らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -43ページ目

第307話 精神病院

携帯からの目次を作りました


父が知り合いのツテを頼りに予約を入れた精神病院は

横浜市にあり自宅から車でおよそ二時間弱の場所にあるという。


簡単な身支度を整えてから車の助手席に乗り込んだ。


母の運転で車は走り出す。


私は気分がすぐれず

窓の外の空気を吸っては大きな溜息ばかりを吐いていた。


後部座席から

「心配することは何もないよ」と父が声をかけた。


「うん……」


私は気分を変えようと思い

カーステレオにGLAYのカセットテープを差し込んだ。


大好きなバラードが

俊ちゃんとの想い出をなぞり

そこはかとなく切ない気持ちにさせる。


俊ちゃん……


精神病院に行けば

雲が晴れたみたいに全ての謎が解け

私と俊ちゃんは元通りの優しい関係に戻ることができるのだろうか。


私はこれから起こることについて考えを巡らせる。


まずは私が冷静に

今まで身の回りで起きた不可解な事象について

論理的に話をしなければならないだろう。


それを聞いた担当医は

「これはこういうことです! これはこういうことです!」

と一つ一つに明確な答えを与えてくれはずだ。


そして毅然と解決方法を提示してくれる。


その説明に納得した私は

まるで憑き物がとれたみたいに

晴々とした気持ちで彼に会いに行くことが出来る。


俊ちゃんが笑って

私が笑う。


二人の笑顔が溶け合い

幸せに満ちたあの日々がかえってくる。


私は

得体の知れない行く先に不安いっぱいで

意識的に希望的観測ばかりを持とうとしていた。


山道を登りながら

そんなことを考えていたら

淡い桃色の外壁の病院が見えてきた。


入り口のロータリーで私と父だけが車を降り

母はそのまま駐車場に向った。


精神病院はこの世の果てのような場所にあり

荒廃した白く巨大な四角形の建物で

数少ない窓には頑丈な鉄格子がはめられている。

私はそんな印象を持っていた。


だけど

その病院は私が想像していたものとは程遠かった。


緑に囲まれた小高い丘の上にあり

入り口の看板に

『精神科/神経科/心療内科/内科』と書かれていなければ

一見して病院には見えないほど綺麗で明るい建物だった。


「どうだ? 出来たばかりだから綺麗だろう?

