4月21日、サントリーホールで、オクサーナ・リーニフ指揮、読売交響楽団を鑑賞。曲目はショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲1番」、ボーダナ・フロリャック「光あれ」、ベラ・バルトーク「中国の不思議な役人」組曲。ヴァイオリニスト、ヤメン・サーディ。
スラヴ系の曲ばかり、なおかつ、抑圧された人々の作品が多く、演奏家のリーニフがウクライナ人、ヤメン・サーディがアラブ系イスラエル人ということで、政治的な色合いはどうしても感じさせるコンサートでした。
フロリャックの「光あれ」は、虐げられた人々の希望を、暗示させようということかもしれません。
今回、個人的な目的は、生でショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲を聴くことです。
いわゆる旧ソヴィエトの「ジダーノフ批判」により、共産主義の目的に合致しない音楽である「形式主義」と批判された、ショスタコーヴィチは、張り紙1枚で、モスクワとレニングラードの音楽院の職を解かれ、圧力に屈します。「森の歌」などで、スターリン礼賛の音楽を書き、名誉を回復しますが、自身は、恋人の前で枕に顔をうずめて泣いたといいます。
そしてそのころ、ショスタコーヴィチが体制に迎合せず、秘密裡に書かれた複数の作品のうちの1つが、このヴァイオリン協奏曲1番です。しかし演奏はスターリンの死後まで待つこととなりました。
これは名曲なんですね。自分も好きな曲です。しかし中々平日、精神が安定している時には、聴こうとは思わない曲でもあります。少し録音を聴いて、精神を慣らしてから聴きに出かけました。
この曲のソロを弾く、ヴァイオリニストのヤメン・サーディはまだ20代、しかも2022年にはウィーン・フィルのコンマスに選ばれている、という人物だそうです。
↑、ヤメン・サーディ。
今日は全曲名演だったと思います。サーディも素晴らしかったです。
ヴァイオリン協奏曲、第1楽章はマーラーの交響曲10番を思わせる、冷え冷えとした響きの中、ヴァイオリンが、憂鬱で緊張感のある世界観を描き出します。正直、サーディが若いので大丈夫かと思っていたんですが、繊細な表現を展開し、素晴らしかったと思います。
出始めから、音がかすれるようなキメの細かい表現で、音が小さすぎるかと思ったりもしたんですが、そのような寸評も無いようでしたので、あれでよかったのでしょう。自分は前の方で聴いていたので、音は良く聴こえました。一瞬メニューインを思い出しましたが、メニューインのように自然と音がかすれているのかは良く分かりません。意図的にやっていた可能性もあります。先日聴いたタメスティとは正反対で、このやり方で「イタリアのハロルド」をやったら最悪でしょう。
内向きに力が働く演奏ぶりで、内照的なショスタコーヴィチ像を丁寧に描いていました。個人的には、演奏が始まってすぐにウルウル来ました。管弦楽も変に神経質にならず、鳴っており、実演でショスタコーヴィチを聴いているという感じがして良かったです。
第2楽章もリーニフとサーディは呼吸が良く合っており、激しいテンポで興奮させてくれました。近くで聴いていた人も、このころから身を乗り出して聴いているのが分かりました。
第3楽章はこの曲の核心です。第1、第2、第4楽章はショスタコーヴィチ的な良くある響きで、何かを揶揄しているような音作りかと思います。しかし第3楽章は、音の大きな冒頭のパッサカリア主題から、異様な雰囲気を提示し、ヴァイオリン・ソロでは、明らかに、この作曲家が本心の独白を始めます。ヴァイオリン・ソロは回顧的な響きですが、悲哀の情が偽りなく流れ、心を打ちます。そして後半の長大なカデンツァでは一切の感情が排除され、伴奏の無い虚無的な空間に、ヴァイオリンの音色だけが切々と鳴り続けます。
サーディはここでも繊細な表現で通します。カデンツァも場面ごとに表情を変えて、飽きさせません。リーニフによる、初めのパッサカリア主題も雰囲気満点でした。
素晴らしい集中力で第3楽章を弾き切ったサーディ、リーニフは抜群の反応速度で、休息なく、第4楽章に突撃、子気味良さを発揮しました。サーディ、リーニフ共々集中力ある名演だったと思います。
実演で改めてこの曲を聴くと、そこらに沢山ある交響曲よりも、ずっと感動的だと実感します。とにかくヴァイオリン・ソロにかかる比重は重いと思いますが、その分ショスタコーヴィチの思いがそこに込められているのが分かります。ヤメン・サーディは集中力を切らさず、感動的に弾き切ったと思います。
コンサート中間部のフロリャックの曲は、10分程度の曲で、どこかドビュッシーの「海」を思い出しました。「光あれ」は聖書の言葉、そして2023年の作品ということも考えると、どうでしょうか。聴きやすいものの、それほど良い曲とも思えませんで、コンサートにこの曲を挟む、というのはやはり政治的な意味合いの方が強いという気は、コンサート中、ずっとしていました。
ラストはバルトークの「中国の不思議な役人」です。舞台音楽らしく、自分は物語の内容を知らないので、音と物語の関係性込みで聴くことができません。しかし、バルトークの音楽としては、比較的有名な曲でもあり、管弦楽の嵐のような響きの面白さがあると思います。
女性指揮者のリーニフですが、正直実力は良く分かりません。この曲を聴く限り、彼女は曲の内容を決め打ちでまとめ上げており、ハイスピードのテンポで迷いのない演奏を展開しました。複雑な響きの箇所も決して音が濁らず、透明感を保ちます。読響も良くリーニフの指揮についていったと思います。
運動性も高く、統率力は抜群で、複雑に鳴り響く音の嵐を1本の筋にまとめ上げていきました。聴後はスカッとした感じで、晴れ晴れとします。これも良い演奏だったと思います。拍手喝采で終わりました。
幾分政治的な感じがありましたが、常識的な範囲だったかと思います。曲目自体、地味な演目ですけど、モダンでスタイリッシュな感じもあり、満足できるコンサートだった様に思います。


