最近オペラの録音を聴くことが多いため、ヘルベルト・フォン・カラヤンの演奏を聴く機会が増えてます。彼の場合、オペラの演奏は良いものがけっこう揃っているようで、デッカに入れた有名な「オテロ」、あるいは二種類のステレオ録音による「薔薇の騎士」なんかは掛け値なしの歴史的名盤でしょう。
他にも最近は「ローエングリン」、「マイスタージンガー」、「トゥーランドット」なんかを聴いて、感心しきり。過去には「マダム・バタフライ」や「カルメン」、あるいは「リング」なんかも聴いてきました。
そこで久しぶりにカラヤンの交響曲の演奏を見直してみようかと思い、ベートーヴェンの交響曲全集を入手しました。本当にカラヤンの交響曲の録音を聴くのなんて何年ぶりでしょうかね。かつてベートーヴェンの4番と7番がカップリングされたCDを聴いてゲンナリした記憶のある僕としては、今回はちょっとしたチャレンジです。
正直にいえば僕はカラヤンの交響曲の演奏はあんまり良くない印象があります。名盤といわれている1988年録音のブルックナー8番や82年録音のマーラー9番なんかも聴いてきましたが・・・それほど惹かれてこなかったものです。
結局彼の場合、交響曲の演奏になるとやっつけ仕事になりがち・・・ということが多いように思えます。それでも前述のブルックナーとかマーラーは意欲的な演奏で、確かに名演といっても良いものではあるとは思いますけども。
カラヤンの場合、曲を内部から支える情熱が少ないため、交響曲の場合は特に、造形が弱くなりがちのようです。またそれを補おうとして彼はよく力むんですが、そうなってくると今度はとって付けたような表情が増え、結果としてどうしても不自然な感じが増えていきます。
この「内面からの情熱の不足」は、カラヤンの場合非常に目立つもので、そのことについて一概に良いとか悪いとかいうことは中々いいずらいところではあります。ただそれが彼の個性ということはいえるでしょう。
たとえば作曲家の柴田南雄はマーラーの第9の演奏についてカラヤンとバーンスタインの演奏を比較して、次のようにいっています。
「・・・(中略)・・・同じ場所のカラヤンの演奏はもちろん並外れて美しいものだが、血の共感からくる徹底した思い入れは感じられない。」
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今回買ったものは彼のベートーヴェン全集のうち4回目のもの・・・1982年から85年にかけて作られた、彼自身ベートーヴェンの交響曲全集としては最後に作った全集です。オーケストラはベルリン・フィルハーモニック。
で・・・総評は・・・といえば・・・。
正直昔と聴いた時と印象はあんまり変わりませんでした。
ちょっとがっかりかな。
しかし、この全集が発売された時の「レコード芸術」誌の月評では特選盤扱いで、評論家の小石忠男は次のようにいっています。
「要するに今回のカラヤン盤は、ひとりカラヤンのみならず、現代のベートーヴェン演奏の総決算と位置づけても過言ではない。カラヤンにおいてベートーヴェンの音楽は全き精神と肉体のバランスを得たと思われるからである。」と絶賛しています。
まあ・・・そうかな・・・。プロの批評家がいうんだから・・・。
ただまあ・・・それでも、やはりムード的に聴き流していると気にはなりませんが、真剣に音楽と向き合おうとすると、やや造形が弱いのが気になってはきます。
カラヤンはトスカニーニを尊敬していたそうです。つまり彼の演奏の源流の一つはトスカニーニの演奏にあるというわけですが・・・。比較のために両者の演奏を聴いてみましたが、トスカニーニは激しすぎる情熱で曲の造形には一部の隙もないのが驚きです。それに比べるとカラヤンはあまり覇気がないように聴こえて仕方ありません。
しかしカラヤンはおそらくわざとそうしているんでしょう。情動による激しい感動がない代わりに、流麗で滑らか、なおかつスマートなベートーヴェンをめざしているようです。たまに聴く分には面白いといえば面白いかも。
比較的良かったのはエロイカと第5かな・・・。あと田園も悪くない。しかし7番や4番なんかはややチンチクリン(?)な感じ。第9は音が棒鳴りで、音の処理もカラヤンのオペラ演奏からしたら比べ物にならないぐらい甘いという感じを受けました。
やっぱり内容は薄いなあ・・・という感想を今回も持ちました。
ただ、僕も年をとったせいか、思ってたより楽しく聴けたのが新しい自分に対する発見でしょうかね。この全集も細かいことさえ気にしなければ、相当美麗な演奏であることには間違いがありません。録音は優秀で、黄金色のサウンドは健在。おまけにミサ・ソレムニスや序曲、コンチェルトまで入ってますから、お得でしょう。
僕自身そんなにカラヤンを低く評価するつもりはないんですが、今回はこれぐらいで・・・。