最新の設備と優秀な医者が集まってる病院だよ」


父は歩きながら満足そうに言い

私は重い足取りで続いた。


「お父さんが勤めている所とは大違いだ。 最近の病院はすごいな」

父は病院の細部を見渡し感心しながら足を進めていく。


私も辺りを一通り見回す。


廊下には印象派の風景画が飾られている。


受付もナースステーションもスタッフも患者さんも

普通の病院となんら変わらない。


入り口付近の売店に買い物に来ているパジャマ姿の団体は

きっと入院患者さんだろうけど

誰一人として頭がおかしいようには見えない。


老人が多く

車椅子を押している看護婦さんとよく擦れ違う。


待合室で父と待っていると

母もやってきた。


私が不安そうな顔をしていたのか

「大丈夫よ」と手を握ってくれた。


名前が呼ばれ

三人揃って病室に入った。


担当医は

八代という四十台前半の恰幅のよいタイプで

この病院の副医院長を務めている人だった。


「はじめまして。八代です。

お父さんから電話で少し話しを聞いてますが、どうですか? 最近は」


八代はおだやかな口調で問いかけた。


どうですかと聞かれても

いったい何から話せばいいのかがわからない。


「まず、私は……ドラッグを使用していたんです。

えっと……

彼氏と仙台に住んでいて……

それで……

事件に巻き込まれてしまったみたいなんです。

諜報員というか組織に狙われて

その敵達はすごく大勢いるんですけど……

あらゆる手段を使って私を精神病に仕立て上げようとするんですよ。

そのために、ずっとドラッグの使うように追い込まれてきたの。

敵のやり口は容赦なくて……

でも私は全然おかしくならないタイプなので。

ドラッグに免疫があるというか元から強いのかもしれません。

それで……

つまり……

妄想や幻覚じゃないと証明をするためにここに来ました」


父から話を聞いているようだったので

だいぶ端折って大筋だけを伝えようとしたが

思ったようにうまく話すことが出来なかった。


「そうですか。 

いつごろから何のドラッグをやりはじめましたか?」


八代はいくつかの質問をした。


質問内容は主に

ドラッグの種類と使用方法、その期間だった。


八代は

私がそれらの質問に答える度に

几帳面にうんうんと首を縦に振りながら

カルテを書き込んでいた。


「わかりました。

今日は初日ですからこのへんにしておきましょう。

血液検査と脳のCT、MRIを取りましょうか?」


八代は私の意志を確認する。


「先生、肝炎の検査もお願い出来ますか」

父が背後から口を挟んだ。


「肝炎? 私、注射は使ったことないから大丈夫だよ?」


「念のために全部検査してもらいなさい」


麻薬や刺青の注射の使いまわしで

肝炎になるという話は聞いたことがある。

父はそれを心配しているようだった。


「わかりました、じゃあカルテを回して」


八代が看護婦に指示を出し

診察は終わりという空気になる。


「あのさ……

検査すんのはいいけど、敵については? 

仙台での出来事について先生の意見を聞かせてもらえません?」


私は肝心なことを何も聞いてないと思い

やや頭にきていた。


「それについてはドラッグが完全に抜けた状態でお話しませんか?

昨日も覚醒剤を使用したんですよね?」


八代の質問に

私は憤慨して感情を荒立てた。


「はい? 抜けた状態でも私が言うことは何も変わらないけど?

じゃあ三日後に来るから、私が今日と同じことを話したら

精神病じゃないって診断書を書いてくださいね!」


「最低でも数回は通院してらえませんか?

一度や二度の面談ではなかなか判断が難しい場合もあるので

週に一度、決められた時間に定期的に通ってください」


八代は少しも表情を変えることなく言った。


「そんな長い間通うつもりはないの!

私はまた仙台に行かなきゃいけないんですから!

早く結果が欲しいんです!」


これでは私の望む結末は期待できないと思い

半ば切れたように吐き捨てた。


八代は

ちらっと視線を父に送り

父の表情を確認してから続けた。


「ドラッグはもうやらないと約束できますか?

ドラッグを断って仙台に行くという目標を立てたらどうでしょう?

実現できれば自信に繋がりますよ」


私はその一連の動作とその場の空気に

父と担当医はグルだ!という不信感を抱いた。


父と八代は

裏で絵を描いて示し合わせ

私を思い通りに操ろうとしているのではないだろうか?


この茶番は

私を仙台に行かせないための時間稼ぎ?


一度持った不信感は加速して膨らんでいった。


「ドラッグをやめるための薬とか

なにかプログラムみたいなのがあるんですか?」


私はとにかく結果を求めた。


「それについても今後相談していきましょう。

今日のところは検査をして帰ってください。

次は来週の火曜日いかがですか?」


診察室にかかっているカレンダーを見ながら八代が言った。


「一週間後? 今すぐどうにかしてもらえないんですか?」


「少し様子を見ましょう」


結局、八代は終始

『様子をみましょう』の一点張りだった。


それから

レントゲン、CT、MRIと数々の検査に回された。

尿検査、心電図、血もたくさん抜かれた。


拍子抜けした私は

帰りの車中で不機嫌だった。


「あんなんで何がわかるっていうのかね?

なめてんじゃないの……」


「初回の診察はこういうものだ。

随分時間を取って丁寧に話を聞いてくれたじゃないか。

八代先生はしっかりした人でお父さんも安心したよ」


「でも、なんの解決にもなってないじゃん?

行った意味あるの? 薬も処方されなかったし! 

無駄な時間だったよ!」


「先生がまだその必要はないと思ったんだろう。

状況が深刻ではないってことだよ。 いやー、良かった」


「当たり前だよ!

私はどこもおかしくないんだから!」


釈然としないまま

私は不貞腐れて家路についた。


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