ウロボロス |  ヒマジンノ国

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長谷磨憲くんち


E.R.エディスンによるファンタジー小説、「ウロボロス」。初版は1922年。邦訳は山崎淳。創元推理文庫。

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アメリカのファンタジー・ブームを作った立役者といわれる編集者のリン・カーター(1930-1988)が絶賛した、イギリスの作家E.R.エディスン(1882-1945)のファンタジー小説「ウロボロス」。ウロボロスとは古代の象形イメージの一つで、自らの尻尾を噛む大蛇の姿をいう。それは「無限」、あるいは「不老不死」などをイメージする。


長谷磨憲くんち

この本のタイトル通り、作者はこの小説を循環プロット形式により、物語の結末とその始めを結びつけた。

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物語は水星を二分する、修羅国(デモンランド)と魔女国(ウィッチランド)の激しい戦乱を描く。密度の濃い内容が魅力だ。僕がこの本に興味を持ったのは前出のリン・カーターによる本の紹介からで、彼の著書「ファンタジーの歴史」(中村融訳、東京創元社)の中に「ウロボロス」は次のように紹介されている。


<エディスンの生涯は不分明なままであり、彼について書かれた資料はほとんどない。・・・(中略)・・・とはいえ、四十歳のとき、瞠目すべきファンタジー叙事詩を発表し、突如として世界の注目を集めるにいたった。同書はジャンルの金字塔として今日でも屹立している。史上最高のファンタジー小説といっても過言ではないし、空想文学において五指を屈する傑作のひとつであることはまちがいない。>


・・・英国詩人レシンガムは夢の中で水星を旅する。そしてその夢の中で彼の肩に雨燕がとまり、次のように告げた。「地球の子よ。」・・・「夢の国に居るとは思いはすまいな。」・・・。


そして雨燕はその日が、修羅国のジャス王の誕生日であることを告げるのだった。

水星世界の覇者たらんとする魔女国の王、ゴライス十一世と修羅国の諍いが起こす戦乱の発端。新たに戴冠したゴライス十二世は前王、ゴライス十一世の復讐をとげるべく、カルシー城から巨大な魔物を召喚し、ジャス王の弟であり仇である、ゴールドリィ・ブラスコをさらわせたのであった。


次から次へと起こる戦いの数々はこれを戦記と呼ばせるのにふさわしい内容だと思う。地球上の現代にも過去にも当てはまらないような、不思議な二つの国が仇敵となって密度の濃い内容が描かれている。


<この宿敵同士のあいだに勃発した戦争が、この現代版散文「イーリアス」の主題だ。同書に関するエッセイのなかでオーヴィル・プレスコットが指摘したように、これほどの戦乱はそれまで記録されたことがなかった。>


とはリン・カーターの弁だが、トールキンなどのファンタジーとは違う、完全なオリジナルな世界で物語は繰り広げられる。それはどちらかといえば、人生の訓戒になるように書かれた内容ではなく、純粋な物語として描かれている。ファンタジーの多くがその幻想による比喩を多用することによって、実際の人生への寓意を作り出すことに苦心する。しかしこの作品にそういう要素は少ないといえる。そのためこの作品を読んだからといって、特に自分の人生に何か影響があるというわけでもなく、その描かれた世界を楽しむべき小説だと思う。


しかし、そのあたりがトールキンの小説との差で、このエディスンなどよりもトールキンの文学が広く世間に支持される要因は、正にそこにあると思う。リン・カーターの熱い支持があるとはいえ、ファンタジー・ジャンルの最高峰というべきかはやや疑問が残る。


ただそれでも内容は大変魅力的で、面白い。間延びしもせず、日本語訳は格調高く、この文庫本は素晴らしかった。