主にスイスでキャリアを築いたといわれる、ルーマニアの指揮者、オットー・アッカーマン(1909-1960)。
彼は「マイクログルーヴからデジタルへ」(岡俊雄著、ラジオ技術社)という著作によると「シュトラウスとレハールのオペレッタのスペシャリスト」だったそうです。さらに彼の録音したものは、「モノーラル時代のオペレッタレコードの傑作」とあり、どうしても集めたくなりました。
15歳でルーマニアの王立歌劇場でデビューしたそうですから、早熟した人物だったのでしょうか。セルに師事したそうですが、コンパクトな演奏は確かに幾分セルの影響もあるといえるのかもしれません。しかし、彼の演奏はもっと情緒的で、感情に溢れるものです。
1950年代に彼はシュワルツコップ、ゲッダ、クンツなどの一流キャストと共に5つのオペレッタをコロンビア・レコードに録音したそうです。「ジプシー男爵」、「ヴェネチアの一夜」、「ウィーン気質」、「メリー・ウィドウ」、「ほほえみの国」です。
J・シュトラウス2世の「ジプシー男爵」(1954)。33CX1329、33CX1330。
代表作である、「こうもり」の作曲がわずか42日だったそうですが、J・シュトラウスはこの「ジプシー男爵」を2年もかけて作曲しており、密度が高い音楽になっています。舞台もハンガリーになっていて、土着的な哀愁溢れる感情が表出される音楽となっています。
アッカーマンの指揮の特徴に、その「音楽の味の濃さ」というものがあると思います。音楽は粘ることがないのに、音に染み渡る味わいは充実感があり、当時の粋な空気感も伴っていることが魅力です。
ハンガリー風の土着感が、アッカーマンの味の濃い指揮で存分に発揮されています。ワルツにのって謳われる歌は、まるで、手作りのメリー・ゴーランドに揺られているかのような雰囲気があります。
フランツ・レハールの「メリー・ウィドウ」(1953)。33CX1051、33CX1052。
J・シュトラウスの「こうもり」と並ぶオペレッタの代表曲で、レハールの代表作でもあります。「こうもり」がワルツを主体とした、ウィーンの優雅な絵巻物だとすれば、「メリー・ウィドウ」はメロディアスな、色彩的ミュージカル、といったところでしょうか。
音楽はプッチーニのそれのように甘美ですが、そこにキャバレーを思わせるようなリズミックな湧きたつ音楽が加わって、盛り上げます。また、第2幕の「ヴィリアの歌」などエキゾティックで官能的です。
このレコードはアッカーマンの代表作といって過言ではないでしょう。メリー・ウィドウの色彩感を表現するには、ステレオ録音による透明感が必要なように思えます。
しかし、アッカーマンはモノラル録音ながら、味の濃い表現で、この音楽のしっとりとした甘い感情を、心から味合わせてくれます。
フランツ・レハールの「ほほえみの国」(1953)。33CX1114、33CX1115。
レハールの代表作の1つです。ウィーンと中国の北京を舞台にした音楽です。アッカーマンのオペレッタはとりあえず「ジプシー男爵」、「メリー・ウィドウ」と、この「ほほえみの国」の3つを揃えましたが、個人的にアッカーマンの演奏で一番良かったのはこの「ほほえみの国」でした。
この曲の前奏曲はとても美しいですが、アッカーマンの指揮は当時の雰囲気満点に、濃厚で流れの良い、子気味良い音楽に仕上げています。聴いていると、20世紀半ばにタイムトリップしたかのような気になります。本当に美しく、心から満足できます。
レコードでないとこの雰囲気は出ないでしょう。
全体に、黄昏のような哀愁に満ちたこの曲を、彼は最後まで味わい深く聴かせてくれます。
あまり演奏されない曲ですが、音楽自体も本当に素晴らしいです。



