ベートーヴェンを聴こう。 |  ヒマジンノ国

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今日はいわずとも知れたベートーヴェンのことを少し書いていきます。

ベートーヴェン・・・うーん、聞きなれた言葉です。

このブログをお読みの皆さんで、クラシック音楽を知らなくとも、その名前ぐらいは聞いたことがあると思います。音楽による聖人である「楽聖」などとも呼ばれます。やや全盛期を過ぎたとはいえ、まさに世界中で今なお「史上最高の作曲家」の名をほしいままにしている彼。作曲家中の作曲家であり、音楽家中の音楽家であります。

しかしまあ・・・よくよく考えてみると、彼は本当に「史上最高の作曲家、音楽家」なんでしょうか?ドイツには彼の先輩でバッハがいますが、彼も相当な偉大さなのでは・・・?時代が進めばより進化した音楽家も出てきますしね。
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バッハの作品の量は膨大で内容も深く、バロックという音楽のジャンルには収まりきらないものがあります。器楽的な作品の安定感は抜群であり、ミサ曲や受難曲の深さは最早ロマン派のレベル・・・といっても過言ではないでしょう。それでもなお世間はベートーヴェンを上に置く人が多いのは何故でしょうか?

ポピュラリティーの問題もありますが、ベートーヴェンの場合、その音楽は極めて哲学的であり、それを純粋に器楽で書き切ったことがまず挙げられましょう。本来音楽はムード、リズム、気分などぐらいしか表現できない芸術のジャンルだと思われていました。ところがベートーヴェンはこれを覆してしまったというわけです。

彼の書く、動機主題を駆使して、論理的に繰り広げられる音楽は限りなく「言語」の領域に近づいていったということです。本来なら音楽だけで分かるように表現された作品は「絶対音楽」と呼ばれて、言語的な補足性を持つ「標題音楽」とは区別されます。

しかし彼の作曲した交響曲9番を聴きますと、音楽だけで表現されているにも関わらず、明らかに第1楽章は「闘争」であり、第2楽章は「逃避」、第3楽章は「安息」を表現していると思えます。そして前3楽章の主題をレチタティーヴォで否定したのち現れる歓喜の主題は「喜び」の表現です。

彼の人生の始まりは・・・まさに「闘争」で始まりました。しかしそれに疲れ、彼は「逃避」を始めるのです。美しい純白の花園を思わせる変奏曲形式のアダージョで彼は憩い、まどろみますが、それは怠惰なのかもしれません。ゆえに警告を発せられ、我に目覚めるベートーヴェン。

本当に人生に必要なものは何か・・・?「闘争」?、いや違う。「逃避」?、はたまた「安息」?・・・それでもない。本当に必要なものは「喜び」、そう「喜び」なのです。人生の道程を自覚し、確信に満ちた表現で遂に彼は音楽でもって、「歓喜そのもの」を表現するのでした。

第9を聴くとその工程が手に取るように分かります。

そして、人声による合唱を導く作品の過程を踏まえれば、彼の作曲の水準は「言葉」と単に「音」であることの間にある、空白領域を満たす、高度な音楽表現であることが自覚されます。バッハの器楽曲にも深い内容がありますが、ベートーヴェン程明確な表現の水準には達していません。ここがバッハとベートーヴェンの差の一つかと思われます。

もう一点、ベートーヴェンが偉大だといわれる理由を上げましょう。それは晩年の至高の高みにある作品群に顕著です。交響曲9番「合唱付き」、「ミサ・ソレムニス」、ピアノソナタ30・31・32番のいわゆる三大ソナタ、弦楽四重奏13・14・15・16番などの作品群です。ここで彼は世俗的な世界を完全に超越し、まさに「聖人」の領域に近づきつつあることが分かるのです。若いころはもっと悩みに満ちた曲を書いていた彼だったのですが・・・。

つまりベートーヴェンは1個の人間に書ける、世俗的な領域から、脱世俗的な領域まで音楽を書き切ってどこにも傑作を残した、ということです。それはこれ以上の作品は中々望めないだろう、という領域に達しています。現代でも音楽的才能がある人はいますが、ここまで超越的な人はまずいません。結局「音楽表現の完成形」の理想を彼は書き残し、このおかげで今でも多くの人達が以前と比べて、「程度の高い音楽」を楽しむことができるようになりました(バッハもそれと同じような業績があります)。そしてこれは決して大げさな表現ではなく、真実だというところに、あらゆる音楽関係者が越えられない壁があるのです(バッハを除いて)。

ベートーヴェンという存在は明らかに一個の奇跡的な存在だといえましょう。
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ということで僕が最近聴いたものについて少しだけ書いておきます。彼の作品を鑑賞する際の柱となるのが「交響曲」(9曲)、「ピアノソナタ」(32曲)、「弦楽四重奏」(16曲)という3つのジャンルですが、そのCDについてです。



フェリックス・ワインガルトナーによる「交響曲全集」です。CD5枚組。
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歴史的な指揮者フェリックス・ワインガルトナー(1863-1942)によるベートーヴェンの交響曲全集です。実はこの全集が歴史上初の楽聖の交響曲全集ということです。そのために録音は古く、全て1930年代のスタジオ録音になります。ただ音質は悪くなく、聴きやすかったです。

