今日は予定してなかったことを書こうと思います。
他人のブログを読んでいたら、ワーグナーのことが書いてあって面白かったもので・・・。ちょっとほだされたというか・・・。考えが違う人の意見でも、本当に興味があって書いてある人のものは、とにかく面白いと・・・そう思います。でもこういうのは本当に好きじゃない人には分からないのでしょうね・・・。
ということで・・・今回は僕も、昔夢中になって聴いていた、ワーグナーの音源について書いています。
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、「ワーグナー・ガラ」。
ハンス・クナッパーツブッシュが1950年代後半にステレオ録音したワーグナー名場面集です。内容は、ローエングリンから「エルザの夢」、ニュルンベルグのマイスタージンガーからザックスによる、夕べと朝の両モノローグ。トリスタンとイゾルデから第一幕第三場からの冒頭と、イゾルデ「愛の死」。さまよえるオランダ人から第一幕、オランダ人のモノローグ(第二番のアリア)。その他。
クナッパーツブッシュ・・・いわばワーグナー演奏の大家ですが・・・このアルバムは過去の大家の演奏を聴くのには中々豪華だと思います。トリスタンについては第一幕、三場初めから、20分以上入ってます。他の長いものは12分ぐらいで、他の演奏は平均6,7分というところでしょうか。デッカの録音で、全体に音質はまあまあ。
初めに入っている・・・美しい「エルザの夢」・・・の独唱はフラグスタートです。ひんやりとした静かな空間で、恍惚として歌うエルザ・・・夢のお告げから、まだ見ぬ白鳥の騎士、ローエングリンへの思慕の感情を歌います。
6分半あまりの演奏ですが、クナッパーツブッシュは力まない奥行きのある演奏で、ロマンティックなヨーロッパ中世の雰囲気を醸し出します。そしてクナ(クナッパーツブッシュのこと)によって管弦楽で、余韻をもって歌われる、水晶のような「聖杯」のテーマは、聴くものに恍惚の極みとなって、この世ならぬ気分をもたらします。
この辺りは本当に「ローエングリン」を聴く喜びを実感できるところです。清潔感と騎士道のヘロイズムが一体となった本物の感情・・・。
クナの奏する「聖杯」のテーマは決して硬い音質ではなく、柔らかい質感で、それがこなれた感じを出しています。フラグスタートもビルギット・二ルソンのようにヘロイズムを前面に押し出すことなく、奥ゆかしい深みのある歌い方をしています。クナは「ローエングリン」の第一幕への前奏曲をウエストミンスターへステレオ録音しており、音質はちょっとしまりに欠けますが、こなれた丸みのある演奏で、美しいです。
ニュルンベルグのマイスタージンガーの両モノローグもまさに詩的な一編になっています。・・・僕はニュルンベルグのマイスタージンガーほど香りの強い音楽を知りません。長い四時間半に及ぶこの作品を聴くと、一体何度ニュルンベルグの町の、信じられないような馥郁とする香りを、音楽の中から、嗅ぐことでしょう。
そしてその香りを特に実感する瞬間こそ、まさにこの両モノローグなのです。
一見乱暴とも思える、全編が音楽で満たされたワーグナーの楽劇での、陶酔的な効能・・・。この両モノローグは地を這うようなワーグナー独特の力強い歌唱に支えられて、オーケストラの官能的な音色がここぞとばかりに生きます。土気のある街の雰囲気、窓の外から漂う花の香り。全曲を聴いていると、本当に自分まで16世紀中ごろのニュルンベルグにいるような気になります。
このクナッパーツブッシュのステレオ録音ほど土着の匂いのする演奏も少ないのではないでしょうか。独唱はジョージ・ロンドンです。全曲盤だとカラヤンのドレスデン盤なんかを聴きますが、断然香りが弱いのが残念です。演奏そのものは名演だとは思いますが・・・。
次はさまよえるオランダ人から、オランダ人のモノローグです。これは、呪われたおどろおどろしい、幽霊船に乗るオランダ人の声を借りて語る、ワーグナーのパリ時代の声が聴こえる、嘆きの歌です。
初めの大人しい嘆き節が過ぎると、オランダ人は、力強くオールを漕ぐようなテーマに乗って、自己に振り注いだ不幸を、力こぶを一杯にして歌い上げていきます。
これもクナッパーツブッシュの超弩級の迫力を感じさせる一編です。地を這うような力強い迫力と、渋いですが剃刀のような鋭い管楽器の威力に支えられて、独唱者のジョージ・ロンドンは海上をゆっくりと駆けるように、この嘆き節を歌い上げるのです。
トリスタンとイゾルデも名演です。第一幕の第三場は、イゾルデがトリスタンを愛することになった理由が述べられる、従者ブランゲーネとの長い会話部分です。初めて聴く人には長くて退屈な、ワーグナー鑑賞の関門となる部分の一つでしょう。クナは音楽を適度なスローテンポで、文学的なまでのワーグナーの管弦楽を解きほぐすように演奏していきます。
祈りのようなイゾルデの「愛の死」も、クナッパーツブッシュの巨大な伴奏の爆発に支えられて、この不健康な性愛のカタルシスを充分表現しています。歌唱はビルギット・二ルソン、グレース・ホフマンです。

