第246話 時に愛は
ジイヤからの電話で飛び起きた。
時間ギリギリに楽屋に入り
化粧もそこそこに舞台に上がった。
ストリップ界では
出の時間に遅れることが
最大のペナルティとされている。
どうにか間に合ったから良かったものの
少し渋滞が酷ければ遅れていただろう。
日常生活の全てを
ユウに頼りきっていたことを思い知る。
今までは目覚ましをかける必要なんてなかった。
これからはちゃんと自分一人で起きなくてはならない。
夕方4時
待ちわびていた電話が楽屋にはいった。
一旦電話を切り
外に出てから携帯で掛けなおす。
「どうだったの?!」
逸る気持ちを抑えきれずに
すぐに試験の出来を尋ねた。
緊張の瞬間だった。
「うん! かなり自信あるよ! いけてると思う!」
ユウの清涼感溢れる明るい声。
私はうれしくなって
思わずその場で飛び跳ねた。
片手でガッツポーズを決める。
「良かった! 本当良かった! ああ、神様ありがとう!!」
言いながら、空を仰いだ。
ジェット機が
綺麗な放物線を描きながら
祝福のメッセージを贈っていた。
世界の現象の全てが
意味を含んでいるように感じた。
偶然なんて
本当は一つもないのかもしれない。
私は感激し涙ぐんだ。
どうして今まで気が付かなかったのだろう。
世界は完璧に創造されている。
それとも
自分の心がけ一つで
こんなにも世界は変わって見えるものなのだろうか。
「今、試験会場出たところなんだ、これからそっちに向かうね」
ユウは走っているのか
息が弾んでいる。
「待って、ユウ。 話があるの」
「うん? そっちに行ったら聞くよ」
「あのね・・・。 とりあえず電話で話したいことあって」
「何?」
成り行きにまかせるつもりでいたから
前もって話す内容を考えてはいなかった。
ただ率直に、正直に、素直に、
それだけを心がけた。
深く息を吸い込み
私は自分の想いを語り始めた。
「昨日あれからいろいろ考えたんだ。
それでね・・・ もう少し一人で考えるための時間が欲しいの」
軽く切込んでゆく。
「・・・どういうこと?」
ユウの声は
すぐにトーンダウンした。
「何から話せばいいだろう・・・。
私もまだきちんと整理できてないんだけどね。
でも今日は、自分の思っていることを正直に話す。
嘘偽りは絶対にないから、それだけはわかっていてね。
私ね、昨日のユウの状態を見て自信が持てなくなったの。
今の私のままじゃ、絶対にユウを幸せにはできない。
ユウを不幸にしかけた。 それは事実だよね?
危機的状況だったと思うんだ。 相当やばかったもん・・・。
そうでしょう?
それにね、本当は私
ユウのことを幸せにしようなんて
今まで一度も考えたことなかったのかもしれない。
男は私と一緒にいられるだけで幸せなのよ!って・・・
すっごく傲慢な勘違いをしていたんだと思う。
そのくせ私の方はさ
ユウはきっとエリートになって
私のことを幸せにしてくれるんだ、って夢みてた。
勝手だよね。
だけど、そういう自分が嫌になったの・・・。
ユウがいなきゃ幸せになれないなんて、ただの依存でしょう?
ユウがいなくなったらってどうしようって・・・不安は絶対に拭い去れない。
だから、一度一人になって自分の足でしっかり立ちたいって思ったの」
私はユウに問いかけながら
話を進めていった。
「・・・・別れるって意味なの?」
ユウが低い声で尋ねる。
少し考えてから私は続けた。
「別れる・・・。 そうね、いったん関係をリセットするかんじ。
お互い、もう少し大人になって、その時まだ二人の気持ちが同じなら
そのときは今度こそ一緒になりたい」
「・・・俺のこと・・・嫌いに・・・なったの?」
ユウは絶望的な声で
途切れ途切れに言った。
「ううん、全然! 私ね、今が一番ユウを愛しているんだよ!」
一言一言に意思を持たせるように言葉に力を込めた。
一番解ってもらいたいところだから。
ユウはすぐに反論した。
「俺のことを嫌いになったか、他に好きな男が出来たか
それ以外に別れの理由なんかないだろ?」
ユウの言いたいことは理解できる。
きっと昨日までの私が逆の立場なら
全く同じ台詞を言ったはずだ。
心の中をユウに見せることが出来れば話は早いのに。
そう思った。
言葉はいつも想いには足りない。
だけどユウに納得してもらうまで
言葉を尽くして説明する意外は方法はない。
「そうだね。 今までの別れは全部そうだったな。
気持ちが冷めちゃうか、他の男に目移りするか・・・。
だからいつも別れたらそれっきりだった。
でもね、今回は違うの!