演奏は19世紀由来のヨーロッパの教養人らしい魅力に溢れたもので、流麗で生気があり、みずみずしいです。どの曲も現代に聴くベートーヴェン像とは異なり、演奏家個人の眼で見た内容があります。決して角を立てず、うるさくしないのですが物足りないことがありません。

流麗な表現は「田園」においてはのびやかで、艶のあるうたを歌い、「エロイカ」でも滑らかな美しさを表出していきます。第9のコーラスなども現代には決してない歌わせ方で、まろやかで趣味良く聴こえます。現代のメカニックな演奏とは一味も二味も違う演奏がそろっていました。



次は「弦楽四重奏全集」です。演奏はアルバン・ベルグ・カルテットです。CD7枚組。
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近代の名カルテットによる、定番のごとき全集です。しかし僕は昔から弦楽四重奏が苦手でして、ベートーヴェンの弦楽四重奏全集はこれが初めてのものになります。交響曲全集やピアノソナタの全集は複数所有しているのですが・・・。

滑舌が良く、シンフォニックに響く全集で、音色の虹色の移り変わり具合など素晴らしいです。傑作といわれる14番や15番など、明晰な、はっきりとした名演でしょう。ただ未だに僕はその辺りの曲になじめないのですが・・・。

個人的な好きな曲は3番や、12・16番といった明るい曲調の四重奏です。

3番の第1楽章は冒頭から優しい朝の香りがし、爽やかです。単純な曲ですが気持ちが良いです。12番は弾力と歯ごたえのある充実感ある始まりの音色が、光彩陸離たる虹色を思わせます。全体に楽しく心弾む曲調で、彼の弦楽四重奏の中では今のところ一番好きです。16番は晩年の抜けきった境地を示しながら、何事にもとらわれない融通無碍なベートーヴェンの姿があります。ここでの彼は何を考えているのか・・・ちょっと分かりませんが、そこが魅力なように思います。ああ思ったり、こう思ったり・・・一所に安穏としない彼は心の赴くままの、最晩年の心持を鼻歌交じりで歌い続けるのでした。ベートーヴェンは、この曲の作曲の翌年に、亡くなっています。



H・J・リムによる「ピアノソナタ集」(全集ではなく、全30曲、19、20番を除く)です。CD8枚組。
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韓国の女流ピアニスト、リムによる意欲的なピアノソナタ集です。非常に面白い演奏です。2011年の録音ですから、最新のものといえましょう。

各曲を順番ではなく、その内容から<英雄的思想>第26番 op.81a『告別』・第11番 op.22・第29番 op.106『ハンマークラヴィーア』、<永遠に女性的なもの>第4番 op.7・第9番 op.14-1・第10番 op.14-2・第13番 op.27-1・第14番 op.27-2『月光』、<確固たる個性の形勢>第1番 op.2-1・第2番 op.2-2・第3番 op.2-3、<自然>第25番 op.79・第15番 op.28『田園』・第22番 op.54・第21番 op.53『ワルトシュタイン』、<極端なものの衝突>第5番 op.10-1・第6番 op.10-2・第7番 op.10-3、<あきらめと受け入れ>第16番 op.31-1・第17番 op.31-2『テンペスト』・第18番 op.31-3・第28番 op.101、<永遠に女性的なもの、成熟期>第24番 op.78『テレーゼ』・第27番 op.90・第30番 op.109・第31番 op.110、<運命>第8番 op.13『悲愴』・第12番 op.26・第23番 op.57『熱情』・第32番 op.111、と分けていて、有名な曲以外にもそのテーマ性から親しみを覚えるような構成といえます。有名な曲以外は中々覚えられないのでこれは面白いなと思いました。

近年、演奏家が国際化しまして、アジアにも多くの有名演奏家が存在するようになりました。リムは日本のお隣韓国のピアニストで、ヨーロッパ人にはない感情のウェットな感触があります。ただその感情は決してべたついたものではなく、柔軟で、クリスタルのような美しいピアノの美感を伴っているので、爽やかでさえあるでしょう。

彼女は曲と一定の距離を持とうとはせず、曲の内部へと潜り込み、熱心にそ内容を「意味」から追求しようとしているようです。そこへ女性独特の荒ぶれない美意識が加わって、まさにクリスタルに輝く、みずみずしい「綺麗」な演奏が生まれました。

ベートーヴェンのピアノソナタを聴いて久しぶりに楽しかったです。

29番「ハンマークラヴィア」が中々の名演なんですね。難しい曲だと思うんですけど。男性ピアニストであれば角張っても立派に弾き切ろうというんでしょうけど、リムはスケール感が立派ながら、柔軟に意義深く弾いていくんですね。ベートーヴェンに対する並々ならぬ意欲を感じました。

他にも名演は多く、「ムーンライト・ソナタ」なんかも好きです。流麗で、輝きに満ち、みずみずしい。まさに夜空に輝く月の光を見るようです。三大ソナタなんかはもっと枯れた感じも欲しいかな、とか思いましたけど、全体を通して十分に満足できました。

演奏と音質もしっかりして、現代的なソナタ集だと思います。