米国内の社会的、政治的な分断はかなり危機的なところまで来ています。こちらに住み始めた80年代末から90年代前半までは私も米国の政治・社会についての理解は今一つだったのですが、その後の十数年間と最近十年ほどを比べてみるとその変容ぶりには愕然とします。

 

私はその分断の原因のひとつが情報源となるメディアにあると思っています。主要メディア間での乖離(Fox Newsとそれ以外、NBC、ABC、CBS、CNNなど)は15-20年前くらいから徐々に進んだ感じがしますが、2016年の選挙のころからは新な傾向が。この頃にはニュースを主要メディアからではなくSNSから読む層が増えてきていたようです。SNSからのニュースはそのスピード、関心をもつトピックに合致していること、無料であることなど手軽さ、便利さが特徴ですね。問題はこの層の一部が従来の主要メディアに対して極度の不信感をもっていること。事実関係の認識が全く異なるために建設的な議論が極めて難しく、分断に火に油を注ぐ結果になっています。なぜこんなことになったのでしょうか。

 

背景にはニュースメディアのビジネスとしての宿命的な難しさがあると思います。信頼できる報道のためにジャーナリズムの理想は死守しなければならない一方、企業として安定的に組織を運営していかなければなりません。(つまり赤字たれ流しはできない) ところがSNSでニュースが読めるようになると新聞の購読数は急減。ネット上の自社記事サイトへのアクセス(つまりネット広告収入)もそれを補うほどではなく、既存ニュースメディアは主要収入源の先細りという死活問題に直面します。結果、安定的な事業継続のため、多くの主要メディアはネット上の自社サイト記事の一部を有料にせざるを得ませんでした。残念なことにこれが多くの人達が無料で手軽なSNSニュース源に頼る傾向に拍車をかけたのかもしれません。

 

SNSのニュース源にはクリック数稼ぎのみを目的とした質の低い記事、ジャーナリズムもへったくれもない記事があふれています。裏付けを取らないこれらのニュースは超低コスト。クリック数で収入を得ることが主目的なので煽情的な見出しでクリック数稼ぎ。報道姿勢についてのブランド確立の意思なぞ微塵もないので出元不明、真偽不明の記事でOK。簡単すぎです。

 

まともな情報源からのものももちろんありますが、その区別は年々つきにくくなっているように思います。文体、表現さえ主要メディアと同様であれば、読者を裏付けの取れない情報で欺く、操作するのが簡単である、というのは深刻な状況です。そして一部の劣悪なニュース源が「主要メディアは真実を伝えていない、嘘ばかり、エリートが大衆を支配するための道具だ、絶対に信用するな」と繰り返し、これに染まった読者層が謀略論へ傾いていくわけです。

 

主要メディアに間違いがないというわけではありません。偏向した記事も見受けられます。ただ多くの歴史のある主要メディアは公平な報道、信頼できる記事、そしてそのブランドを守るため様々な努力をしてきました。それらとクリック数稼ぎの真偽不明ニュースを同列で表示してしまうSNSから政治・社会関連のニュースを仕入れるのは読者側としては慎重になるべきだと思います。既存主要メディアのジャーナリズムが失われると民主主義の土台が崩壊しかねません。読者の皆さんが主要メディアの記事、特に担当記者の名前が表示されている記事に相応の敬意を払うことを願います。

 

どんなメディアからニュースを得ているかが米国の「分断」の大きな要因である――私はそういう内容の投稿を考えていたのですが、一時帰国中にあった兵庫県知事選は日本でもそういう傾向が萌芽していることを如実に示していると感じました。主要メディアに常時接している人にとっては考えられないような選挙結果。日本でもこれから「分断」が進んでいくのかもしれません。
 

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