ねぇ、好きだからこそ離れるって選択もあるんだよ?
だって今の私のままじゃ、絶対にユウを不幸にするだけだもん。
私、自分のことをきちんと見詰めなおしたいの。
そういう時期にきているんだと思う。
今までずっと
ユウを散々振り回してきたわ。
薬中になりかけたのよ・・・。 その事実は重いよ。
ユウはまだ私に巻き込まれないだけの強さはない。
だから、ユウにはそれを身に着けてもらいたい。
私もユウも精神的にもっとタフにならないといけないと思わない?」
しばらく沈黙があった。
「じゃあ、いつまで俺は待てばいいの?
まりもが一人でいろいろ考えたいっていうなら俺は待つよ」
ユウには
まだ理解できていないようだった。
心の準備があったわけではないから
別れという現実を受け入れることは困難なのかもしれない。
私は一晩かけて思い悩み
この結論に達したのだから
ユウにも時間は必要だろう。
私は真心を込めて話を続けた。
「本当はさ、あんなことがあって・・・
私も今、一番ユウと一緒にいたいんだよね。
一人になるのは心細いよ・・・。
だけどさ、
別れるけど、気持ちは離れてないんだよ?
他に男をつくるとかも絶対にないから。 だからいつでも電話してきていいよ。
離れていても気持ちはいつも傍にいるよ。 わかるかな?」
「全然わかんないだけど・・・。
すごい中途半端じゃないか!
もっと論理的に話してくれないかな? 感情論じゃなくて」
ユウは不機嫌になってしまった。
それからも私は
根気強く自分の考えを話し続けた。
「俺はまりもと一緒にいられるだけで幸せだよ」
ユウを不幸にしてしまう、という私の言葉に対して
ユウはそう反論した。
「ううん。 ユウは私に振り回されて自分を見失ってるんだよ。
ねぇ、依存と愛は違うんだよ。 私ようやく気がついたの。
私ね、無意識だったけど、ユウが私に依存するように仕向けてきた。
それが今までの私の恋愛の形だったんだと思う。
相手が依存して私とは離れられないって距離感を作り上げないと不安だったのね。
現に今、ユウには私しかいないでしょう?
友達もいない。遊びに行くのは私のテリトリーだけ。
ユウは私の世界に入ってきてその中でだけ生きてた。
だから今度はここから出ていけばいい。
同年代のお友達を作ってさ
年相応の青春を過ごしてごらんよ。
今ならユウはまだ戻れるから。
それにユウには目標がある。
そこに精一杯の情熱を注げば絶対に成功するよ!
ユウは私と違ってすごく頑張りやさんだもん」
「勝手すぎるよ! そんなことにもうなんの魅力も感じやしないよ!
俺をこういう風にしたのはまりもだろ? 最後まで責任持ってくれよ!」
私は考え込んだ。
ユウの言い分はすごく正当に思えた。
私の方が間違っているのかもしれないと
考えが揺れ初めていた。
いや
たぶん私の意見もユウの意見も
どちらも間違ってはいないのだ。
だけど
道は二つに分かれている。
論破されそうになったけれど
最後は私の意見を押し通す形になった。
ユウは
自分も一度いろいろ考えてみるから、と
別れは保留の形で納得してくれた。
電話を切った私は
再び迷いの森を彷徨っていた。
本当にこれでよかったのか
確信が持てなかった。
最後は
私の意地みたいになっていた。
ユウのために別れるつもりが
いつのまにか
自分が成長したいというエゴに
切り替わってはいなかっただろうか。
この別れは欺瞞なのではないか。
私の瞳は
ユウを過ぎてどこを見ているのか。
何が正しくて
何が間違いなのか
いくら考えても納得のいく答えは見つからなかった。
きっと
今の時点で答えが出ることではないのだと思った。
これからの私が
正しい選択だったと思えるように生きていくしかない。
いつかこの別れを
肯定できる日がくるように。
「時に愛は二人を試してる~♪」っつーGLAYの名曲があるわけですが。
私は一つの真実を手にしてユウを失ったわけだね。
情熱の行き着く先は一体どこなんだろうな。人の一生は長い旅路ということか。
うーん。 この場合、一番正しい選択はどうすることだったんだろう?
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