「砂の器」('74) | Marc のぷーたろー日記

「砂の器」('74)

砂の器 デジタルリマスター 2005 [DVD]/丹波哲郎,加藤剛,森田健作
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松本清張の同名長編小説を丹波哲郎さんと加藤剛さんの主演で映画化した作品です。共演は森田健作さん、島田陽子さん、緒形拳さん他。

Wikipedia「砂の器」


中居正広さん主演のドラマ (2004年) は部分的に観ていたのですが、原作者遺族からのドラマ化の条件としてハンセン氏病の設定を別の設定に変更していたので、より原作に近い形で映像化されている映画を観てみたかったのです。




いい映画です。


ただ、長尺 (140分強) の映画ではあるのですが、それでもまだ描き切れてないような「物足りなさ」を感じました。自分の好みで言うと、和賀 (加藤剛さん) の内面をもっと深く描いて欲しかったんです。あそこまで自分に良くしてくれた「恩人」を何故殺してしまったのか。自分の過去を隠したい、消し去りたい、現在の地位を守りたいといった内的葛藤や罪悪感といったものも観たかったんです。

が、この作品における和賀は「事件の主人公」ではありますが、「物語の主人公」ではなく、あくまで今西刑事 (丹波哲郎さん) の目線で描かれる人物。その内面は観客も今西と同じように「推測」するしかないわけです。

これは、その後の傑作ミステリー小説「火車」 (宮部みゆき著) や「白夜行」 (東野圭吾著) などと同じ手法ではあるんですが、僕は犯罪を犯してしまった人物の内面に興味があるので、そこをじっくり観たかったんです。

しかし、それは完全に好みの問題で、そういった個人的な趣味を除けば、やはりとても良く出来た映画でした。

中盤まではドキュメンタリーのように淡々と展開していたのがクライマックスでは一転ドラマティックな演出に。和賀の生い立ちを今西が語るシーンと和賀が作曲した「宿命」が流れるコンサートシーンが並行して描かれるクライマックスシーンの映画的演出は見事としかいいようがありません。原作者である松本清張氏が高く評価したのも納得です。

この演出は中居くんのドラマ版でも使われていますが、小説を映像化する上でこういった映像ならではの演出を加えることの重要性を示す典型例だと思います。


ハンセン氏病差別の問題については原作とは舞台となる時代設定が異なるため、若干の違和感を感じましたが、それでも日本においてかつて理不尽な迷信に基づく差別によって不幸を強いられていた人々がいたという事実を知る意味でも一見の価値があると思います。