ムラヴィンスキーを聴く |  ヒマジンノ国

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エラートのムラヴィンスキー・ボックスから。ショスタコービッチ、交響曲5,10,12「1917年」。チャイコフスキー、交響曲5,6番。ベートーヴェン、交響曲1,3,6,7番。モーツアルト、交響曲33,39番。その他、ワーグナーなど。

 

これは、ロシアのトスカニーニといわれた、エウゲニー・ムラヴィンスキー(1903-1988)の名演集です。収められているには全てライヴ録音で、ショスタコービッチ、チャイコフスキーの交響曲は全てステレオ録音です。オーケストラは全てレニングラード・フィルハーモニー(現、ペテルブルグ・フィルハーモニー)、となります。

 

今回はムラヴィンスキーの指揮で聴いた、ショスタコービッチ10番の感想がメインです。


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まずは、このエラートのボックスは、どれもムラヴィンスキー得意の曲目ばかりで、聴きごたえがあり、名演の名に恥じないものばかり、といっておきましょう。

 

シャープで鋭い音作りは、無駄な物を徹底的にそぎ落としながら、激しいアタックで、強烈な印象を人々の心に刻み込みます。確かにトスカニーニを髣髴とさせる指揮スタイルですが、トスカニーニほど淡白ではありません。

 

トスカニーニがどの曲の演奏も一定のスタイルで、曲調を叩きつけながら演奏するのに対し、ムラヴィンスキーは曲の意味をもっと文学的に解しており、演奏する曲ごとに印象を変えてきます。両者とも、一気呵成に前のめり気味に進行する演奏スタイルは良く似ていますが、トスカニーニの演奏が曲以外の指揮者の気迫や情熱を感じさせるのに対し、ムラヴィンスキーは曲そのものに内容を語らせようとするのです。

 

個人的にはこの指揮者のベートーヴェン、ショスタコービッチ、チャイコフスキーの解釈は、数多くの指揮者たちの中で最も優れた部類に入ると認識しています。

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さて、今回、僕のこのボックスでの一番の目的は、ショスタコービッチの交響曲10番をステレオ録音で聴いてみることでした。これは1976年の録音で、聴後の印象は悪くありませんが、思っていたより感動はしませんでした。むしろ5番のほうが鋭い音作りで、名演だと思いました。

 

ムラヴィンスキーのショスタコービッチ10番には同年同月のモノラル録音も残っていて、僕はCDで聴く限り、こちらを押します。

 

 

ステレオ盤は立体的に響きますが、やや全体のまとまりに欠けるように聴こえます。それに比べるとモノラル盤は音は悪いですが、全体のまとまりが良く、深みがあるように聴こえました。まあ、これは録音のせいでそう聴こえてしまうのかもしれません。

 

ベートーヴェンとかショスタコーヴィッチのように、曲が、必ずしも音の音彩を生かすのでなく、音楽を、より観念的に、あるいは記号的にとらえた作曲家の場合、全体のまとまりのあるモノラル録音のほうが名演に聴こえる場合があります。つまり、彼らの観念的な「いいたいこと」が圧縮されて、まとまった、団子状の音になっているときのほうが、分かりやすい場合があるようです。

 

実際、このボックスの中では1968年に録音されたベートーヴェンの「エロイカ」(交響曲3番)が含まれていますが、モノラル録音ながら、ちょっと異質に響きます。ややステレオっぽい、というのですか。僕は、かつてビクターから出ていた同じ音源のディスクを所有していますが、同じ音源ながら全然感動の質が違うのです。本来ならこの68年のエロイカは完全無欠の名演なのですが、今回改めて聴いて、昔聴いたのと別の演奏かと思ってしまうほど、リマスタリングに問題ありだと思いました。


 

はっきりいって、このエラート・ボックスでの1968年の「エロイカ」はあんまり良く聴こえません。音が散りぎみで、せっかくのムラヴィンスキーの妙技が薄められています。良くいえば立体的、とでもいうのですか。それに比べると、かつてのビクター盤は音が悪く、団子状の音ですが、徹底的に圧縮されていく「エロイカ」の様子がちゃんと収められています。鋭く激しい、クレッシェンドにも似たアタックを繰り返しながら、猛烈に進んでいくムラヴィンスキー。第一楽章のコーダで見せる激しい核爆発の迫力も大迫力で、ビクター盤を聴いていると、スケール感がトスカニーニを上回っているのが良く分かります。

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ショスタコービッチの10番は純粋にステレオとモノラルとの比較ですが、もしかしたら、演奏そのものの質はそう変わらないのかもしれません。あるいはリマスタリングの問題もあるのでしょうか?しかし、いずれにせよ、CDで聴く限り、人によって感想は違うかもしれませんが、僕はモノラル盤のほうが名演だと感じました。

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しかし、このショスタコービッチの10番の内容そのものは恐るべきものがあります。異常にグロテスクな内容にもかかわらず、人間の精神を高揚させる何かがあり、特に第一楽章ですが、シニカルで悲劇的、あるいは恫喝に似た何かが曲の表面を覆っていきます。

 

ですが、ショスタコービッチの精神の強さは異常で、どんなに握りつぶされた人生の悲劇があろうとも、そこから異様なほど饒舌に、希望と残されたものの望みを語りだすのです。その迫力と、精神の高揚は言葉にするのが難しく、非常に感動的であることを、今回は指摘しておきましょう。

 

最後に、ステレオ録音なら僕はむしろ、ルドルフ・バルシャイの演奏を聴きます。繊細できめの細かい音質、演奏も曲の意味が良く伝わってきて、名演だと思います。