フランツ・コンヴィチュニー |  ヒマジンノ国

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旧東ドイツ最高の指揮といわれていた、フランツ・コンヴィチュニー(1901-1962)。自分のようなCD世代にとってみると、紹介する人がいないため、知ることもないような、全く無名の指揮者でした。

 

しかし、レコードショップでアナログ盤を購入するようになってから、このコンヴィチュニーという指揮者を多く見かけるようになりました。数はそれほど多くないものの、それなりの価格で取引され、売れているところを見ると、これは何かあると思うようになって、彼のレコードを集めてみることにしました。

 

 

コンヴィチュニーによる「タンホイザー」(1960)。エテルナ、825217-825220。

 

 

CDではコンヴィチュニーの録音はそれほど出回ってなかったのですが、このタンホイザーだけは良く見かけました。しかし何の知識もない自分には「無名の指揮者」扱いで、一切興味を持っていませんでした。もちろん購入もせず。

 

恥ずかしながら、今回レコードで初めて聴きます。

 

前奏曲(ドレスデン版)を聴いて、驚きが止まらないです。ものすごい音がします。ド迫力。

 

コンヴィチュニーは、悠然と曲の構造に入り込んでいくと、骨太の力強さで梃でも動かないような、強大な音楽を作り上げていきます。いくらかギュンター・ヴァントを思い起こさせますが、あれほどの神経質さ、緻密さはないものの、迫力は彼に匹敵するかそれ以上でしょう。

 

武骨で骨太な、彼の演奏から生まれる音は、曲の構造を解き明かしていきます。オットー・クレンペラーなどもそうでしたが、これは明らかにドイツの音!

 

クレンペラーやヴァントに比べると、もっとおおらかにも聴こえますが、しかし、その力強さは強力な意志の力を表しており、素晴らしいです。

 

 

コンヴィチュニーの演奏する「エロイカ」(1960)。エテルナ、825412。

 

 

ベートーヴェンの「エロイカ」は指揮者の性質が如実に表れる音楽(特に第1楽章)で、この曲の演奏を聴くと、指揮者の資質が見分けられるケースがあります。はたして、ざっくりいえばこの曲は3種類ほどのタイプで演奏されます。

 

第1にトスカニーニや、ムラヴィンスキー、ヘルマン・シェルヘンのような前のめりで演奏するタイプです。今日の平均的なエロイカの演奏時間は50分ほどでしょうか。しかしトスカニーニであれば40分ほど。これはベートーヴェンの指示したメトロノームに近い速度だといわれており、このタイプの演奏は曲(特に第1楽章)が強力な核爆発を見せることなります。そして多分それがベートーヴェン自身が望んだ演奏スタイルといっていいでしょう。そのように「設計」されているわけです。しかし、今日このスタイルで演奏できる指揮者は、ほとんど見なくなってしまいました。

 

第2にカラヤン、アバド、ラトル・・・一応フルトヴェングラーも含めてもいいでしょうか、遅くも早くもない標準的なテンポのタイプ。本来カラヤンの演奏とフルトヴェングラーの演奏は、同列に語れないので(テンポ以外の別の問題が持ち上がる)、カラヤン的な演奏についてだけ書きます。多分このタイプの演奏が、今日の一般的なエロイカの姿を伝えているように思います。エロイカに内在する、前進する力と、広がろうとする力を、等しく同等に扱った演奏で、破綻がありません。

 

第3に、この曲の前進する力よりも、広がる方向に力点を入れた演奏で、マーラーやブルックナーを得意とする演奏家が多いタイプです。テンシュテット、チェリビダッケ、朝比奈隆など、曲に内在する爆発力よりも造形的な立派さを強調した演奏で、そびえる山のごとくという感じになります

 

ということで前置きが長くなりましたが、コンヴィチュニーは明らかに第3のタイプで、クレンペラーなどを髣髴とさせるような立派な演奏で、地を這うような太い線の、力強い演奏です。ゲヴァントハウス管弦楽団から、芯と艶のある音色を引き出していて、男らしい迫力の演奏ながら、美しさも感じられます名演だと思います。

 

ベートーヴェンの、このレコードは東独エテルナの再販ものです(タンホイザーはオリジナル)。

 

オリジナルはV字ステレオと呼ばれるもので、高価で自分は手が出ません。しかし再販ものでも音は良いと思います。ま、ベートーヴェンの音楽であれば、演奏さえ良ければ、多少の音の悪さは関係ありませんね。

 

 

コンヴィチュニーの演奏する「さまよえるオランダ人」(1960)。ASD385-ASD387。

 

 

多分コンヴィチュニーがあまり人に知られていないのは、レコードでないと真価が分からない、しかも旧東独のエテルナでないと、などといわれてきたこともあるようです。

 

しかしワーグナーの「さまよえるオランダ人」と「タンホイザー」はエテルナ盤と同時にHMV盤が存在し、これは愛好されています(HMVのほうが高価です。個人的にタンホイザーは諦めました)。しかし、エテルナかHMVのどちらが、本当のオリジナルかは、自分には分かりませんね

 

このHMV盤の音は、ビーチャム盤などでもそうでしたが、高音に輝きがあり、どの音もはっきりくっきり聴こえてくる特徴がありますその分いくらか音が薄っぺらい気もするといえば、しますね。エテルナのほうは音の輪郭線は弱いですが、音の構造が奥行きを伴ってきて聴こえる良さがあり、重厚です。ここらにも作っている国の特徴が出ているように思います。

 

マイスタージンガーのところでも書きましたが、HMVのレコードは名誉や栄光を気にする、英国人の音、それに比べるとエテルナのレコードは、実質と現実的なものを優先する、ドイツの音、といって良いと思います。そういう意味では、コンヴィチュニーはエテルナの音があっているのかもしれません。

 

ここでは根っからのドイツ風の演奏である、コンヴィチュニーの音をHMV流の輝きの多い音にしていると思います。しかしこれはこれで魅力的で、音にかなりの鋭さが出ています。

 

演奏はコンヴィチュニーらしい大きなスケールのもので、やや野暮ったいかもしれないですが迫力は十分です。

 

ワーグナーのオペラにおいて「タンホイザー」は彼の人生の主題となった、「女性の自己犠牲による、愛欲からの脱却」というテーマが初めて明確になった作品です。物語もそれなりによくまとまっており、不満はありませんそれに比べると「さまよえるオランダ人」の脚本は、ややワーグナー自身が「救われたい」という欲が出すぎているという感じは否めないという印象を、自分は持っています。

 

しかし改めてこの曲を聴くと、その音楽の素晴らしさは間違いがなく、憂鬱で陰気な印象ながらその底辺に流れているワーグナーの持っている土着的で濃い味わいの音楽などは、本当に素晴らしいですね。

 

 

コンヴィチュニーみたいな良い指揮者を、評論家などはもっと紹介すべきじゃないかな、と思いますよ。非常にもったいないことです。