らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -252ページ目

第107話 私の事

拍子抜けした私は
もう冷めてしまった缶コーヒーを口にする。


パパのさみしげな声。


私…酷い事を言ったような気がする。


ヤクザだって人並みに傷ついたりするんだ。


いや、外で去勢を張らないといけない人程

内面は繊細だったりするのかもしれない。


結局、春子さんの事だって取ってつけたような理由で
私はずっとパパとの別れの理由を探していた。


成り行きにまかせて

自分の気持ちを選んでいくから

こんな事になっちゃうんだ。


自分でした事とはいえ
後味が悪すぎる…。


「お…お待たせ!」


上ずった声がして振り返ると

直樹がシャワーに向った時と同じまま、スーツ姿で立っている。


「えっ なんでスーツ着てるの?」


「だって…バスタオル巻いて出てくるのも…なんだか恥ずかしいし。」


「えー 気持ち悪いでしょ? 脱ぎなよ…。
ごめんね。私、大きいTシャツとか持ってないんだよね。」


「う…うん。でも、このままでいいよ。」


パパのバスローブを貸すのは気が引けるし

しょうがないか。


直樹はソファーのはじの方に座って煙草に火をつける。

なんだかギコチナイ動きで本当に慣れていないんだというのが手に取るように解る。


あーあ…。


どうしよう…。
この後、どうすればいいのか…。


・・・・・・。


パパと電話を切った後
私は緊張の糸が途切れて一気に疲れてしまった。

そして
強烈な自己嫌悪に襲われている。

とても今、男とベットに入る気にはなれない。



「直樹君、私の事話してよ。」


「え? 私の事って?」


「私ってどんな女の子?」


「まりもちゃんはやっぱり変わってるなぁ~。普通はさ、あなたってどんな人?
って相手の事を知りたがるよね?」


『あんたの事なんて別に知ってもしょうがないじゃん』


能天気で平和ボケしてるリーマンの兄ちゃんでしょ。と

心の中で毒づく。


「ね、私の事話してよ。お願い」


「うーん。俺の印象でいいの?」


「うん! 教えて」


「そうだな。明るくて元気で…気は強そうだけど芯があって
それでいてお嬢様としての品格もあるみたいな…
不思議な女の子だよ!それに素直で優しそうかな。」


「ぶっ あはははははは」


「え? おかしい?」


「あーーー おもしろい。 あははははは」


私みたいな女にそんな美辞麗句を浴びせるなんてお笑い種だ。


これは直樹の妄想、いや願望なんだろうな。
きっと直樹の好きな女の子のタイプなのだろう。


「そんなに笑うなよ…。真剣に答えたのにさ…。」


「あはは ごめんなさい。じゃ、今度は直樹君の事話して。」


「俺?俺の事か…。俺はこれといって何も特徴がないかも・・・。
そう、二卵性の双子なんだよ! 俺が兄貴で弟は千葉に住んでるんだ。」


「へぇ~! 双子かぁ。二卵性って事は似てないんだ?」


「顔は似てないけど、性格は似てるよ。俺も弟もスポーツ少年でさ
俺はバスケ、弟はラクビー。大学時代もサークルじゃなくて部活でバスケ一色だった。」


「ふーん。恋愛は? 今まで何人の女の子と付き合ったの?」


「大学時代に2人だけ。一人は3年続いたんだけど彼女が卒業で実家の九州に帰っちゃってね。

自然消滅だった。それからは彼女いないんだ。」


「彼女いないって言っても好きな子とかいないの?」


「うーん。ちょっと前までね、同期入社の総務の女の子の事が好きだったんだ。
でも告白したら振られちゃったけどね。」


「へぇー。直樹君けっこうイケてると思うけどね。工藤兄弟だっけ?あれに似てない?」


「あー! たまに言われるよ。あっちも双子だしね。」


「うんうん。背も高いし、モテそうだけどなぁ~。」


私と直樹は長い間、他愛もない世間話に身を投じた。


ベットに入る気にはなれなかったし
直樹もそういう雰囲気に持っていこうとはしなかった。


刺激のない会話が今の私には心地よいものだった。


こういう人と結婚するのが女の幸せなのかもしれない。

この人は私を幸せにしてくれる王子様なのかもしれない。

私をここから救い出してくれる救世主なのかもしれない。


そんな思い込みが加速していき

朝方には私はそう妄信していた。


「直樹君、私の生きていく理由になってくれる?」


直樹はそれを最高にオシャレなくどき文句だね!と感動していたけれど

私にとっては至ってシンプルな自分の本音だった。


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