「白夜行」('11) | Marc のぷーたろー日記

「白夜行」('11)

これまでに日本で連続ドラマ化、韓国で映画化もされている東野圭吾さんのベストセラーミステリーをより原作に忠実な形で映画化した作品です。主演は堀北真希さん、高良健吾さん、船越英一郎さん、共演は戸田恵子さん、田中哲司さん、姜暢雄さん他。

映画『白夜行』公式サイト
Wikipedia「白夜行」



いろいろと不満はありますが、


泣きました (ToT)


ただ、これは原作を読み、ドラマも観ていたからであり、それらの予備知識が全くない状態でこの映画を観ていたら、恐らく泣くことはなかったと思います。今回は特にドラマで赤裸々に描かれた雪穂と亮司の壮絶な人生が思い出されて、それでクライマックスシーンで涙がこぼれてしまったのです。


しかし、映画そのものにはかなり不満があります。

ドラマに比べて原作により近い形での映像化との触れ込みですが、それでもこれは脚本も担当している若手監督・深川栄洋さんによる「深川版白夜行」。独自の解釈と脚色がかなり色濃く現れていました。

確かに、昭和を舞台に雪穂 (堀北真希ちゃん) と亮司 (高良健吾くん) を客観的な第三者目線で描き、二人の関係が最後になって明らかにされるという展開は原作と同じ。

しかし、二人を追う笹垣刑事 (船越英一郎さん) の比重を増やし、彼が亮司に自分の亡き息子の姿を重ね、亮司の父親になろうとする姿は (ドラマ版の脚色に近いものもありますが) かなり独自の脚色。

更に決定的な映画独自解釈は、原作でもドラマでも雪穂と亮司が「共生」し、互いを助け合うために行なわれたとして描かれた犯罪が、全て亮司の雪穂への一方的な「献身」に書き変えられていること。ここはかなり大きな改変。

正直なことを言えば、この改変は僕には受け入れ難いものがありました。雪穂が全く手を汚さず、(多少の手引きはしても) 全てを亮司が一人で実行したというのでは、二人の関係性が全く違うものになってしまいます。

確かに東野圭吾作品としては、後の「容疑者Xの献身」のように男が愛する女のために一方的に尽くしまくるというストーリーもありますが、少なくとも「白夜行」は違いますし、僕にとって「白夜行」の最大の魅力は主人公二人の「共生」関係なのに…。

ここでかなり残念な気持ちになりました。


他にも、アップに耐えられないブサイク俳優&女優のクローズアップが無駄に多過ぎるとか、笹垣が雪穂と亮司の全てを知る過程があっさりしているため「いつの間にそこまで分かったの?」という不自然さはかなり気になります。

そして、そもそも堀北真希ちゃんが雪穂を演じていることに説得力が全くなかったのが致命的でした。

堀北真希ちゃんは女優としては「いい女優」だと思うんです。独特のクールで影のある雰囲気は同年代の女優にはない貴重な個性。今回も彼女なりに雪穂を演じていたとは思いますし、雪穂ではない普通の「悪女」役ならハマると思います。でも雪穂ではないんです。雪穂は見るからに影があるようではダメ。少なくとも表面上は一点の曇りのない華やかな雰囲気があってこそ雪穂なんです。堀北真希ちゃんでは地味で華がなさ過ぎます。

例えば、堀北真希ちゃんと同い年の新垣由衣ちゃんのように影とは無縁の「陽」のイメージがある女優が演じた方が雪穂には説得力があるんです。

結局のところ、堀北真希ちゃんのような影のある雰囲気の女優を雪穂役に起用する時点で、雪穂の解釈が僕とは根本的に違うんだなということを (観る前からある程度分かっていましたが) 確認する結果に終わりました。


ただ、そもそも原作の「白夜行」は大事な部分を敢えて描かないという独特のスタイルが人気を集めた小説。それをそのまま映像化することは不可能ですし、意味がありません。映像化にあたっては脚色が必要で、その脚色には原作をどう解釈するかが重要なポイントになります。

そこでドラマ版は「共生」を「純愛」に読み替えて大胆にアレンジし、「裏白夜行」のように描いたわけですが、今回の映画は表面上は原作通りですが、二人の関係を「共生」ではなく「(一方的な) 献身」と解釈した「新釈・白夜行」と言えるのではないでしょうか。

ですので、この映画に近い解釈をして原作を読んだ人には、この映画はかなり良く出来た映画化作品に見えるんじゃないかと思います。


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