第287話 不協和音
「ねぇ 疲れてるの?」
俊ちゃんは
テレビのチャンネルをしきりに変えていて
私の問いかけに気がつかない。
「ねぇってば!」
「ん? …なにや?」
「さっきから何度も話しかけてるのにっ! もういい!」
私は読みかけの雑誌を床に叩きつけ
大きな溜息を吐いた。
立ち上がり
窓に向かって歩いていく。
白く曇った窓を手のひらで乱暴にこする。
仙台の冬は
なかなか終わろうとしない。
もう3月だというのに
4日間も雪が降り続いている。
寒いから出かける気もおきず
部屋に閉じこもりっぱなしで憂鬱な日々だった。
俊ちゃんは慌てて私の機嫌を取り始める。
近頃
俊ちゃんは無口だ。
元からあまりおしゃべりな方ではないけれど
以前にも増して口数が減ったような気がする。
「悩みあるなら言ってよ? 最近、変だよ?」
その時の俊ちゃんは
心ここにあらずといったかんじだった。
思いつめた表情で
何かを考え込んでいるように見えた。
「ん… 別に…… 何もねぇよ」
俊ちゃんはそう言ってぎこちなく笑う。
「本当に?」
私が首を傾げると
俊ちゃんは「こっちにおいで」と
私の体を引き寄せ服を脱がし始めた。
ベッドの上で私は上の空だった。
何もないはずはない。
俊ちゃんは何か隠し事をしている。
俊ちゃんの仕草や表情に
違和感を感じるようになってからもう随分たつ。
どうして何も話してくれないんだろう。
まさか心変わり?
私はいつも注意深く
俊ちゃんの行動を見張っている。
だけど
とくに女の影があるわけでもなく
仕事が終わればまっすぐ家に帰ってくる。
俊ちゃんはホストだけど
同伴もアフターもほとんどすることはない。
決められた仕事以外の時間は
ずっと私と一緒にいてくれる。
携帯もこっそりチェックしているけれど
それらしき形跡は何も見つからない。
SEXだって毎日ある。
なにも心配するような具体的事象はおこっていないのに
私には何かが歪に感じられてしょうがなかった。
以前の私と俊ちゃんの世界は
完全な形で統合されていた。
私と俊ちゃんと世界は一まとまりだった。
それは
音階と音域とリズムが織り成すシンフォニーのような奇跡で
まるでモーツァルトの音楽のように完璧なものだった。
不協和音なんて
入り込む余地もなかった。
なにかトラブルがあっても
それは完璧な構造の中の一部であり
二人の世界の統一性や全体性を揺るがすものではなかった。
私はその完全性が歪み始めたことに
絶大な恐怖と不安を感じていた。
怖かった。
目に見えない不協和音の正体をつきとめようと
やっきになって原因や理由を探しはじめた。
焦燥感に駆られて
際限なく俊ちゃんを試すようなことばかりをした。
度を越えた我侭をぶつけ
自分勝手に俊ちゃんのことを振り回した。
俊ちゃんは我慢強く私に付き合う。
私は自己嫌悪に陥る。
こんな私のこと嫌いになっても当然だ!
そう思うから余計に不安が募り悪循環になる。
「なんでそんなに優しくするの?
本当は私と別れたいんでしょ! はっきり言えばいいじゃない!」
ヒステリックに喚きちらし
俊ちゃんを困らせたことも一度や二度ではなかった。
その後は必ず
「ごめんね、ごめんね、愛してるの。 本当に愛してるの」
と泣き崩れた。
私がどんなになっても
俊ちゃんは優しさを貫いた。
――彼は最初から一環して優しかったのに――
俊ちゃんが仕事に出かけていくと
私は不安で気が狂いそうになる。
現実逃避の手段は
ただひたすら
スピードを吸い続けることだった。
本当に更新遅くてごめんなさい。ここから私にとって一番キツい部分を書くことになるので、どうしても筆が進まない日々が続いてしまっています。少し先までの下書きは終わっているのに、なかなか更新できる状態まで仕上げきれない。途中で何度も挫折してしまうんですね。本当はテンポよく進めていくべきなのに、ごめん。最近よく悪夢を見るの。シャブをやってる夢を今でも見るんだから嫌になっちゃうよ。情けない。あの頃のことを思い出すとまだ感情がすごく揺れるね。でも必ず書き上げるから。本当にごめんなさい。もっと努力します。
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