ラファウ・ブレハッチ |  ヒマジンノ国

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2005年ショパン・コンクールの勝者、ラファウ・ブレハッチのコンサートを所沢で鑑賞しました。

 

ブレハッチが良いという人は多いようですが、録音を含め、自分は1度も聴いたことがなくて、今回が初めてです。

 

前半がショパン5曲、後半がドビュッシー、モーツアルト、シマノフスキというプログラム。どれも名演だったと思います。今どきのバリバリ弾くタイプと違って、しっとりと響かせながら、曲の表情や内面を解きほぐしていくタイプです。最近では珍しく、貴重な存在かもと思いました。それでも現代風ではあるとは思いますけども。

 

個人的には技巧的にバリバリ弾いていくタイプより、こういう方が聴きやすいです。何を表現したいか、直接伝わってきます。

 

ただ、音には割と厚みがあって、決してはかない感じでもなかったです。曲にも厚みは出ていました。ポーランドの先輩、ツィメルマンに幾分かは似ていますね。

 

以下は個人的な演奏の感想です。

 

1曲目、ショパンのノクターンはぎこちなくて、ちょっと技術に難ありなのか、とか思ったりもしましたが、そんなことはなくどんどん調子を上げていきました。1曲目は、緊張してあがっていたんでしょう。前半のショパン5曲はどれも過不足ない演奏ばかりで、強音や弱音を繊細に使い分けて、色んなニュアンスを出します。まさにショパンという感じでした。調子が出てきてからは、詩情を湛えながら、安定感もあり、レベルの高さを感じました。ポロネーズ4番では悲劇的で、ロマンティックな英雄像をいかんなく発揮して、好きな演奏でした。

 

そして、さらに後半の方が調子が上がってきたと思います。

 

ドビュッシーのベルガマスク組曲は、あの詩情で悪かろうはずもなく、月の光は印象に残ります。月の光なんかは、誰が演奏しても似た感じなのかもしれませんが、ブレハッチみたいな詩情のあるピアニストの方が、より良く響くと思います。

 

モーツアルトは1番拍手が大きかった演奏です。K331なので、知っている人が多かったということがあるのかもしれません。

 

モーツアルトの演奏で多いのは、芯はあるが、珠のように、角のないピアノの音で、コロコロ転がしていくような演奏という感じでしょうか?グルダとか、ギーゼキングでモーツアルトを聴くと、弾力ある美しい音色を思い出します。ウィーン風のヘブラーなんかはもっとまろやかですが、やはり音に芯があります。

 

ブレハッチのピアノの音は聴いていると、そんな芯のある感じではなく、弾いていく流れのフレージングで表情付けされる、という感じがしました。響きだけ聴いていると、少しとらえどころのない印象でした。

 

多分そう感じるのは、自分が固定観念を持っているからだと思います。自分はこの演奏は、どういう種類のものなのだろうと、過去の演奏家の記憶などをたどって考えてしまいました。

 

やはりショパンぽいというか。時々ですが、音が転がるという感じではなく、少しばかり、ショパン張りのブリリアントな輝きがあるような気がしました。

 

ですが、この人は曲の表情をつかむのが上手く、正確なのだと思います。曲の内容重視なんですね。響きだけ聴いていると、捉えどころもない気もするんですが、曲の表現されている内容そのものにフォーカスすると、モーツアルトそのものだと伝わってきました。

 

それにやはり演奏そのものが安定しており、表現も自在だったと思います。自分の気持ちに沿って、テンポを動かしたりしました。

 

・・・とまあ、演奏を聴きながらこんなくだらないことを、グダグダ考えるのは、僕の悪い癖なのかもしれません。大分前から曲を純粋に楽しめなくなっている気はしてますが・・・。

 

聴衆の反応を見る限り、普通の名演だったようです(^-^;。

 

シマノフスキも面白かったです。前近代的で知性的な悩みというか、現代曲に比べれば全くロマンティックなんですが、感傷的になりすぎない音楽です。シマノフスキのアルバムを出している、ツィメルマンに比べるとずっと感情を表に出した演奏で、ヴィヴィッドに伝わってくるものがありました(演奏された曲はツィメルマンのアルバムにはありません)。

 

ツィメルマンも詩情があるんですが、彼はなんでもくっきりはっきり弾き切るので、完璧な音の鳴るパースペクティヴな冷たい空間に、放り出されたみたいな気分になります。

 

ブレハッチはもっと気持ち優先で、聴きやすかったですね。人間の感情として伝わってきました。

 

今回聴いてみて、個人的にブレハッチが素晴らしいと思えた瞬間は、ショパンのポロネーズ4番とか、あるいはシマノフスキの時に見せる、思いの外深い、悲劇的な感情というか。臆することなく、悲劇性を力ある表現で弾いて、堂々と進軍していく感じがあります。そこにロマンティックな感情も混じりあうので、抗しがたいものがありました。カッコいいなって思います。

 

今回は情報量が多い演奏会で、ちゃんと聴けばもっと色んな発見がありそうでした。しかし1回だけ聴くのでは全部は聴き切れないですね。全体に演奏のレベルも高く、知的な刺激があったコンサートでした。

 

スタンディング・オベーションありで、アンコールも2曲やりました。サイン会には長蛇の列ができて、盛況だったように思います。