか

手足にしびれがある。

ずいぶん長く深く眠っていたのだろう。

でもどれくらいの長い時間だったのか

見当もつかない。

記憶の糸をたどり始めると

おぼろげながら現状は把握できた。

浅草公演の楽日

最終フィナーレを踊りきり

私はそのままステージ上で倒れた。

ロック座から家までは

ジイヤの車で帰ってきた。

上半身だけ起き上がり

ベッドの端に身をずらして手を伸ばす。

携帯電話を充電器からはずし

日付を確かめる。

9月3日 AM 02:48

丸二日間

眠り続けていたのだ。


不在着信を表示すると

全て『俊ちゃん』で埋め尽くされていた。

留守番電話を確認する。

女の人の機械的な音声で

「用件は20件です」と伝えられる。

「どうして電話くれないのや?」

「なんかあったのわ?」

最初はただ心配そうだった俊ちゃんの声が

件数を追うごとに

だんだんと焦燥に満ちた苦痛の声に変わっていくのがわかる。

最後の一件は

短い溜息が録音されているだけだった。

俊ちゃんの気持ちを想像しながら

リダイヤルのボタンを押した。


何の連絡もしないまま

二日間も音信不通では

さぞかし心配だったことだろう。

数回のコール音のあと電話は繋がった。


「俊ちゃん、ごめん。 

実は楽日終わってから具合悪くなって倒れちゃったの。

そのまま家に帰ってきて今までずっと眠っていたみたい」


俊ちゃんは仕事中だと思い

なるべくシンプルに状況を説明した。


「そうなのや……。 もう大丈夫なのわ?」


「うん。 今のところ。

すぐに仙台に行くはずだったのにごめんね」


「うん……」


「ごめん。 もしかして怒ってる?

心配だったよね。 おかしな想像しちゃったかな?」


「……ロック座終わった時間に電話かけたら、電源入ってなかったべ。

しばらくしてから電源入って

コール音鳴ってるのに出なかったからや……」

そう言われて

私は記憶の糸を辿りなおす。


「あぁ。 ロック座で電池切れになっちゃってさ

それから……家に帰ってきてすぐに充電して……

そう! 留守電はちゃんと聞いたのよ!

その後電話しようと思ってたんだけどね

すごく具合悪くなって

そのまま朦朧として眠ってしまったのよ」


「ふぅん……」

と俊ちゃんは納得いかないような声を出す。


「だけど何度も電話したのに……

……今まで一度も起きなかったのわ?」


たしかに私が逆の立場でも

心配しすぎて悪い想像が膨らむだろう。


「ごめん。 別に浮気してたとかじゃないのよ。

本当に信じてね。 明日そっちに行ってもいい?」


「うん……」

俊ちゃんは

声や表情に感情がそのまま現れる。


いつもの俊ちゃんとは明らかに様子が違っている。


私は何度も謝ったけれど

俊ちゃんとの心の距離はぐんと開いてしまったようで

焦りを感じていた。


勇気を出して心を開いた相手に

きっと俊ちゃんは裏切られたと感じたのだろう。


心から信頼した相手に裏切られるつらさは計り知れない。


とくに俊ちゃんは

今まで誰のことも信用せずに生きてきたはずだから。


そんな俊ちゃんの心が見て取れるようで

私は一刻も早く俊ちゃんに会わなければと思った。


顔を見て話せば必ずわかってくれるはずだ。

朝一番の新幹線で仙台へ行こうと決めた。


シャワーを浴びようとベッドの下に足を下ろす。


だけど

私の体は鉛のように重く思ったように動こうとしない。

まるで自分の体ではないみたいに意思に従わない。


――スピードを吸いたい――


視線は

鏡の前に置かれたガラスパイプに向かう。


私は死にかけたのに

まだスピードを吸おうとしている。


そんな自分にいくばくかの嫌悪感を持つ。

だけどその嫌悪感はすぐに消滅してしまう。


2日も抜いていたのだから少しくらい大丈夫だ。

睡眠も取ったし心配はない。

そう言い聞かせてスピードを吸い始める。


また具合が悪くなったらと

少し怖かったけれど

スピードは通常通りの効果を発揮した。


体が軽くなり気分は良くなった。


シャワーを浴びると

なおさらスッキリしていつもの元気が戻ってきた。


倒れたのは

スピードのせいではなく

ロック座でのストレスのせいだったのだと思い込んだ。


――依存なんてしていない――

――やめようと思えばいつでもやめられる――


それから

ガラスパイプの中に新規のスピードを落とし

私は立て続けに吸い始めた。



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