「クローズZERO」('07) | Marc のぷーたろー日記

「クローズZERO」('07)

クローズZERO スタンダード・エディション
¥2,953
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小栗旬さん主演で昨年興収 25億円のヒットを飛ばしたアクションバイオレンス映画です。共演は山田孝之さん、やべきょうすけさん、高岡蒼甫さん、黒木メイサさん他。また第17回日本映画批評家大賞において小栗旬くんが主演男優賞、やべきょうすけさんが助演男優賞を受賞しています。他にもブルーリボン賞では受賞には至りませんでしたが、小栗くんと山田くんがそれぞれ主演男優賞と助演男優賞にノミネートされました。

そもそもこの手のアクションバイオレンスはあまり興味がないのですが、非常に評価が高いこともあって期待して観ました。まず一言。



爽やかな青春映画じゃん! (^^)v


もちろん不良高校生たちの物語ですから、ビジュアル面では全然「爽やか」ではないんですが、観終わってみると、妙に爽快感があるんですよね。

異世界のような現実感のない舞台設定と時代劇の合戦のような「けんか」シーンで、この手のバイオレンス描写が苦手な人でも「格闘技」を観るような感覚で観られるかもしれません。また、ところどころに売り出し中のイケメン俳優を配することで、女性にも受け入れやすくする一方で、本来のターゲットである男性向けのテイストをしっかり盛り込んだバランスの良さが、これだけヒットした理由なんだと思います。
この映画も一種の「イケメンパラダイス」ですが、実はこの映画の脚本を担当した武藤将吾さんは、昨年のヒットドラマ「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~」も担当しています。どちらも男子校を舞台にしていますが、世界観がまるで違うのが面白い。でも男の子たち特有の青春群像劇として見ると共通点はあるかも (^^)v
笑いあり涙あり、そして社会の縮図としての組織論やリーダーシップ論も匂わせる、娯楽青春映画として出色の出来だと思います。

登場人物が多すぎて、それぞれのキャラクターが描き切れていないという不満もありますが、全体としてのまとまりは悪くないですし、130分もの長尺を飽きさせないテンポの良さも◎

ただ、とても残念だったのは、観客から概ね不評だった女性キャラの存在。この物語に女は不要でしょう。黒木メイサさんの演技がどうこうという問題ではなく、徹底した「男の世界」に女を絡ませることの不自然さと商業的なイヤらしさが観客からそっぽを向かれたのでしょう。

ところでこの映画については、小栗くんと山田くんが既存のイメージを大きく打ち破る役柄に挑戦し、成功したことが宣伝材料として多く使われていましたが、これについては僕は少しだけ違和感を感じています。

「俳優・小栗旬」に対して僕が抱いているイメージは「純粋さと熱さを屈折で覆い隠しているストイックな青年」。クールな表情が似合うので「王子様キャラ」は似合わない。だから「花より男子」の花沢類を演じたことは僕から観ると非常に違和感があるのです。もちろん彼は器用な俳優なので、どんな役でも演じてしまうんですけど、それでも彼には「クールな一匹狼」のような役の方が遥かに似合うと思うんです。

一方の山田くんは、最近ではすっかり「繊細で心優しい青年役」「感動的な演技で泣かせる俳優」のイメージが定着してしまっていますが、彼の目力 (めぢから) の強さが狂気と凶暴性、そして不気味さを示すのにピッタリであることは、「ドラゴンヘッド」('03) のノブオ役で証明済み。また、濃い顔と本来持っている「やんちゃさ」は「熱さ」を示すのにも合っています。

そんなわけで、むしろこの 2人に、何故これまでこの映画のような役をやらせなかったのか、そちらの方が僕にとっては不思議なんです。

実際の演技の「出来」については 2人とも期待通りで充分に満足しているのですが、もうちょっと予想を (良い方に) 裏切るような驚きや意外性があっても良かったかなぁという気持ちがないではありません。あまりに「期待通り」過ぎちゃって。僕はこの 2人に対しては見る目がちょっと厳し過ぎるんでしょうけど (^^)

出来はともかくとして、実は僕にとって、小栗くんと山田くんの共演というのは、それ自体にちょっと不思議な気持ちがあるんです。もちろん「ヘン」という意味ではありません。2人とも実力は同年代の俳優の中でトップクラス。しかし僕が彼らに抱いているイメージが対照的で、その 2人が同じ作品の同じ画面に映っているというだけで何とも言い難い感慨があるんです。

小栗くんの役者としてのイメージは様々な意味で「器用な職人」。ドラマ、映画、舞台で次々といろいろな役をこなせているのは、もちろん本人の努力の賜物であることは確かですが、「器用」でなければ不可能。また役者であることにこだわる一方、「芸能人・タレントとしての小栗旬」も受け入れ消化しているところも彼の器用さを示しているように思います。

一方の山田くんの役者としてのイメージは「求道者」。不器用ではないんですが、器用にこなしていくというよりは、山田くん独自スタイルの「役者道」を愚直なまでにひたすら極めていくような「孤高の天才職人」。

