第082話 親分さん
そのヤクザの親分さんは
みんなからは矢野さんと呼ばれている。
ヤクザと言っても全然そうは見えない。
パンチパーマでもなければ
肩で風を切って歩いたりもしない。
いつも仕立ての良い背広に
テカテカに磨かれた革靴を履いていて
物腰も優しくとても紳士的だ。
一見すると
どこかの企業のお偉いさんといったかんじがする。
最初に泉ママから紹介をされた時
矢野さんから名刺をもらうと
右上に金色の菱形のマークが入っていて
『○○組 組長』と書いてあり
私はとても驚いた。
矢野さんは
そのテーブルにつくホステス達に
必ず小さく折りたたんだ一万円札を
ニコニコ笑いながら手の中にねじ込み
「うまいもんでも食え」
と言う。
私は毎日
その一万円を
実家までの帰りのタクシー代にしている。
「まりも、おまえもうすぐ誕生日なんだって?」
「はーい。そぉなんですよぉ。」
「なんかプレゼントしてやるから何がいい?」
「えー!本当ですかぁ?」
矢野さんはとても羽振りがいいので
私は素直に甘える事にした。
「マンションとか車とかはなしだぞ。はっはっは」
「うーん。何にしようかなぁ。」
「好きなブランドはどこなんだよ?」
「んっとね、シャネルが好きだけど。」
「シャネルのバックにするか?」
「うーん…。そうだなぁ~」
シャネルのバックなんていっぱい持っているし
もっと特別なものがいいなと思う。
私は少し考えてから
「かっこいいヤクザのパパを紹介して欲しいな♪」
と言った。
矢野さんは大笑いをして
「おまえらしいな。本気か?」
と言い、私はいたづらっぽく微笑んで
「もちろん。本気ですよ。うふふ」
と答えた。
「どんなタイプがいいんだ?」
「うーん、矢野さんみたいなかんじ?あはは」
「じゃ、俺と付き合うか?はっはっは」
「またまたぁ。矢野さんはママにゾッコンのくせに。
それに、私が矢野さんにちょっかい出したらママに殺されちゃぅよ。ね」
「はっはっは。じゃー4人で飯でも食いに行くか。
俺の兄弟分を紹介してやるよ。」
「わぁ~い!うれしぃです。」
ブランド物やアクセサリーよりも
今の私は強い後ろ盾が欲しい。
矢野さんの兄弟分なら相手に不足はない。
矢野さんはすぐにその兄弟分に電話をかけ
さっそく明日の夕飯の約束を取り付けてくれた。
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