発酵する生き方、腐敗する生き方
古代のお酒は口噛み酒でした。
口噛み酒とは、女性が米を含み噛みしめて唾液で発酵させた酒です。
女将を「おかみさん」と呼びますが「噛み」と同じ言葉が含まれています。
大正時代末まで、沖縄の西表島では口噛み酒が造られていました。
炊いたお米を女性が噛み、それを石臼で挽き、かめに保存して3日もするとお酒ができあがったそうです。
酒を造る職人のことを杜氏(とじ)といいますがもとは女性のことを指していました。
古代日本は母系社会でしたので戸主は女性で4世紀以前の女性首長はトベ(戸畔)と呼ばれていました。
8世紀ごろから「トベ」は「刀自(とじ)」に変わり酒を作る職人の「杜氏(とじ)」になったのです。
昔は巫女が神社で口噛み酒を造っていました。
お酒がなければ神事も祭り事も成り立ちませんでした。
神事の後には必ず、直会(なおらい)という儀式がありました。
その時に、『神人共食』と言って、お供えしたお酒と供物といっしょに神様と共にその場で戴いたのです。
自然酒を醸造している寺田本家の23代目当主の故寺田啓佐さんにお会いして発酵のお話を伺ったことがあります。
寺田啓佐さんによると男性10人が造った口噛み酒は腐ってしまい、女性10人の口噛み酒はとてもおいしく醸しだされたそうです。
男性では美味しい口噛み酒が作れなかったのです。
寺田本家に婿として入った寺田啓佐さんは最初どうしたら勝ち組になっていけるか、成功できるか、利益や売上を伸ばしていけるか、そんなことばかりに終始していました。
そうしているうちに新しく経営に乗り出していた蕎麦屋や居酒屋も上手く行かず、蔵に40年勤めた番頭や越後杜氏も次々と辞めていきました。
経営が傾いても自分は間違っていない、自分は正しい、悪いのは辞めてった番頭や杜氏のせいだ、景気が悪いから、うまくいかない理由をすべて他人や世の中に押し付けました。
自分から変わろうなんて考えもしませんでした。
自分を省みず、あのせい、このせいと不満を言っているうちに、憎しみとか妬みの感情がわいてきて、それがまたトラブルを生んでは愚痴をこぼしていました。
うまくいかない時は、こんな腐敗循環の中にいたのです。
そして自分の腸が腐り、蔵も腐り、家庭も腐り、あっちもこっちも腐ってしまいました。
男性は女性より競争社会に巻き込まれることが多いです。
自然の摂理から離れて競争の中で身をすり減らし、無理をしてがんばります。
でもこれが結局裏目に出て、逆に腐ってしまうのです。
腐敗循環の場にいて、もう自分は発酵できないと諦めてしまいます。
奪い合いをする腐敗場を選択することによって、自殺にまで追い込まれてしまう人もいます。
寺田啓佐さんは微生物から
教わりました。
「腐らないためには変わることだ」
発酵するというのは微生物のように自分が変わることなんだということに気がついてから、寺田啓佐さんの見方や考え方は変わっていきました。
それまでは売り上げばかりを考えて自分の命が喜ぶような生き方をしてこなかったのです。
発酵に一番影響を及ぼすのは人間の言葉や意識で、お酒の味はそのときどきの精神状態によって微妙に変わってしまいます。
発酵は微生物たちが自分の役割や使命を心得、相手を尊重し、自分の出番になるとやってきて命を燃やして使命を果たして消えていきます。
そして次の微生物に
バトンタッチしていきます。
自然に沿って変化して
発酵していると腐りません。
分かち合う、
共生の世界が微生物の世界でした。
自然に逆らっていた
生き方を変えて、
正しさを相手に押し付けて
争うのではなく、
微生物のように、
仲良くまわりと調和しながら、
自分を好きになって、
心地良く生きる方向にシフトしていくと
発酵して循環型、調和、共生の世界が創りだされます。
腐敗する社会から発酵する社会へのシフトは微生物が教えてくれています。
寺田啓佐「発酵道」
酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方
https://www.teradahonke.co.jp/hakkoudou/
清水友邦さんの
Facebook より