同じ「職人」系ではあるのですが、2人の違いをもっと簡単に言ってしまうと、社交的で仲間たちと互いに刺激しあって切磋琢磨していく小栗くんと、超マイペースで自分の内的な葛藤の中で自らを磨いていく山田くんとの違いといったところでしょうか。

どちらが良い悪いというのではなく、役者としての立ち位置が対照的に見えるというだけなのですが、そんな 2人が同じ作品で、しかも対立する役柄で登場する、それを観るだけでも充分な価値があるように思えるのです。

さて、こういうふうに書くと、まだこの映画を観ていない方は、この映画は小栗くんと山田くんのダブル主演のように思われるかもしれませんが、それは違います。

この映画の主演は間違いなく小栗くんただ 1人です。

しかし、小栗くんが「自分の出番の方が (山田くんより) 多くて良かった」と半ば冗談まじりにインタビューで語っていたことが示すように、山田くんの存在感が強烈だったことは事実。もちろん山田くんが演じた役が物語の展開上「おいしい役」であったこともありますが、それ以上に、改めて山田くんは「主演たるべき役者」なんだと思わされたのです。

これまで数多くのドラマや映画で「主演俳優」として作品の世界観を作り上げて全体を引っ張っていく「座長」としての役目をこなしてきた山田くんには、画面に映るだけでその作品の世界観を表現しうるだけの存在感と表現力があるんですね。だからこそ出番は少なくても、小栗くん扮する主人公の前に立ちはだかる「大きな壁」に見えるキャラクターに山田くんが起用されたのでしょう。出演者のクレジットの一番最後に「山田孝之」の名前を見たときには、ちょっと感動しました (^^)

とにかく、ここ数年、ドラマや映画で主演ばかりだった山田くんが久しぶりに (名実共に) 助演にまわったことで、改めて山田くんの主演俳優としての実力を見せつけられた思いがします。
山田くんは本作の演技で、ブルーリボン賞助演男優賞にノミネートされましたが、他の候補者は伊東四朗さん、香川照之さん、三浦友和さん、光石研さんといった超ベテランばかり。つまり山田くんはこれだけのベテランと肩を並べるほどの存在感を示していたわけです。因みに助演男優賞を受賞したのは三浦友和さんです。
ところで、小栗くんが演じた主人公・源治は確かに魅力的なキャラクターなのですが、この映画は脇のキャラクターがあまりに個性的で魅力的、しかも演じる役者さんたちが素晴らしく好演しているために主人公の存在感が薄まってしまっているところがあるかもしれません。

既に紹介したように、山田くんが演じた「百獣の王・芹沢多摩雄」のコミカルでありながら、狂気を帯びた凄みも強烈でしたが、他の脇役もかなりインパクトがあります。

実は僕が小栗くんや山田くんよりも目を奪われたのは、クールな頭脳派の伊崎を演じた高岡蒼甫さんの演技。彼はここ数年、様々な映画の脇役で好演していて、しかも役にも恵まれているのですが、その中でもこの伊崎役は 1,2を争う「もうけ役」だと思います。クールで非情に見えながら、孤独な悲しみをたたえた目が「伊崎」のキャラクターの背景にどんな物語があるのか、様々に想像をかき立ててくれ、できればもっと伊崎を観たいと強く思わせるものがありました。

また、やべきょうすけさん演じる冴えないチンピラ・拳は「青春の幻をいまだに追い続けている、大人になり切れない青年」。このキャラクターが対照的な存在になることで、この映画が単なる不良高校生の物語ではなく、「熱く生きる打算のない若者たちの青春映画」になっているのですのが、この重要な役をやべさんが体当たりで見事に演じ切り、観ている者を泣かせるのです。クライマックスシーンも良かったですが、刑事役の塩見三省さんとの 2人のシーンが特に強く心に沁みました。

更に源治の中学時代の友人で、多摩雄の親友・時生を演じた桐谷健太さんの存在感も強い印象を残しています。桐谷さんというと「プロミス」の CM でのちょっとキモいコミカルさやドラマ「タイヨウのうた」('06) での不気味な悪役のイメージが強かったのですが、本来持っている目力の強さや凄味が活かされた「おいしい役」だったと思います。


とにかく脇役 1人 1人が、それぞれを主人公にしても充分に物語が作れそうなくらい、個性的で魅力的。もしかするとスピンオフ作品ができる可能性もあるんじゃないでしょうか。「クローズZERO」で物足りなさを感じた、魅力的な脇役たちが充分に描き切れていなかった点を解消するためにも、ここは是非とも作品世界を膨らませて、スピンオフ作品を実現してほしいです。

まずスピンオフとして作られる可能性があるのは、順当な線では、多摩雄と時生の友情物語ってところでしょうが、僕としては伊崎を主人公にした作品も観たいなぁ (^^)


いろいろとダラダラと書いてしまいましたが、この映画、気楽に楽しめる娯楽映画として間違いなく「面白い」です (^^)v

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