ヘンリク・グレツキ |  ヒマジンノ国

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アントニ・ヴィト指揮「ヘンリク・グレツキ作品集」。ナクソス・レーベル。

 

これが結構面白いです。ヘンリク・ミコワイ・グレツキ(1933-2010)はポーランドの現代作曲家で、1993年、ポピュラー音楽のチャートに交響曲3番で登場し、その名を知らしめたといいます。30万枚以上を売り上げたとか。

 

その75万枚を売り上げたという、デイビット・ジンマンとドーン・アップショウのレコードを、僕は聴いていないんですが、今回このアントニ・ヴィトの指揮で聴いてみます。


 

ヘンリク・グレツキ、交響曲3番「悲歌のシンフォニー」。アントニ・ヴィト指揮ポーランド国立放送交響楽団。ソプラノ、ゾフィア・キラノヴィチ。1993年の録音です。

 

切実で透明な管弦楽の中で歌われる歌詞は、ゲシュタポ収容所の独房の壁に記された少女の詩。孤独な少女の心を歌います。作曲されたのが1976年ですから、現代音楽といっても構わない作品ですが、弦の静かで慰めるような響きを湛えたこの曲は、単純で平明、現代人の心を打つものがあります。

 

全3楽章ですが、曲調の変化はほとんどなく、心の静けさに満ちた音楽が奏でられます。20世紀の音楽としても、僕はこの曲の響きは、20世紀前半の名曲、サミュエル・バーバー(1910-1981)の「弦楽のためのアダージョ」とか、あるいはパウル・ヒンデミット(1895-1963)の「画家マティス」なんかを思い出させました。



 

アメリカの作曲家、サミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」は元々、名指揮者トスカニーニが紹介したことによって、世の中に広まっていたそうです。透明な、弦による、切々とした、なおかつ、現代的な響きが美しく、名曲です。ジョン・F・ケネディとかフランクリン・ルーズベルトの葬儀でも演奏されました。

 

功労者のトスカニーニは芯の強い、意思的な、音楽の線をはっきりさせた録音を残しています。それに比べると、ルーマニア出身の指揮者セリジュ・チェリビダッケは弦の透明感を透徹させて、極めてモダンな印象のする曲調に仕上げています。弦の音色にこだわりのある指揮者だけに、名演だと思います。

 

演奏はミュンヘン・フィルで1992年の録音です。

 


 

「画家マティス」もチェリビダッケで。でも僕は海賊盤でしか持ってませんが・・・。グラモフォンなどから正規盤も出ていたと思います。

 

ドイツの作曲家、ヒンデミットはヨーロッパの昔の画家からインスピレーションを得て、この曲を作曲しました。「画家マティス」とは、あの有名なアンリ・マティスではありません。15、6世紀辺りに生きていた画家、マティス・グリューネヴァルト の「イーゼンハイム祭壇画」によるインスパイアがこの曲を構成しています。この絵画は、キリストの生涯を祭壇の扉に分割して描いたものとなっているのです。ヒンデミットの曲は全3楽章で、第1楽章「天使の合唱」、第2楽章「埋葬」、第3楽章「聖アントニウスの誘惑」からなります。

 

ここでもチェリビダッケは曲の雅さを充分に発揮しながら、味わい深い演奏をしています。

 

これらの作品は決して難しい作品ではなく、マーラーやR・シュトラウスの延長線上にあると思わせます。マーラーの10番のアダージョはガラス張りの近代建築を思わせるような、モダンな響きが所々ありましたが、そうした近代の響きの初歩を感じさせます。

 

演奏はシュツットガルト放送交響楽団。録音年は不明です。

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さて、またグレツキの音楽に戻ります。

 

グレツキの音楽は響きが比較的地味ですが、渋い土俗的な印象と、現代風な洗練さが混じり合っています。その豊かな音の響きは私達の心を慰めてくれるものがあります。じっくり聴いてみるのも悪くないでしょう。



 

ヘンリク・グレツキ「サートゥン・ポルカのための小レクイエム」。1993年に作曲された作品で、2011年の録音です。アントニ・ヴィト指揮、ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団。ピアノ、アンナ・ゴレツカ。

 

 

第1楽章が美しく、モダンな静けさの中に、鐘とピアノのモノローグが断片的に、切々と孤独を歌い上げます。すると、その透明な空間に、ヴァイオリンのソロが悲痛な歌を歌いだし、その滑らかな旋律が、聴き手の心を慰めるように響くのです。この辺りの美しさは本当に素晴らしいと思います。

 

 

しかしそれも束の間、鐘の音の連打が聴き手の心を激しく揺さぶると、第2楽章は極めてショッキングに始まり、激しい、喪失の恐怖を描き出します。音楽は再び静寂を取り戻しますが、第3楽章はピアノが混じった、冷笑的なスケルツオになり、一通り人の不幸を笑い終えると、最終楽章で再び慰め深い静けさが戻ってきて、静けさと不安に満ちたこのレクイエムを結びます。

 

 

中々刺激に満ちた鎮魂歌で、心に残ります。

 

 

また、このCDには、嵐のような情熱に満ちた、二楽章形式のハープシコード・コンチェルト(ここではピアノによる)が収められていて、名曲だと思います。

 


 

ヘンリク・グレツキ交響曲2番「コペルニクス党」。1972年の作品で、2000年の録音。アントニ・ヴィト指揮、ポーランド国立放送交響楽団。ソプラノ、ゾフィア・キラノヴィチ、バリトン、アンジェイ・ドッパー、他。

 

 

ポーランドの天文学者コペルニクス生誕500年を記念して作られた曲で2楽章形式になっています。第1楽章は純粋に、現代音楽のようなつくりで、我々のあずかり知らぬコンテンポラリーなルールが大音響の、不協和音たちを支配しています。

 

 

しかしその様は、プトレマイオスの天動説を覆した、コペルニクスの観察した宇宙に存在する、大宇宙の法則のごとく聴こえ、複雑な響きは、まるで宇宙の真空で衝突する惑星であるかのようです。

 

 

第2楽章ではソプラノとバリトンの独唱が入り、第1楽章とは一転、宗教的で神秘的な美しい音楽に変わります。天国と、地球、月、星などの天体への言及を含んだ、神への祈りが歌われ、最後は光が輝くような持続音の中に静かに曲を終えます。

 

 

第2楽章は少しだけですが、19世紀末に活躍した作曲家、マーラーの作品、「復活」を思わせる趣がありました。